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Part3 鹿島の地震関連技術

当社は,地震に対して,防災・減災の観点からさまざまな技術の研究開発を行ってきた。
「いかにして大地震に安全に耐えうるか」。
脈々と受け継がれてきたその設計姿勢とともに長年にわたって培ってきた
当社保有の地震関連技術を見ていく。

1995 阪神・淡路大震災
1995年1月17日5時46分,兵庫県南部地震が発生し,当時観測史上国内最大となる震度7を記録した。関連死を含めた死者6,434人,住宅被害約64万棟。大都市で発生した直下型地震により,港湾や道路などの社会インフラ,エネルギーなどのライフラインの経済被害も甚大となった。当社は,自社施設や施工中の現場,過去に施工した建造物の被害調査を行うとともに,救援や応急復旧対応にあたった。震災廃棄物の処理も行い,廃棄物処分場の埋立量を減量するため選別・破砕・リサイクルを実施した。
2004 新潟県中越地震
2004年10月23日17時56分,新潟県中越地方を震源とした地震が発生。兵庫県南部地震以来,観測史上2回目の震度7を記録。死者68人,負傷者4,795人,住宅の全壊3,175棟,避難者は最大10万人規模。直前の台風により,多数の土砂災害も発生するなど甚大な被害をもたらした。当社は,JR上越線や国道291号など寸断されたライフラインの復旧工事にあたった。県道小千谷長岡線の斜面崩落現場では,走行中の乗用車の母子探索に当社の無人化施工技術が力を発揮した。
2011 東日本大震災
2011年3月11日14時46分,三陸沖でM9.0の東北地方太平洋沖地震が発生。最大震度7を観測し,日本国内観測史上最大規模の地震となった。死者19,765人,行方不明者2,553人,負傷者6,242人,住宅の全壊122,039棟(2023年3月1日時点)。地震により発生した巨大な津波が太平洋沿岸部を襲うなど,未曽有の被害が発生した。当社は,震災直後から全社的な支援体制で対応,救援物資の輸送などを行った。その後,災害廃棄物処理,インフラ復旧作業,除染作業,復興まちづくり事業など,復興に向けた取組みを続けている。
※総務省消防庁発表
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鹿島の地震関連技術をピックアップ

[制震オイルダンパ]HiDAXシリーズ

「HiDAX(ハイダックス)-R(Revolution)」は,世界初となる振動エネルギー回生システム「VERS*1」を搭載する新世代の制震オイルダンパ。

VERSは,自動車のブレーキ時のエネルギーを回収・再利用するエネルギー回生システムの原理を制震装置に応用したもの。地震による建物の振動エネルギーを一時的にタンクに蓄え,ダンパの制震効率を高めるアシスト力として再利用する。このシステムにより,一般のオイルダンパと比較して,振動の吸収効率が約4倍と飛躍的に向上した。風揺れから震度7クラスの大地震までカバーし,特に中小地震や長周期地震動に対して高い効果を発揮する。一般的な制震構造と比較して,揺れ幅を半減,揺れが収まるまでの時間を劇的に短縮している。

「HiDAX-e(ecological)」は,性能とコストパフォーマンスを高次元で両立させた普及型制震システム。制御機構に電力を使わないパッシブ型でありながら,一般のオイルダンパの約2倍の振動吸収効率を発揮する。中低層から高層,さらに既存建物の改修工事にも適用可能。また,「高耐力型HiDAX-e」は,従来型の2台分に相当する4,000kNの減衰力を発揮するため,装置台数や設置スペースを削減することができる。

*1 Vibration Energy Recovery System

図版:HiDAX-R

HiDAX-R

図版:HiDAX-e

HiDAX-e

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図版:東北地方太平洋沖地震(東京都・大手町の記録)に対する35階建物の解析例

東北地方太平洋沖地震(東京都・大手町の記録)に対する35階建物の解析例

[制免震技術]KaCLASS

「KaCLASS(カクラス)*2は,TMD*3の原理を応用した制免震技術。建物高さの70%程度の位置に設けた制御層が地震時に変形することで,制御層から上の躯体には免震効果を,下の躯体にはTMD制震効果を与え,建物全体に大きな制御効果を付与する。これにより,長周期地震動に対しても従来の耐震・制震架構と比較して,少ない柱梁で高い安全性を確保することが可能で,開放的な空間を実現する。

*2 Kajima Control Layer Advanced Structural System

*3 Tuned Mass Damper:建物に設置した錘の揺れにより,地震時の建物振動を制御する制震装置

図版:KaCLASSの構造原理

KaCLASSの構造原理

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増築層を既存層に対するTMDとして利用し,
耐震性を高める「E3 School System」

2022年度日本建築学会技術部門設計競技「将来の環境変化を見据えた学校施設の改修設計」に提案し,最優秀賞を受賞した「E3 School System」も,TMDの原理を応用した改修技術が核となっている。

既存建物(既存層)を減築したうえで,上部に新たに機能を増築(増築層)することで,これを大重量のTMDとして挙動させようというもの。

既存層の基礎などへの影響を最小限に抑えつつ,耐震性を大幅に向上させるだけでなく,増築層の揺れの抑制も両立する制震改修システムを実現している。

図版:最優秀賞を受賞した提案

最優秀賞を受賞した提案
「『おもい』を積み上げる学び舎―E3 School Systemによる地域共育拠点の創出―」

図版:構造システムのイメージ

構造システムのイメージ

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[制震装置]D3SKYシリーズ

大地震対応TMDの「D3SKY(ディースカイ)」シリーズは,慣性力を利用し,建物の揺れを打ち消すよう反対方向に錘を揺らすことで,建物の振動を低減する制震装置。ケーブルで錘を懸垂する方式の「D3SKY」に対し,「D3SKY-L」は専用開発の積層ゴムによる多段構成型を採用しており,鋼製の錘を高機能ダンパで制御する。装置高を低く抑え,必要面積を可能な限り縮小したコンパクトな機構を実現した。錘の重量や積層ゴムの段数を調整することで幅広い建物に適用することができる。建物屋上に設置するだけで,既存超高層ビルの耐震性能を近年の新築ビルと同等レベルまで向上させることが可能で,長周期地震動対策としてもきわめて有効である。

「D3SKY-c」は,D3SKYシリーズの性能そのままに,中低層建物用に最適化した低コスト・コンパクト型のTMDである。建築・設備計画への影響を最小限に抑えながら,耐震性を向上させることができる。

図版:D3SKY-L

D3SKY-L

図版:D3SKY-c

D3SKY-c

図版:東北地方太平洋沖地震で観測された地震動に対する制震効果の検討(建物頂部変位の平面上の軌跡)

東北地方太平洋沖地震で観測された地震動に対する制震効果の検討
(建物頂部変位の平面上の軌跡)

図版:建物の揺れを打ち消す錘の揺れのイメージ

建物の揺れを打ち消す錘の揺れのイメージ

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[耐震・防振天井技術]RESI-CUBE

「RESI-CUBE(レジキューブ)」は,音楽ホールなどで遮音のために採用される防振天井の耐震性を高めるためのデバイス。防振性能を損なうことなく,防振天井の水平方向の動きを適度に拘束できる特徴を持ち,新築,耐震改修ともに対応できる。

中央部に丸型の防振ゴムを,周辺部にはゴムパッド付のストッパーを配置し,デバイスとして一体化。このストッパーが防振性能を損なわない程度に水平方向の動きを拘束することで耐震性を高める。

天井耐震改修工事でRESI-CUBEを採用した施設では,工事完了後の測定で新築時と同等の遮音性能が確認された。

RESI-CUBEの設置イメージ

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[光ファイバセンシング技術]光ファイバPC張力計測システム

当社施工の徳島南部自動車道「吉野川サンライズ大橋」では,地震時の桁の損傷・変形検知を目的として,当社が開発を進めてきた「光ファイバPC張力計測システム」が採用されている。

このPC張力計測システムは,15径間に適用されている光ファイバ組込み式PCケーブル「SmARTストランド®」により張力分布の変化を自動的に見える化し,桁に生じた損傷や変形を検知するもの。懸念されている南海,東南海地震などが発生した場合の迅速な点検が可能な環境となった。

図版:吉野川サンライズ大橋全景

吉野川サンライズ大橋全景

図版

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