ホーム > KAJIMAダイジェスト > April 2015:特集「国宝・姫路城『平成の保存修理工事』~次の世代へつなぐ~」 > Interview 「平成の保存修理工事」を終えて

KAJIMAダイジェスト

Interview 「平成の保存修理工事」を終えて

国宝・姫路城が「平成の保存修理工事」を終え,約5年半ぶりにお披露目となった。
姫路城は,世界文化遺産にも登録され,日本だけでなく,世界中から親しまれてきた。
工事の完成を祝し,社外の方々からよろこびの声をうかがった。

次の世代に重要文化財をつなぐために

文化庁 文化財部 参事官(建造物担当)付
修理指導部門 主任文化財調査官

豊城浩行

重要文化財の保護で,技術上の総括的な指揮監督にあたっているのが文化庁。現在,建造物において重要文化財は2,428件,うち国宝は221件あり,豊城氏は,計画当初から姫路城大天守保存修理事業に携わっている。

写真:豊城浩行 氏

このたび,約5年半におよぶ工事を終え,ついに姫路城大天守保存修理事業が完了しました。国宝・姫路城は,日本に現存する城のなかでも保存状態がよく,世界的にも類のない木造建築であり,1993年に日本で初めて世界文化遺産に登録されました。五重6階の大天守と3つの小天守が渡り櫓でつながれた連立天守は複雑な構造で,その修復は一筋縄ではいきませんが,徹底した工程管理や職人の確保など,総合建設業ならではの総合力で,安全にかつ短期間で「平成の保存修理工事」を見事に完成させてくれたと思います。

今回の修理では,次の世代につながる成果が幾つもありました。第一に,大天守修理見学施設「天空の白鷺」の成功です。これまでにも,文化財の保存修理工事は現場見学会の開催や見学用に設けた櫓から見せることは行っていましたが,今回のように大規模な見学施設を試みたのは初めてでした。素屋根にエレベータを設置することで,世界文化遺産の貴重な修理の様子を見学できるようになっただけでなく,高齢者や身体が不自由な方でも大天守を見学することが可能になりました。2011年にオープンし,閉館するまでの約2年10ヵ月間で約184万人の来館者数を記録しました。他の文化財保存修理事業でも,姫路城に倣って見学施設を設けるところが出てきています。今回の工事は,重要文化財の保存修理事業の新たな形をつくったといえるでしょう。

改ページ

第二に,瓦葺きや漆喰の完成度の高さです。「昭和の大修理」が行われた当時は,経済的にも体制的にも十分でなく,古い瓦が相当数使われたりしていました。「平成の保存修理工事」では,こうしたものも含め,100年先まで持つ程の見事な仕上がりです。ただし,文化財を次の世代に残していくためには,技術の伝承が欠かせません。文化庁では,伝統的な技術や技能を「選定保存技術」として選定し,それらを保持する個人や団体を認定しています。年に数回の研修や記録作成・刊行などに助成して支援を行っています。今回も有望な10代の職人が抜擢されており,若手の活躍が積極的に見られました。こうした場を作ったということも重要な成果です。

また,今回の大修理では,大天守最上階の四隅から「幻の窓」が発見されました。姫路城のように大規模な修理が何度も行われている文化財でも新しい発見があることが面白いところです。今回,柱の頂部の一部に鋼板を設置するなど耐震補強も行っていますが,文化財の保存修理事業ではできる限り文化財に手をつけず,元のあるべき姿に戻すことが基本です。木造はまだ解明されていないことも多く,研究の余地がある分野ですから,解析技術の向上により,補強の必要がないという結果に至った際には取り外せるよう,設置の仕方に工夫を施しています。

私たちは,先人が築き上げた遺産を次の世代へ残し,伝えていく責務があります。姫路城は,姫路市だけでなく,日本のシンボルです。これからも多くの人々に親しまれる姫路城であってほしいと思います。

特別史跡のなかで学べるよろこび

兵庫県姫路市立白鷺中学校 校長
米田淳二 先生

兵庫県姫路市立白鷺(はくろ)中学校は,1947年に開校。2009年からは,同年に開校した姫路市立白鷺小学校とともに姫路市初の小中一貫校としてスタートさせた。2014年10月には,小中一貫教育全国連絡協議会主催の「小中一貫教育全国サミットin姫路」で公開授業を実施し,全国の教育関係者から注目されている。

写真:米田淳二 先生

我が校は,姫路城の別名「白鷺(はくろ)」を冠し,姫路城の大手門に程近い場所に建てられています。ここは特別史跡内でもあり,姫路城が目の前にそびえ立つことが学校のアイデンティティを形成してきました。「朝そびゆる いらか 紅に白鷺城は匂う」などと,お城の美しさが校歌で歌われているのも,特徴の一つです。子どもたちにとっては,あまりに身近な存在で,普段は強く意識しないことも多いようですが,今年は姫路城大天守保存修理事業が完了することもあり,とくに姫路城の学習に力を入れてきました。

半世紀ぶりに行われた「平成の保存修理工事」ですが,地元の左官工事会社に協力を仰ぎ,実際に生徒に漆喰を塗らせてみたり,鹿島にもご協力いただき,野崎信雄総合所長のところに生徒が出向いてインタビューするなど,どれも貴重な体験でした。小中学生時代に,まちのシンボルであり,世界文化遺産の姫路城を学んでおくことで,子どもたちがやがて大人になり,日本各地,そして世界へ羽ばたいた時,いかに素晴らしい環境のなかで育ってきたのか,ということに気づくのではないでしょうか。伝統的な職人技と最新の建設技術とが融合したこの度の「平成の保存修理工事」は,今しかない,絶好の学習の機会だったといえるでしょう。子どもたちには,これらの体験を糧に心も身体も大きな人間に育ってほしいと思います。

改ページ

時代とともに歩む,姫路城

姫路フィルムコミッション
姫路観光コンベンションビューロー
姫路市観光交流推進室 主任

石田智亮

姫路フィルムコミッションは,姫路市の知名度の向上,イメージアップ,わがまち意識の醸成,地域の活性化を目的に,2001年に設立された。ホームページによる情報発信から情報誌「お城からの手紙」の発行,ロケの誘致・支援,宿泊施設や警備会社の紹介など,幅広い業務を持つ。石田主任は,メディア対応の窓口として活躍している。

写真:石田智亮 氏

姫路城は,全国から約100万人が訪れる市の観光名所です。2009年から「平成の保存修理工事」が始まり,大天守修理見学施設「天空の白鷺」の公開やNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」で取り上げられるなど,テレビをはじめ様々なメディアで注目を浴び,昨年には初めて年間の取材件数が100件を超えました。近年は,海外メディアからの取材依頼も増えており,中国や台湾,ヨーロッパからの外国人旅行客などが多く目立ちます。海外では,石造りの城が多いことから皆,“木造”の城だということに驚かれますね。

取材対応の際には,職人の伝統技術やお城を風雨から守った鉄骨造の素屋根を分かりやすく伝えようと心掛けていました。素屋根を利用した「天空の白鷺」が公開された時は,報道関係者もなかなか興奮が冷めない様子で瓦や漆喰を観察し,入念な取材を行っていました。「工事の見える化」は,大きな成果だったと思います。

「平成の保存修理工事」が終わったいま,姫路城の観光客数は200万人と,これまでの2倍以上になると予想されています。市では,多くの方々に姫路城の魅力を伝えるために新たな取組みも進めています。例えば,スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末上でAR(拡張現実)を利用したアプリの導入や,城内の展示方法をリニューアルするなど,姫路城を過去に訪れたことのある方でも新しい発見があるはずです。また,姫路城は映画やドラマなどのロケ地としても人気があります。甦った姫路城を観にぜひいらしてください。

ホーム > KAJIMAダイジェスト > April 2015:特集「国宝・姫路城『平成の保存修理工事』~次の世代へつなぐ~」 >
Interview 「平成の保存修理工事」を終えて

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ