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KAJIMAダイジェスト

戦略的な維持管理計画

橋梁維持管理の需要が高まる一方,予算は限られている。
橋梁を永く使い続けるためには,戦略的な維持管理計画の構築が必要だ。
計画策定に効果的なシステムと,先進的な青森県の取組みを紹介する。

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計画策定とBMStar

 

橋梁の維持管理では,予算制約があるなかで,「いつ,どの橋に,どんな対策を」を行えば,効率的に橋梁群としての維持管理が実行できるか,中長期的視点で計画を立てることが重要だ。現在,国土交通省は,“維持管理時代”への対策として全国の自治体に橋梁の長寿命化修繕計画を策定するよう求めている。計画の策定では膨大なデータを扱い,LCCを算定する必要があり,迅速に戦略を立てるにはITの導入が不可欠である。

こうしたなか,計画策定を支援するシステムとして数々の「ブリッジマネジメントシステム:BMS」が開発されてきた。2005年,当社は青森県から「青森県橋梁アセットマネジメントシステム:A-BMS」の開発業務を受託した。システム開発にあたっては,橋梁点検や橋梁補修工事に永年携わってきた民間技術者の協力を得て,橋梁管理者の視点,点検技術者の視点,補修技術者の視点などを幅広く盛り込み,数あるBMSの中でも点検データを最大限に活用し,橋梁の実態と予算制約に則した事業計画を策定できる国内初のシステムが完成した。

A-BMSは,点検支援システムとマネジメントシステムからなり,点検現場では点検支援システムを用いて,国土交通省橋梁定期点検要領(案)に準拠した損傷情報や劣化予測,LCC算定に必要なデータを効率よく収集する。点検完了後,それらのデータをマネジメントシステムに吸い上げることで,点検調書の作成から,LCC算定,予算シミュレーション,中期事業計画の策定と事業の進捗管理まで行う。生の点検データを使い,劣化予測式を自動修正することで橋梁の実態をシステムに反映するので,予算シミュレーションや中期事業計画策定まで,現実に即した「使える予算・工事計画」を得られることが強みだ。

2007年,完成度の高いA-BMSを全国の橋梁管理者に利用してほしいという青森県の意向を受け,橋梁技術者やプログラム開発会社,運用支援コンサルタントなどの各専門分野のエキスパートを集めたコンソーシアム「BMSコンソーシアム」が結成された。当社もプログラム開発会社として一役を担い,システムに様々な改良を加えて進化させ,新たに「BMStar」として普及させることになった。BMStarは現在では全国約20の自治体が採用しており,BMSコンソーシアムは,今後もさらなる進化を図り,橋梁維持管理に大きく貢献していきたいと考えている。

図:マネジメントフロー

BMStar画面サンプル

画像:【予算シミュレーション】予算制約があるなかで,橋梁群のLCC低減に最も効果的な長期予算配分をシミュレーション

【予算シミュレーション】予算制約があるなかで,橋梁群のLCC低減に最も効果的な長期予算配分をシミュレーション

画像:【中期事業計画】どの橋に,いつ,どんな工事をすればいいのか,工事リストを出力

【中期事業計画】どの橋に,いつ,どんな工事をすればいいのか,工事リストを出力

青森県橋梁アセットマネジメントの取組みについて

写真:城前俊浩 主幹

青森県 
県土整備部 道路課
橋梁・アセット推進グループ
城前俊浩 主幹 

青森県では高度成長後期に建設された橋梁の近い将来における大量更新時代が想定されることから,橋梁の維持管理を計画的に行うため,アセットマネジメントの手法を導入し,長期的な視点から橋梁を効率的・効果的に管理し,維持更新コストの最小化・平準化を図っていく取組みを実施している。

アセットマネジメントとは道路を資産としてとらえ,構造物全体の状態を定量的に把握・評価し,中・長期的な予測を行うとともに,予算制約の下で,いつどのような対策をどこに行うのが最適であるかを決定できる総合的なマネジメントである。

これまでの維持管理は「傷んでから直すまたは作り替える」という対症療法的なものであったが,これからは「傷む前に直して,できる限り長く使う」という予防保全的なものとし,将来にわたる維持更新コスト(ライフサイクルコスト)を最小化することを目指している。「いつ,どの橋梁に,どのような対策が必要か」をアセットマネジメントにより的確に判断し,橋梁の長寿命化を図り,将来にわたる維持更新コストの削減を図るものである。

本県では平成16年度から平成17年度にかけて鹿島建設に委託し,「青森県橋梁アセットマネジメントシステム(ITシステム,マニュアル等)」を構築した。そして,平成18年度,全国に先駆けて5ヶ年のアクションプランを策定した。その内容は①従来の事後保全から予防保全に大きく舵を切り,②最初の5年間に集中投資を行い,橋梁補修や耐震補強の対策を集中的に実施して橋梁の健全度を回復させる, ③平成23年度以降は予防保全を中心とした維持管理を行うことで,年間予算の縮減が可能となり,トータルでの維持管理費用の大幅な削減を実現する,というものであった。

この度,平成24年5月に,6年間の実績と二巡目の橋梁定期点検を踏まえて長寿命化修繕計画の見直しを行い,新プランを発表した。その内容は,①5年間の集中投資の効果があり, ②今後の予算は当初の予定よりも更に縮減可能であるということを確認した。

一方,当初よりシステムの構築のみならず,システム運用を実行・支援する「運用体制」での推進体制も組織した。工事を実施する出先機関に「青森県橋梁アセットマネジメントチーム」を設置し,重点的に橋梁補修事業に取り組んでいる。さらにアセットマネジメントに携わる「人財」の教育が必要と考え行政職員や建設会社・建設コンサルタントの技術力向上のため,橋梁の維持管理に関するスキルアップを目標とした各種研修や,システムの講習等を定期的に実施している。

今回の二巡目点検結果を踏まえた計画策定では,当初計画よりも大幅な縮減効果を出し,システムと運用体制の2本柱の有用性が改めて証明された。

継続することの難しさは,今まで多くのITシステムがデータ更新されず,その結果,継続して使用されず陳腐化した事例からわかる。現在まで継続できたのは,「青森県橋梁アセットマネジメントチーム」が,技術者として個人ではなくチームとして苦心惨憺して創り上げたものを継続させたいという目標に突き進んだ結果だと思う。今後の方策としては,このシステムの向上に青森県民らしく粘り強く継続的に取り組んでいきたい。

最後に,このシステムは,鹿島建設から「BMStar」として,全国の自治体等に橋梁維持管理に必要な全業務を一貫して支援するシステムとして提供されている。「BMStar」は,青森県の実績を基に改良を続けており,より多くの自治体等が,このシステムを活用し,効率的で信頼性がある橋梁維持管理を大幅なコスト削減で行うことができるよう望むものである。

写真:青森県では策定した維持管理計画に基づいて,着実に維持・補修工事が進められている

青森県では策定した維持管理計画に基づいて,着実に維持・補修工事が進められている

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