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「揺れ」からまもる技術 Ⅰ 制震

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地震に対する安全性の確保はもちろん,日常の居住性を左右する
風揺れ対策にも有効な「制震構造」。長周期地震動にも効果を発揮する技術を,
当社は業界に先駆けて研究を始め,実用化してきた。
適用件数180件以上を誇る「建物の安全・安心」のクオリティを探る。

制震構造とは

制震装置は,建物の揺れを低減・収束させる,いわば「建物のブレーキ」。制震構造は,建物内に地震力を吸収する装置を設置して揺れを低減する。高層の建物から低層の建物まで適用が可能なうえ,地盤条件によらないなどのメリットもあり,適用範囲が広い。

地震力を吸収する制震装置には,鋼製・オイルを代表とする様々な種類がある。当社では,ニーズに合わせた最適な選択ができるよう,豊富なデバイスを開発・保有している。鋼製のハニカムダンパ,中小地震から長い周期で震動する長周期地震動まで対応できるオイルダンパのHiDAM(ハイダム)・ HiDAX(ハイダックス)など構造躯体に組み込むタイプや,建物上部に設置した錘を駆動させて風揺れを抑える装置のDUOX(デュオックス)などが代表例である。

図:制震装置の効果

制震装置の効果

写真:DUOX。振り子原理で揺れを抑える

DUOX。振り子原理で揺れを抑える

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鹿島のおもな制震技術

ハニカムダンパは,折れ難く延び易い低降伏点鋼に,蜂の巣状の孔を開けた鋼板ダンパで,特に大地震に効果を発揮する。低コストかつメンテナンスフリーが特長である。1991年に実用化され,その後多くの建物に設置された。制震リニューアルの重要なデバイスとしても活躍している。

HiDAMは,阪神・淡路大震災前の1993年に開発されたオイルダンパで,1995年に初めて適用された。超高層集合住宅でフリープランを可能にした当社開発の「スーパーRCフレーム構法」にも採用され,その後HiDAXへと進化している。

制御弁を独自のロジックで開閉するオイルダンパのHiDAXは,HiDAMの約2倍に達する振動エネルギー吸収効率を誇る。HiDAX-e(エコ)は,制御作動時に電力を必要とせず耐久性に優れ,メンテナンスも容易な使いやすいオイルダンパとして,多くの超高層ビルに採用されている。さらにHiDAX-eをもとに,微小な風揺れ時だけ電気制御を行うHiDAX-u(ユニバーサル)がある。

写真:ハニカムダンパ。低降伏点鋼がエネルギーを吸収

ハニカムダンパ。低降伏点鋼がエネルギーを吸収

「制震」開発のクオリティ

2004年にHiDAX-eを開発した建築設計本部構造設計統括グループ・栗野治彦グループリーダーは,「システム開発では,機械担当者と一緒になってダンパの小さなからくり箱作りに明け暮れた」という。技術研究所で繰り返し実験して,システムに改良を加えてきた。「品質に妥協を許さず,徹底的に作りこんでできあがったものが,実際の地震で証明される」。そんなプロセスの積重ねが当社の品質につながっている。「お客様からより高品質なオイルダンパのHiDAX-eを採用したいという声も出てきました。今後は,建物の架構フレームとダンパの組合せで,大地震での変形が少なく,コストも安いトータルな構造躯体と考えている」という栗野グループリーダーは,さらなる技術開発に余念がない。

写真:HiDAX-e。シリンダ上の箱で機械式に制御

HiDAX-e。
シリンダ上の箱で機械式に制御

写真:HiDAX-e設置例

HiDAX-e設置例

写真:建築設計本部構造設計統括グループ・栗野治彦グループリーダー

建築設計本部
構造設計統括グループ・
栗野治彦グループリーダー

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写真:虎ノ門タワーズ(東京都港区)/オフィス(右)はHiDAX-u,レジデンス(左)はDUOX

虎ノ門タワーズ(東京都港区)/オフィス(右)はHiDAX-u,レジデンス(左)はDUOX

写真:明星大学日野キャンパス29号館(東京都日野市)/ハニカムダンパ

明星大学日野キャンパス29号館(東京都日野市)/ハニカムダンパ

写真:The Kitahama(大阪市中央区)/HiDAM(NewスーパーRCフレーム構法)

The Kitahama(大阪市中央区)/HiDAM(NewスーパーRCフレーム構法)

写真:葛飾区総合庁舎・リニューアル(東京都葛飾区)/ハニカムダンパ(居ながら®制震レトロフィット)

葛飾区総合庁舎・リニューアル(東京都葛飾区)/ハニカムダンパ(居ながら®制震レトロフィット)

Technology 「吊りもの制震」天井懸垂物の振動抑制技術

宴会場のシャンデリアなど吊り長さの長い大型照明器具は,揺れの周期が長く減衰性も低い。このため地震の際には大きく揺れ,地震後もなかなか揺れが収まらず,来場者に不安感を与える要因となる。最悪の場合,照明器具が壁面などへ衝突し落下事故の可能性もある。

これらの揺れが照明器具と建物との共振により大きくなることに着目し,ダンパを用いた振動抑制装置を開発した。この装置は簡単な機構で高い振動抑制効果があり,照明器具のほかスピーカーやスクリーンなどの天井懸垂物にも適用できる。実験では揺れを1/4~1/5にすることが確認されており,既存の施設でも適用可能な装置として活用が期待される。

図:「吊りもの制震」のしくみ

「吊りもの制震」のしくみ

写真:振動抑制効果の例(CG)

振動抑制効果の例(CG)

写真:振動台実験の様子

振動台実験の様子

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column 3.11 制震装置の効果を目撃する

3月11日午後,現場事務所3階で打合せをしているときに地震が来ました。驚いて戸外に出ると,長い時間激しく揺れていました。隣の中層ビルはがたがたと音を立てて激しく震え,周辺の超高層ビル群はゆらゆらと大きく揺れているのです。しかし,26階建の42街区のビルは,目の前でもほとんど揺れているのが分かりませんでした。制震装置HiDAX-eが効いていたのです。

鹿島施工のこのビルは,東畑建築事務所の設計・監理で,構造設計は鹿島にも協力してもらいました。かつて関西地区でマンション建設事業を担当していた時に,阪神・淡路大震災を自ら経験し,お客様に安心を提供する大切さを強く感じました。計画段階でオフィスのクオリティをいかに確保するか検討を重ね,鹿島の提案を採用してHiDAX-eを設置したのです。今回,長寿命建物の実現のため,地震による予想最大損失額 (PML値)5%以下という高い品質目標を設定し,CASBEEでもSランク認証を取得しています。その成果を目の当たりにするとは思いもよりませんでした。9月末の完成に向けて,万全の体制で準備しています。

写真:完成間近の建設現場にて。(仮称)みなとみらい21中央地区42街区新築工事(横浜市西区) 丸紅 開発建設事業部 ビル営業チーム 井谷嘉宏担当課長

完成間近の建設現場にて。
(仮称)みなとみらい21中央地区42街区新築工事横浜市西区)
丸紅 開発建設事業部 ビル営業チーム
井谷嘉宏担当課長

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