地震動と地震波
断層運動によって地震が発生した場所を「震源」といい,そこから放出されたエネルギーが「地震波」となって地中を伝わり地面が揺れる。この地面の揺れを「地震動」と呼ぶ。
地震波は,震源から地球の内部を伝わる「実体波」と,地球の表面に沿って伝わる「表面波」に大きく分けられる。実体波には,波が進む方向に振動する「P波(縦波)」と,波が進む方向と直交した方向に振動する「S波(横波)」がある。
地震が起こると,最初は縦に小刻みに揺れ,ついでややゆっくりとした横揺れ,その後大きくゆっくりとした揺れを感じることがある。これは最初に実体波のP波,ついでS波,その後表面波が到達するからで,波の種類により揺れの伝わる速度が異なる。
地震の被害は,主に揺れの大きいS波と表面波によることから,これらをあわせた揺れを「主要動」と呼ぶ。これに対し,P波による比較的小さな揺れを「初期微動」と呼ぶ。
P波は密度の変化が伝わる振動で,S波はずれの変化が伝わる振動である。ちなみに,P波は英語の「Primary(初めの)」,S波は「Secondary(第2の)」の頭文字から名付けられている。
震度とマグニチュード
地面の揺れは「震度」で,地震そのものの大きさ(規模)は「マグニチュード(M)」で表される。震度は震度0~7までの10階級で,マグニチュードは上限値がない。観測史上最大のマグニチュードは,1960年に発生したチリ地震のM9.5とされる。
断層運動が起きたとき,断層面から放出される地震エネルギーは,マグニチュードが「1」違うと約32倍の大きさになる。つまり,M6の地震エネルギーの大きさを1とすると,M7は約32,M8は約1,000となる。
長周期地震動の研究
比較的大きな地震が発生すると,数秒から十数秒の周期でゆっくりと揺れる地震動が発生する場合がある。これを「長周期地震動」という。長周期地震動は,震源から離れた場所まで伝わりやすく,離れていても大きな振幅が観測される性質がある。
建物にもそれぞれ固有の揺れやすい周期がある。一般的に,高い建物ほど周期は長く,反対に低い建物の周期は短い。ガタガタと小刻みに揺れる短い周期の地震動は,建物自体の揺れ方の周期が短い木造構造物や低層建物が激しく揺れる。一方,ゆっくりと揺れる長周期地震動は,木造構造物や低層建物はあまり揺れず,逆に,建物自体の揺れ方の周期が長い超高層建物で共振現象が発生し,大きくしなるように長時間揺れる。
2003年の十勝沖地震の際,震源から遠く離れた苫小牧で石油タンク火災が発生した原因の1つが長周期地震動だったことから注目されるようになった。この地震被害を受け,国のさまざまな機関が長周期地震動を検討し,国土交通省が「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」をとりまとめ,2017年4月からその対策が施行されている。
地震の揺れをリアルに体感
「トライデッカー」と「ポータ震(ぶる)」
当社は,今後発生が予想される「直下型地震」や「超高層ビルへの影響が懸念される長周期地震動」などの揺れを,実際に体感することができる2種類の体感用振動台を開発している。地震の観測記録や設計用地震動データを用いることで,実際の地震の揺れや免震・制震構造を適用した建物の揺れの低減効果を感じることが可能だ。
据置型体感用振動台「トライデッカー」は,長さ1.8m×幅2mの搭乗台に4点シートベルト付きの椅子が3脚固定されている。最大前後左右に±60cm,上下に±5cm可動し,3次元の揺れを再現できる。
可搬型体感用振動台「ポータ震(ぶる)」は,分割して容易に持ち運ぶことが可能なため,オフィスやイベント会場などさまざまな場所で利用することができる。4つの車輪で振動台を動かすことで水平2方向の揺れを再現する。レールなどの制約もないため,周囲に十分な広さがあれば1mを超えるような大きな動きも可能で,長周期地震動による超高層ビルの揺れもリアルに体感できる。
地震の発生可能性の長期評価
「いつ,どこで,どのぐらいの規模の地震が起こるか」という地震予知は,一般的に現在の科学技術では困難とされている。しかし,地震の歴史的な記録を辿ることによって,繰り返し起こっている場所については,ある程度次の地震が起こる時期を予測することが可能となっている。
地震の規模や一定期間内に地震が発生する確率を予測したのが「長期評価」である。これは,地震の過去の発生間隔,最新の発生時期を調査し,規模の大きな地震が起こる「場所」や具体的な「規模(マグニチュード)」,発生の「確率」を推定している。
地震本部※では,活断層で発生する地震や海溝型地震の長期評価を公表している。そこでは,今後30年以内に地震が発生する確率などが一覧で示されている。
また,内閣府は地震本部の情報に基づいて防災対策推進地域を設定している。
気象庁が定める長周期地震動階級
2011年の東北地方太平洋沖地震では,東京都内などの高層ビルの高層階で揺れが大きく,家具の転倒・移動などの被害があった。このような長周期地震動による被害は,地上での震度では把握することが困難なため,気象庁では高層階での揺れによる行動の困難さなどを表す指標として,「長周期地震動階級(階級1〜4)」を定めている。
揺れを予測できる「緊急地震速報」
緊急地震速報は,地震の発生直後,各地での強い揺れの到達時刻や震度などを予測し,可能な限り素早く知らせる情報のことで,気象庁がテレビやラジオなどを通じて提供している。また,本年2月から新たに長周期地震動についても緊急地震速報の対象として加えられた。
これにより緊急地震速報は,最大震度が5弱以上または長周期地震動階級3以上が予想される地震の場合に,震度4以上または長周期地震動階級3以上が予想される地域を対象として提供される※。
防災関係機関や交通機関,公共施設,また長周期地震動ではビルの高層階などで事前対応を行うことで被害の防止・軽減が期待される。
- 『地震がわかる!』地震調査研究推進本部,2022年
- 『地震の基礎知識とその観測』国立研究開発法人防災科学技術研究所
- 『令和5年版防災白書』内閣府,2023年
- 『関東大震災 大東京の揺れを知る』武村雅之,鹿島出版会,2003年
「BCP-ComPASTM」で状況を一元管理
当社技術研究所が開発・提供している「BCP-ComPAS」は,必要なハザード情報やリアルタイムの災害情報を確認できるシステムだ。地震関連のほかに「洪水」「高潮」「土砂」などのハザード情報や,想定地震の道路の通行止め情報による支援物資輸送ルートの検討を手助けする「物資搬送ルート」を確認できる。
また,SNSに投稿される災害情報がリアルタイムで表示される「SNS災害情報」や,「天気予報」「気象警報」,河川の「氾濫速報」,現場や竣工物件での震度や構造被害推定を確認できる「地震速報」など,災害時の行動判断に役立つメニューが揃っている。
地震や気象警報などのリアルタイム情報は,あらかじめ地点登録しておくことにより社員へメールが送信されるプッシュ型配信も備えられている。