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検索 応急復旧戦略シミュレータ

当社は,下水道施設の「応急復旧戦略シミュレータ」を開発しました。
地震発生時の被害状況や修復に要する日数が分かるシステムです。
このシステムの概要を開発担当者に聞きました。

ライフラインを早期復旧するために

下水道管路や下水処理場などの下水道施設は,私たちの暮らしを支える重要なインフラで,国内の下水道普及率は約74%です。しかし,中には老朽化しているものもあり,下水道の耐震化は全体の約25%と言われています。

地震で下水道施設が破損すると,上・下水道の使用が制限され,衛生面や環境の悪化,公的機関・企業の事業中断など,生活に直結する問題が起こります。早期の対策が望まれていますが,全国の公道に埋設している下水道管の総延長は,約42万km(地球の約10周分)にも及び,耐震化を進めるのは容易ではありません。

大地震が起こった時,被害が大きい箇所はどこか,どこから整備するのが最適かを予測し,対策を講じておくことは,早期復旧につながります。

図:下水道管路(幹線)の被害

下水道管路(幹線)の被害

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地震被害の大きさと復旧日数を可視化

「応急復旧戦略シミュレータ」は,地震動や地形,下水道管路延長のGIS(Geographic Information System:地理情報システム)データ,過去の地震被害状況などのデータを基に導いた予測式を使い,下水道管路の被害延長や応急復旧日数を算出します。延長や日数は500mメッシュごとに色分けされ,ユーザーは被害の大きさや応急復旧日数を視覚的に把握できるのです。

システムに分析対象地域を指定し,想定地震の規模を入力すると,パソコン上に被害の予測結果が出ます。また,応急復旧チームを何班投入すれば,何日で復旧するという日数を割り出せるため,応急復旧計画を立てるのにも役立ちます。建物周辺のライフラインの被害や応急復旧日数を把握することは,建物の事業継続計画を進める支援にもなるのです。

首都圏直下型地震(マグニチュード7.3)における9都県市下水道被害想定

図:9都県市の下水道管路延長

9都県市の下水道管路延長

図:下水道管路の被害予測結果

下水道管路の被害予測結果

図:下水道管路の被害箇所の応急復旧日数

下水道管路の被害箇所の応急復旧日数

既存のシミュレータをバージョンアップ

当社は文部科学省のプロジェクトに参画し,2006年に上水道管路の被害予測と復旧戦略を検討する「上水道ネットワークの広域復旧戦略シミュレータ」を完成させました。

この技術を基に,2009年からは国土交通省から研究開発助成を受け,下水道施設のデータベース化に着手。そして今年の3月,地震被害予測と応急復旧予測機能を持つ「応急復旧戦略シミュレータ」を開発しました。

実証された有効性

このシステムを使って,東日本大震災の地震規模による関東以北15県の被害を解析し,実際の被害結果との比較を行いました。

気象庁が公開した観測震度や地盤データをシステムに読み込み,地域ごとの揺れの強さや液状化の有無を予測しました。次に,自治体が管理する下水道管路の総延長情報などから,シミュレータが下水道管路網のモデルを作成。これらを組み合わせ,被害状況を割り出しました。その結果,被害の総延長は約1,015kmとなり,国土交通省による一次調査結果約950kmと近い数値であることが判明し,シミュレータの有効性が証明されたのです。

図:東日本大震災における下水道管路の被害予測結果と実際の被害集計の比較

東日本大震災における下水道管路の被害予測結果と実際の被害集計の比較

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東日本大震災の下水道被害想定

図:地震動分布をデータ化

地震動分布をデータ化

図:液状化危険度の分析

液状化危険度の分析

図:下水道管路延長

下水道管路延長

図:下水道管路の被害予測結果(管径600mm未満と600mm以上の総延長)

下水道管路の被害予測結果(管径600mm未満と600mm以上の総延長)

ライフライン全般に使える技術へ

全国的に老朽化した下水道施設を見直す時期になっています。少子高齢化し,人口が縮小傾向にある過疎地では,既存の下水道をリニューアルするだけでなく,地域の都市基盤を抜本的に見直す必要があるかもしれません。「応急復旧戦略シミュレータ」は,基盤構築を検討する時にも有用です。

東日本大震災の検証で,このシステムが迅速な被害状況の把握に役立つことが確認でき研究の成果を感じています。その一方で,次に起こると想定されている地震に向け,様々なライフラインに対して適用可能なシステムの構築が必要だと再認識しました。

最近は被災時の事業継続性を判断したいという要望が増えていて,事業者から依頼された個別の建物周りを調査し,地震が発生した場合のライフラインの機能支障日数を算出することがあります。このシミュレータの技術はガスや電力といったインフラにも転用できるため,今後は,様々なインフラもデータベース化し,全国規模のライフラインシミュレータを構築する予定です。これからも地震リスクの評価ツールの開発を進め,重要顧客の自然災害対策の支援に活用していきたいと考えています。

写真:技術研究所 都市防災・風環境グループ 永田茂上席研究員(右)と日下彰宏主任研究員

技術研究所 都市防災・風環境グループ 永田茂上席研究員(右)と日下彰宏主任研究員

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