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検索 KVFS(KAJIMA Variant Flow System)

手術室は,病院のなかでも特別な空間です。
患者の命に直結し,医師には高い集中力が求められます。
当社が開発した手術室の新空調システム「KVFS」は, 両者にとって最適な環境を提供します。
担当者に説明してもらいました。

手術室の現況とは

日々,全国でさまざまな手術が行われています。緊急性や所要時間,難易度などは異なりますが,「手術室」は十分な清浄領域を確保し,手術部位からの感染を防ぐ必要があります。

清浄環境を維持するためには,室内の空気を入れ替え,常にきれいな空気を保つことが大切で,空調設備は重要な役割を担っています。手術室の空調システムは現在,手術台上部天井に設置されたHEPA吹出口から清浄な空気を吹き出す「垂直層流型空調システム」が主流になっています。

アメリカ暖房冷凍空調学会の月刊誌『ASHRAE Journal』(2009年3月号)に手術室の空調設備に関する報告がなされ,従来システムの課題が見えてきました。これまで天井から吹き出された空気はその後拡散しながら減速し,床に近づくにつれ清浄領域も広がっていくと考えられていました。しかし,温度差による室内の空気との密度の違いから,気流の断面が狭まりながら加速する“縮流”という現象が発生し,清浄領域が狭まっていることがわかりました。空調の吹出温度は,室温を一定にするため上下しており,低い時は室温より10℃程度低い冷風を吹き出しています。縮流が生じると,設定温度より冷たい風が高速で患者に集中し,低体温化を引き起こす可能性があります。一方,医師やスタッフは無影灯や医療機器などの発熱環境下で手術しているのが現状です。「暑さが気になる」,「長時間になると汗が気になる」など,実際に暑熱感に対する声が上がっています。医師の集中力を維持するために室温をコントロールすることは非常に難しいのです。また,清浄領域を十分に確保できなくなると,医師やスタッフからの塵埃が患者の上に落ち,感染率の増大も危惧されます。空調の吹出し面積を広げることでこれらを改善することはできますが,建設コストだけでなくランニングコストも上がってしまうのです。手術室の空調に関する指摘は各国であり,近年特に注目されてきています。

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図:新空調システム「KVFS」のイメージ

新空調システム「KVFS」のイメージ。手術室内の清浄領域を確保し,患者近傍の低温化を防ぐと同時に,医師の暑熱感も改善する

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新空調システム「KVFS」

当社は,手術室のグレードを変えずにこれらの問題を解決する空調システム「KVFS(KAJIMA Variant Flow System)」を開発し,5月より開業している当社設計・施工の東埼玉総合病院(埼玉県幸手市)に初適用しました。

このシステムは,従来吹出口全面から一様に吹き出していた空調空気を,手術台の真上の中央部と医師上部の周囲部に分け,2つの気流で医師と患者双方に快適な環境を実現するものです。中央部は患者近傍の低温化を避け,手術台まで清浄な空気が届くよう中温かつ高速な空気を送ります。一方,周囲部は冷たい空気を低速で流し,室温の上昇を抑制し,術者の暑熱感を和らげるような気流へと改善しました。この速さと温度が異なる2つの気流によって縮流の現象が抑えられ,清浄領域を十分に確保できるようになりました。

開発にあたっては約2年間かけて,手術室内の風速や温度,汚染質濃度の分布を気流数値解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)で調べ,システムの新しい構造を考えました。また,当社技術研究所に手術室のモックアップを製作し,人間の放熱特性を模擬できるサーマルマネキンを使用して実際の手術室の環境をつくり,実験を重ねました。

図:システム概要

システム概要 KVFSでは風を一様に送るのではなく,中央部・周囲部に分けて異なる2つの気流を用いている

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CFD解析(気流数値解析)結果

【従来のシステム】

図:風速分布

風速分布

図:温度分布

温度分布

図:汚染濃度分布

汚染濃度分布

【新空調システム「KVFS」】

図:風速分布

風速分布

図:温度分布

温度分布

図:汚染濃度分布

汚染濃度分布

手術室のモックアップによる検証

【従来のシステム】

図:縮流が生じ,加速しているのがわかる

縮流が生じ,加速しているのがわかる

【新空調システム「KVFS」】

図:吹き始めてから速度を徐々に落としている

吹き始めてから速度を徐々に落としている

今後の展望

竣工後,東埼玉総合病院にもご協力いただき,KVFSを導入した手術室で模擬手術を行っている最中の温熱環境を実測しました。縮流の発生もなく,患者・医師双方の温熱環境も良好で所期性能が発揮されていることが検証できました。

現在,同病院ではKVFSと従来システムの両方を切り替えて使用することのできる設備となっています。適用から3ヵ月が経ちますが,病院側からは好評で,従来システムに切り替えることなくKVFSのみで使用しているそうです。今後,稼働状況の長期計測やヒアリングなどを継続的に進めてブラッシュアップし,患者・医師の両者にやさしい環境を提供していきたいと考えています。

写真:東埼玉総合病院に適用された手術室内観

東埼玉総合病院に適用された手術室内観(天井中央部にKVFSが設置されている)

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―患者・医師 双方に良好な手術室環境を目指して―

病院においては電力の安定供給や院内の清潔確保のための給水,患者の健康を守るための空調と,設備が果たす役割は大きいものがあります。特に,患者の生命に直接係わる手術室では,清浄度の確保や術者にとっての快適性の向上,室温や気流による患者への負担の低減が求められます。このプロジェクトは,手術室空調をより合理的にベストコンディションに近づけたいという想いから始まりました。手術室の実測による問題点の把握,シミュレーション,新しい空調システムの開発,実規模実験と少しずつ実績を重ね, 諸問題を解決し,高度な空調機能を実現した「KVFS」を実際の手術室へ導入することができました。今後,「KVFS」による建築設備の改善が,医療の向上に貢献することを期待しています。

写真:左から建築設計本部設備設計統括グループ 大眉純明グループ員,技術研究所建築環境グループ 権藤尚上席研究員,建築設計本部設備設計統括グループ 小林直樹グループリーダー,技術研究所建築環境グループ 武政祐一上席研究員,建築設計本部設備設計統括グループ 飯田純チーフ,技術研究所建築環境グループ 加藤正宏主任研究員・蘓理萌子所員

左から建築設計本部設備設計統括グループ 大眉純明グループ員,技術研究所建築環境グループ 権藤尚上席研究員,建築設計本部設備設計統括グループ 小林直樹グループリーダー,技術研究所建築環境グループ 武政祐一上席研究員,建築設計本部設備設計統括グループ 飯田純チーフ,技術研究所建築環境グループ 加藤正宏主任研究員・蘓理萌子所員

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