学校とは,その校舎に通った人にとってはいつまでも記憶に残る原風景であり,
土地に根付き,地域と共生してまちのさまざまな活動を包容する存在でもある。
いまや学校づくりには,学び舎としての機能だけでなく,伝統や特長を生かしたほかにはない顔づくりや,
地域の顔となるといった面が強く求められている。ここでは,そのような個性ある学校づくりを紹介する。
歴史あるキャンパスとの調和
多くの学生や住民で賑わう,東京都文京区本郷。本郷通りを東京大学へ向かって歩いていくと,煉瓦の外壁がひときわ美しい建物が現れる。東京大学伊藤国際学術研究センターは,社会連携および国際交流の拠点として昨年12月に完成した大学の新しいシンボルだ。講義室や研究室などが入る5階建ての建物は,中庭型の広場を囲むように建ち,広場の地下は500人を収容する講堂による大空間となっている。
この建物の一隅には,大正初期に建てられた古い煉瓦倉庫が残されている。大学の資料収蔵に利用されてきた倉庫は,外壁の煉瓦を残し,内側に新たにRC造の躯体を下階から構築する工法で改修され,レストランとバーに生まれ変わった。およそ100年前の煉瓦を残す工事にあたっては当社技術研究所が協力し,古い煉瓦の耐久性の調査や,新たな躯体との接合部の強度検討のため引張試験を繰り返すなど,綿密な準備が行われた。
建物の外壁の仕上げ材にも,本物の煉瓦が一つひとつ積み上げられている。微妙に焼き色の異なる煉瓦を用いて自然なムラを出し,目地には手仕事の粗さを残すなど,隣り合う煉瓦倉庫の質感と調和させ豊かな表情を生んだ。
ローメンテナンスで耐久性があり,歳月が経つごとに増す風合いを楽しめる煉瓦は,歴史あるキャンパスとも呼応しながら,新しい風景をつくり出す。
新たな伝統をつくる「大きな家」
2010年4月に開校した福岡市・西南学院小学校。90年以上の歴史をもつ西南学院は,中学校・高等学校から大学・大学院に,幼稚園・保育所も併設している。ここに小学校が加わることで,全国でも数少ない総合学園となった。
新しい小学校の校舎は,隣接する中学・高校と同じ煉瓦の外観で壁面のイメージを揃えている。またチャペルを中心とした広場を介して小・中・高校の統一感が図られた。
小学校を当社が設計する際にめざした空間は,アトリウムを中心とした「大きな家」。各教室をアトリウムの周囲に配し,回遊するような動線を計画した。死角がなくなり,シンプルで使いやすく,多様な活動やコミュニケーションを生み出す場となった。
こうした建築計画のコンセプトが伝わるよう,設計担当者は竣工後に詳細な「スクールマニュアル」を作成して校舎の使い方をていねいに解説。生徒や先生が受け継いでいく学び舎づくりを継続的に支援するしくみも提案した。
生徒の元気な声があふれるアトリウムは,学園のイメージを継承し,新たな伝統を生み出す象徴的な空間となって,いきいきと使われている。
西南学院小学校
- 場所:
- 福岡市早良区
- 発注者:
- 西南学院
- 設計:
- 当社建築設計本部
- 規模:
- RC造 3F 延べ8,305m2
2010年3月竣工(九州支店施工)
地域に見守られた建替え
秋田県のほぼ中央に位置し,豊かな田園風景の広がる井川(いかわ)町。その町立中学校が建て替えられ,今年2月に竣工した。校舎は平屋建ての木造で,柱には県産材である秋田杉などがふんだんに用いられている。
町内唯一の公立中学校の建替えは,規模の大きな木造建築も珍しいとあって,生徒や先生,地域の人に注目される工事となった。上棟式と現場見学会が行われた際には,生徒を対象に木造の「継ぎ手」体験のイベントを開催。工事作業の一端を楽しんでもらうことで,新校舎への期待や愛着を育んでいった。
伝統的な木造建築では,棟木に飾りを上げて,近隣の人へも上棟を知らせる習わしがある。今回の井川中学校の式典でもこれに則り,上棟式に全校生徒と,建設に関わった地元の大工や職人だけでなく,校長先生の発案によって,棟飾りが見える近隣住民にも集まってもらった。槌打ちの儀などにつづいて足場の上から餅まきが始まり,餅や飴,小銭が投げられると,地域の人も一緒に歓声を上げ,生徒たちの盛り上がりに加わった。
上棟式の意味合いそのままに,地域への顔見せを終えた新校舎。完成後のお披露目となった見学会には200人もの近隣住民が集まった。みなそれぞれに校舎の内観を見つめ,感嘆や喜びの声を上げるなど歓迎ムード一色。これからも地域のなかで親しまれ,生徒とともに見守られていくだろう。