空の玄関口・羽田空港と都心をつなぐ東京モノレールは,
日本各地と世界の架け橋ともいえる重要な社会インフラである。
当社の技術者たちも携わり,精魂込めてつくり上げられた。
半世紀に近い歳月を経て,現在耐震補強工事が進められている。
世界初の営業線実用化
東京モノレール羽田線は,浜松町と羽田空港の延長13.2kmを15分で結ぶ直通路線として1964年9月に開通した。東京オリンピックの開幕に合わせ,当時最先端の技術を投入して短工期で施工。橋梁部には,施工実績の少なかったディビダーク工法を使い,トンネル部には国内初の沈埋工法が採用された。当社は,沈埋函沈設を含む2つの工区とディビダーク工法を用いた橋脚全21基,軌道桁製作,浜松町ターミナルビル建設などを担当。営業線としてモノレール形式を実用化するのはこれが世界初だった。以後,次々と駅を開業し,2002年4月にJR東日本グループの一員となる。一昨年には路線名を羽田空港線に変更した。現在では空港利用客や通勤客など1日13万人あまり(2012年8月)の乗降客を数える。
完成から40余年が経った2006年,東京モノレールの耐震補強工事が開始された。2005年に行った耐震診断の結果に基づき,優先度の高い箇所から実施している。そのなかで,当社が施工を進めた「海上部T型支柱杭(PC)耐震補強試験施工」が2012年4月に完了した。京浜運河内にある4つの橋脚基礎に耐震補強を施す工事で,“試験施工”という名称ながら,実際の橋脚基礎に耐震補強を施している。
【工事概要】
海上部T型支柱杭(PC)
耐震補強試験施工
- 場所:
- 東京都品川区
- 原発注者:
- 東京モノレール
- 発注者:
- モノレールエンジニアリング
- 設計:
- 当社土木設計本部,東京土木支店土木部
- 規模:
- 群杭部耐震補強工事4基 鋼殻製作・設置工240t 地盤改良5,295m3 補強コンクリート896m3 アラミド補強30m2
- 工期:
- 2011年3月~2012年4月
(東京土木支店施工)
日々の作業の積み重ね
「道路橋では,当初の設計から車両の積載量や交通量が増えて橋の劣化が深刻化するケースが見られますが,モノレールは車体の軽量化も進んでいます。もうすぐ建設から50年が経ちますが,激しい損傷は見られません」というのは,工事を担当する東京土木支店東海工事事務所の芝田正則所長。東日本大震災でも,橋梁に影響は見られなかったという。芝田所長は,2006年から東京モノレールの耐震補強工事を担当している。2009年には,ディビダーク工法で当社が施工したモノレール橋脚耐震補強も担当し,現在の工事が5現場目になる。「橋梁の維持管理には,日々の作業の積み重ねが大切」と話す芝田所長は,事業者の修繕担当者が丁寧に軌道の修繕を施す姿を目の当たりにしてきた。修繕作業は路線の営業が終わった深夜に毎日のように行われる。日常の地道な管理が安全な運行を支えている。
現場でも営業線に影響を及ぼす可能性のある作業は夜間に行われ,深夜1時から4時までの3時間で作業が進められる。羽田空港の航行状況によっては深夜にモノレールが臨時運行することもあり,予定通り作業できないこともある。海上施工には海上保安部の許可が必要で,厳しい施工条件の下,作業を続けてきた。
新たな技術で次世代へ
芝田所長がこれまでにモノレールの現場で施工してきたのは,繊維シートを橋脚に巻きつけて補強する一般的な耐震補強が主だった。だが,今回の工事は運河内の基礎部分の耐震補強。水中の群杭基礎に対する耐震補強は前例がない。事業者にとってもこの基礎補強の施工方法が大きな課題だったという。
これを受けて当社が提案したのが「鋼殻補強コンクリート地盤改良工法」。これは,杭基礎を鋼殻とコンクリートで補強し,地中部を地盤改良して耐震性能を向上させる新工法で,軽量高流動コンクリートや高圧噴射撹拌地盤改良などの技術を組み合わせたのが特徴だ。「一つひとつの技術はこれまでにも使われてきたもので,珍しいものではありません。ただ,この組合わせと耐震補強への適用がこれまでになかったのです」。
JR東日本と東京モノレール監修の下,技術研究所や土木設計本部,土木管理本部など全社を挙げて技術開発が行われた。建設当時最先端の技術を投入した構造物を維持するために,現在の技術者たちが知見を注ぎ込んだ。施工にあたっては,基礎補強がメインであるため,水中・地中部分は,目視で確認ができない。杭基礎が健全という前提にたたず,ボーリングを行って磁気探査を実施する杭長調査で,杭の健全性を確認している。工事は順調に進み,無事完成。十分な耐震性能を実現した。
引き続き,現在行われているのが「海上部T型支柱杭(PC)耐震補強工事」である。芝田所長が工事を担当し,来年3月に完了する見込みだ。「羽田空港が拡張するにつれ,東京モノレールの重要性が増しています。事業者の安全な運行をサポートできるように,工事を着実に進めたい」。建設当時,技術者たちが最新の工法で施工した東京モノレール。より永く使い継ぐために,現在の技術者も奮闘を続けている。