開通直前の高速道路部。完成直後の写真と比べると,日射によるコントラストが大きく減じられ,ドライバーの眼のちらつきを抑えている
コンクリートの鮮度を渋滞から守る
上の写真は,半地下の高速道路部の開通直前である。一方,左下の写真はコンクリートの躯体が完成した直後だ。日射による明暗のコントラストは美しいが,ドライバーの眼をちらつかせる。開口部にガラス製や膜性の遮光板を取り付けて,自然光による陰影を大幅に和らげた。
「国分工事」は,標準的な掘割スリット構造が約1.8kmつづく外環千葉の典型的なルートだ。柔らかな自然光に照らされたコンクリートの美しさが見どころとなる。大規模かつ高品質のコンクリートを実現したのは,現場内に設置されたコンクリート工場(バッチャープラント)だ。大きなダム以外ではほとんどみられない設備で,通常ならば場外の市中プラントから生コンを運ぶ。
コンクリートの品質は時間が勝負。練混ぜから打込み完了までの時間の限度は,外気温が25℃を超えるときで90分以内とされる。市中プラントからの運搬時間70~80分に加え,周辺道路の慢性的な渋滞を考慮すると,90分以内に打込みを完了できないことが予想された。
バッチャープラントの効果を金﨑伸夫所長は振り返る。「良好な施工性を備えながら,水とセメントをできる限り少なくした高品質なコンクリートが,全社的な支援によって実現できました。さらに,日々の気候や材料の状態を考慮し,配合を調整することで,最適なコンクリートが自分たちの手で打てるのです」。
工事車両の交通量は,一般交通の安全や渋滞にも影響する。そこで現場内の2ヵ所にオーバーブリッジといわれる工事用仮橋を架け,一般車両と工事車両を立体交差で分離した。住宅地における大規模工事では,その効果はてき面で,後続の「市川中(いちかわなか)工事」にもバッチャープラントとオーバーブリッジが継承された。
金﨑伸夫所長
(現場提供)
完成直後のコンクリートの躯体。光と影が繰り返される神秘的な列柱空間が出現した
現場内に設置されたオーバーブリッジ。一般車両と工事車両を立体交差させ,安全の確保と渋滞の回避に寄与した
(現場提供)
市川中工事でのバッチャープラント。コンクリートの品質低下を大幅に抑え,工事車両の削減につながった
通水対策工の施工風景。構造物の建設後の地下水の流動状態を保全する有効な手段となる
(現場提供)
地下水の通り道を確保する
高速道路部には“見えない見どころ”も盛り込まれている。構造物で遮断された地下水の流動阻害対策を本格的に適用したことだ。地盤の浅い位置を流れる地下水は,通水管を通すことで,上流側で集めて下流側に復水している。深い位置を流れる地下水に対しては,地中の連続壁の一部を通水性のよい材料に置き換え,地下水の通り道を確保した。環境にやさしい道づくりの有効な手段として注目されている。
国分工事のもうひとつの特徴は,高速道路部の施工のあとも,国道・環境施設帯などの地上部工事の大半までを当社JVが手がけたことだ。「何もなかった道路に,車両が通りはじめる開通日の光景は,血管に血が流れはじめるかのようでした。多くの住民の方から“おめでとう”と声をかけていただきました。地域住民とともに祝う開通は,感激もひとしおですね」。
6月2日の開通の風景。一帯は祝賀ムードに包まれたという
(現場提供)
通水対策工の概念図
外環をつくったヒーローたち。それは,設計者,現場監督,専門技術者,作業員,ガードマンなど,延べ300万人以上──。
国土交通省関東地方整備局では,建設現場の“技術者スピリッツ”に焦点を当てる取組みの一環として,外環千葉の工事に携わった人々の物語を「俺の外環」と銘打ち,第一線のクリエイターと映像を共同制作。撮影オーディションでポスターとなったのが,国分工事でとび・土工の職長を8年務めた齋藤浩幸さん(土本建設)だ。
写真は,台風が直撃した夜中に,仮囲いを倒壊させる暴風雨との格闘を再現した1枚。「この現場を人生の誇りに思います」と撮影時のインタビューに答えている。開通前の現場では写真展が開催され,ナイトツアーやトークショーも盛況となった。一連の映像はWEBサイトで閲覧できる。
「俺の外環」のポスターとなった齋藤浩幸さん(土本建設)
提供:国土交通省関東地方整備局