学校は“小さなまち”ともいわれる。敷地のなかに体育館やグラウンド,
広場から,教室,実験室や調理室,音楽室といった特別教室など,さまざまな用途が集まっているからだ。
使い手や地域と日々顔を合わせ,密接につながりながら進められる校舎の建設は,まさに“まちづくり”にも似ている。
そうした学校建設の現場に長年携わってきた東京建築支店第三統括事業部の朝日昭博建築部長と,
現在,江戸川女子中学・高等学校で新講堂・体育館新築工事を担当する後沢仁志所長が,学校づくりの面白さを語った。
学校づくりの継続性
朝日 学校は地域に長く根付いている施設なので,キャンパス内で建替えや増築工事がつづくなど,環境づくりに継続性があることが第一の特徴だと思います。100年以上の歴史も珍しくなく,周年事業といった節目の工事に携わることができたりして,やりがいがありますね。私が25年前に最初に担当した建物も現役で,いまも同じお客さまとの別の工事がつづいていますよ。
後沢 私はオフィスビルや集合住宅も経験してきたのですが,工期が1年から1年半という現場も多い。それと比べると学校建設は3,4年と長いですよね。しかも現場担当は営業や設計担当者よりも長くお客さまや地域と関わります。親しい人間関係が築けるくらいの長さなのは,ほかの工事にはない特徴ですね。
使い手が明確
朝日 学校建設は「お客さま=使い手」なので,設計時点では決めていなかった細かな仕様も,施工の最中にコミュニケーションを取りながら,ニーズに沿った検討ができます。その教室を使われる先生の意見で仕様が変更になることもありますからね。
後沢 とくに仕上げ材や塗装については,設計時には想定していなかったほどのメンテナンス性や摩耗性,耐久性を求められることがあります。小・中・高校の清掃は生徒自身がやりますから,清掃のしやすさは第一条件です。意外に気づきにくいのですが,スカートの裾が階段の壁を汚しているなんてこともあるので,仕上げ材の選び方は重要なんですよ。デザインとコストだけでなく,具体的な条件のもとで詳細に現場で決定していけることは,お客さまの満足にもつながります。
朝日 たとえば壁の強度についても,仕様を書面や口頭でお伝えするだけではお客さまにはわかりません。モックアップをつくり,「思い切りボールをぶつけてみてください」と実際に試してもらったことがありますよ。使い手にとってはもっとも説得力のある方法のようでした。
地域のなかの工事
後沢 一方で,敷地内の建替えなどでは,児童や生徒さんの動線を確保しながら工事を行っていくのも苦労のひとつです。また周辺地域に対しても,安全や騒音などの配慮にはとても気を遣いますね。とくに小・中学校は住宅地にあることも多いですから。
朝日 ほとんどの学校は地域の緊急避難場所に指定されていたり,小・中学校であれば校庭を,大学なら図書館や食堂を開放したりするなど,地域にとっても大切な存在であるからこそ,工事期間中はつねに周囲に意識されていると感じます。
後沢 学校関係者のなかには,日々建設現場をご覧になっていて,われわれよりも状況を知っているのでは……なんて先生もいらっしゃったりします。そうした方々に“見られている”ことも安全意識を高めますね。
朝日 伝統校であるとか,子どもを育てる場所という意味では,地域の人も含め,関係者の建物に対しての愛着や思いがより大きいように思えます。その思いを汲み取りながら,ニーズとコストに見合うものをつくりあげていくには,まさに日頃からのコミュニケーションが大切だと思います。
後沢 交流を図るようなイベントなどもやっていますね。学園祭のときにバーベキューを出店して,フランクフルトや綿あめをつくることもありましたよ。
朝日 私も,年末に地域の人も招いて餅つき大会をやったりしましたね。
後沢 進行中の工事で,私の元上司である所長が,生徒がせっかく建設現場に毎日触れているので,建築についての授業をやってみてくれないかと先生から頼まれたことがあるんだそうです。苦労しながら1時間の授業をしたと聞きました。
朝日 生徒さんが建築に興味をもってくれるきっかけになれば,そんないい機会はありませんね。
学校づくりを“教材”に
後沢 学校は教室以外にも多様な用途の建物や特別教室などがあり,それもまたオフィスや集合住宅とは大きく異なります。工種が複雑でたいへんというより,“面白い!”と思いますよ。
朝日 講堂や視聴覚室はホール,家庭科室や技術室は生産施設というように,校内施設の延長線上にまちの施設があるわけで,同じものをつくっているんですよね。まさに学校は,まちや社会の縮図です。
後沢 ええ。スケールの違いだけですから,ひとつ知ればある程度つくり込みの方法を覚えることができます。現場マンにとって,学校はいちばんの“教材”ですね。
朝日 生徒さんにとっても,われわれにとっても学ぶものがある――学校づくりが面白いといえる理由ですね。
中学校の新設と高校創立40周年記念事業に伴って建て替えられた二松學舍大学附属柏中学校・高等学校の体育館。キャンパスの玄関口にお目見えした学校の新しいシンボルだ。開放感があるガラスのカーテンウォールのファサードや, 周囲の緑を取り込んだ内部など, 体育施設としては非常に明るい印象であり, 講堂利用も考え冷暖空調を完備し, 音響設備にもこだわった。
校内からの関心は高く, 完成直前, 内装工事中に生徒会メンバーによる現場見学が行われた。バレーボールコートが4面とれる広さに生徒たちは一様に「大きい!」と驚きの声を連呼。「臨場感が以前の何倍も増してあるので, 迫力がある」「風通しもよく利用者のことを考えた設計になっていてとても満足」などの感想があふれ,生徒会新聞でも報告された。
木村誠次校長が同校のウェブサイト上でつづるブログ(通称・キムログ)にも竣工直前になると連日のようにレポートがアップ。「ここのところ毎日立ち入っていますが, いくたびに顔が綻(ほころ)んでいます。早く早く生徒たちにも使わせたい」。全校で完成を心待ちにしていたようだ。
体育館のこけら落としとなった卒業式では,新たな旅立ちの喜びを新しい建築が演出。桜並木を借景とするエントランスから大空間のメインアリーナへ卒業生が導かれ,華やいだ式となった。キムログにも「音響は抜群」「評判のよさにひと安心」。その後も快適に利用されているとのことだ。
二松學舍大学附属柏中学校・
高等学校新体育館
- 場所:
- 千葉県柏市
- 発注者:
- 二松學舍
- 設計:
- 当社建築設計本部
- 規模:
- RC造 2F 延べ2,860m2
2011年2月竣工(東京建築支店施工)