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東日本大震災の「揺れ」を検証する

今回の地震の「揺れ」による建築物への影響について検証することが,
さらなる安全・安心な生活空間構築への第一歩となる。

東北地方太平洋沖地震の特徴

地震の揺れと津波の発生域

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は,わが国の観測史上最大のマグニチュード9.0(Mw9.0※1)で発生。この地震は太平洋の海底の岩盤が日本列島の下に潜り込む境界で発生しており,大きくすべった場所(アスペリティ)は海溝軸に近いところで最大約60mにも達している。このすべりが海底を変動させて大津波を発生させた。一方,震度データから強い揺れを発生した場所を求めると,陸域に近いやや深い位置の2か所となり,大津波を発生させた場所とは異なっていた。

※1 モーメントマグニチュード(Mw)
地震の面積,滑りの量,断層付近の地殻の硬さの掛け算で表す断層運動の規模。地震による地面の揺れに相当する量を示す気象庁のマグニチュードでは,M8.4となる。

図:東北地方太平洋沖地震による震度分布(気象庁公表データ)

東北地方太平洋沖地震による震度分布(気象庁公表データ)

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広範囲にわたる多様な揺れと被害

阪神・淡路大震災以後,全国各地に整備されたK-NETやKiK-netに代表される高密度強震観測網により今回の地震波形が収録された。その特徴から,1978年の宮城県沖地震に比べて非常に長い継続時間の地震動であったことと,複数の波群が認められ,この波群の現れ方が観測点によって大きく異なっていた。また,岩手県から茨城県にかけての広範囲で震度6となったほか,震度5クラスの首都圏でも大規模な液状化が発生している。

図:東北大学の加速度記録の比較(建築研究所公表データ)

東北大学の加速度記録の比較(建築研究所公表データ)

今後の巨大地震への備え

地震調査研究推進本部(文部科学省)によると,今後30年間で東海地震(M8.0)が発生する確率は87%である。さらに東南海地震(M8.1)が60~70%,南海地震(M8.4)が60%と高く,巨大地震発生の切迫性が指摘されている。これら南海トラフ沿いの巨大地震では,首都圏をはじめとする平野部で,今回より強い長周期(2~20秒)の揺れが生ずる可能性がある。昨年12月に国土交通省から示された長周期地震動の対策試案では,大臣認定で長周期の影響を受ける恐れのある超高層ビルや免震ビルなどを抽出し,再検証した結果に応じて「適切な補強」を要請することとしている。長周期地震動への対策が重要となる。

図:南海トラフ沿いに発生が予想される巨大地震(出典:小堀鐸二研究所 2011年 年次報告)

南海トラフ沿いに発生が予想される巨大地震(出典:小堀鐸二研究所 2011年 年次報告)

「制震」の効果について

今回の地震では,地震動に長周期成分は少なかったが,都心部の高層ビル頂部で片側1m近い振幅を示した例が認められた。地震動の長周期と超高層ビルの固有周期が共振して大きく揺れる長周期地震動での安全面の問題が浮彫りとなり,さらに揺れが10分以上も続き,恐怖が継続する心理的な影響も危惧された。

当社開発の制震装置(HiDAX-u)が設置されている高さ195mの日本橋三井タワー(東京都中央区)の最上階で観測された震幅は,制震装置無しの場合の予測値に比べ,約40%も低減していることが確認された。超高層ビルは長周期地震動が課題とされる中,揺れそのものを抑制して後揺れも速やかに収束させる制震装置の有効性が明らかになった。

「免震」の効果について

震度6以上を記録した仙台市内では,約70棟の免震構造の建築物が建設されていたが,被害はほとんどなく,免震効果が確認できた。

都内にある当社所有の計測装置が設置された免震ビル3棟においても,建物の揺れの低減が確認された。当社初の免震建物となる技術研究所音響実験棟(東京都調布市)は,免震防振構法という微振動や騒音も遮断する建物で,屋上階での最大加速度125ガル※2は,基礎での加速度143ガルより13%減,また隣接の同規模の一般建築物の屋上階での最大加速度285ガルより56%減という大幅な低減が確認された。

※2 加速度の単位(gal)
1ガル=1cm/sec2

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column 3.11 被災地の拠点病院機能を支える

病院施設は,1978年(B棟),1986年(C棟)および1999年(A棟)に,いずれも鹿島の設計・施工で段階的に建設してきましたが,病室主体のA棟は鹿島の提案により免震構造としました。地震発生時,約200名の外来患者を含め1,000名以上が病院内にいましたが,余震に備え院内放送で安全な免震建物に集合させました。本震でもゆっくりとした揺れで,棚からの落下物もなく,日ごろからの避難訓練の甲斐もあり,医師や看護師が冷静に行動することができ,患者の皆さんに安全・安心を提供できました。

電気・水道・ガスなどのライフラインも万全で,その日の夕食準備も含め,医療サービスを通常通りに行うことができたのです。被災した周辺地域の他病院からの依頼による手術にも対応し,断水の影響で人工透析の治療が受けられない県内各地の患者も200名以上を受け入れて,緊急時の拠点病院としての役割を果たせました。免震構造のA棟はもちろん, 築30年以上のB棟などすべての施設で構造の健全性が確認され,拠点病院となる建物の信頼性の高さがいかに大切かを改めて感じています。

写真:筑波麓仁会 筑波学園病院(茨城県つくば市) 筑波麓仁会・清水茂事務部長 

地震時の様子を語る
筑波麓仁会 筑波学園病院
(茨城県つくば市)
筑波麓仁会・清水茂事務部長 

写真:筑波学園病院

筑波学園病院

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