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Project 1: 地産地消エネルギーの実現へ:しかおい水素ファーム

以降のページでは,水素社会に向けて,
現在当社が取り組んでいるプロジェクトを紹介する。

メタンガスの鹿島から水素の鹿島へ

本誌2018年2月号でも紹介した,北海道河東郡鹿追町で展開されている「しかおい水素ファーム®」が,今年3月,5年間の実証事業期間を終えた。そしてそれまでの成果が認められ,今月からさらに2年間の事業延長が決定した。

環境省の「地域連携・低炭素水素技術実証事業」に採択されたこの事業は,家畜のふん尿から水素をつくる世界初の取組みとして,当社を含む4社の共同事業として2015年にスタートしている。日本の酪農の中心地である北海道の地で「乳牛1頭のふん尿でFCV1台を走らせる」をキャッチフレーズにしたこの事業において,当社は長年培ったメタン発酵とバイオガスの利用技術をステップに,水素のサプライチェーンを構築。地産地消水素を中心に据えたエネルギーソリューションを提案している。

事業の延長を受けたこれからの2年間は,水素社会の実現に向けて,さらに踏み込んだ取組みを進めていく。そのポイントとなるのが「地産地消・分散型地域エネルギーとしての水素利用価値」と「実展開を考慮した水素利用への対応」だ。

当社のほかに,代表事業者であるエア・ウォーターが水素製造プロセスを統括。日鉄パイプライン&エンジニアリングは水素ステーションのエンジニアリングを担当。日本エアープロダクツはメタン精製設備を担当している

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図版:しかおい水素ファーム全景

しかおい水素ファーム全景

乳牛1頭のふん尿で
FCV1台を走らせる

乳牛1頭が1年間に排出するふん尿は約23t,そこから水素ガス約80kgが製造でき,FCVが約1万km走行できる。国内自家用車の平均年間走行距離の約6,300km(2018年),道内の平均年間走行距離の約9,700km(2005年)を十分にカバーする水素量だ

地産地消のエネルギー

しかおい水素ファームが位置する北海道は,豊富な再エネ源を保有する一方で,その広大さゆえの大規模集中発電からの電力に依存する脆弱性が懸念される。こういった地域では,その地に合ったエネルギー資源から水素を製造し,プロパンガスや灯油のようにタンクに詰めて運搬,供給使用する「エネルギーの地産地消」が特に有効だ。地域の基盤を強化するとともに産業の創出へとつなげられる可能性が高い。このように,エネルギーの地産地消を実現するためには,地域の地理的特徴と産業構造の理解が必要であり,そこに当社が総合建設業として長年蓄積してきたデータとノウハウが役に立つのだ。

さらに近年はBCPの観点からも地域独自のエネルギーは注目が高まっている。約1年半前,平成30年北海道胆振東部地震において,北海道全域がブラックアウトしたことは記憶に新しいが,その日もしかおい水素ファームでは施設内でつくられた水素をもとに自家発電を行っていた。今後,このような施設が地域エネルギー計画の中核を支えることができるポテンシャルを示した出来事であった。

これからの2年間では,高効率でCO2削減を叶える,純水素燃料電池の普及に向けた実証事業を行う。さらに,利用設備における水素利用量のモニタリングを実施し,水素運搬および貯蔵の効率化を進めていく。また,防災イベントなど地域と連携した運用実験で,住民との接点を増やし,水素エネルギーの理解促進をめざしていく。

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水素社会の実展開に向けて

こうしてサプライチェーンを含む技術的実効性を確認する段階を経て,次なる目標は普及性の向上だ。

水素は可燃性ガスであるため,一般的に貯蔵に使用されるボンベを束ねたカードルや低圧タンクには,保安上の制約がある。そのため,貯蔵量によっては市街地や住居地域での導入に制限があるのが実情だ。そこで新たに,水素を吸着する性質のある金属を用いた水素吸蔵合金タンクを用いた,非危険物としての貯蔵を試みる。従来の方法に比べ重量があり,水素充填時には冷却が,使用時には加温が必要となるなど,取扱いが難しい面もあるが,水素社会の広まりに伴い市街地における需要が見込まれている。

これまでの実証実験に引き続き,酪農家などへの供給には,より多様な需要のあり方を想定し,複数箇所や多量,高頻度の運搬を実施していく。具体的には,水素ステーションで水素を充填し,据え置き型の純水素型燃料電池や水素吸蔵合金タンク,農業用倉庫内のFCフォークリフトへ供給する簡易型水素充填車を新たに導入する。

新たに実証を行うおびひろ動物園では,園内の主要施設をカバーできる30kW級の燃料電池を設置する。これは,実際の公共施設や酪農家などの電力需要を調査して最適な規模を判断したもので,これによって小学校や役場など,より多くの施設への対応を確認する狙いだ。

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図版:しかおい水素ファームで実証実験が行われている,水素サプライチェーンの全体像

しかおい水素ファームで実証実験が行われている,水素サプライチェーンの全体像

公共施設での実証

今回の同動物園における実証実験の実現には,道内での水素社会への期待のほどが表れていると言えるだろう。本事業は当初から北海道庁,鹿追町,帯広市,北海道大学,帯広畜産大学などのバックアップを受け,産官学が一丸となった取組みとなっている。おびひろ動物園は帯広市の中心部,緑ヶ丘公園内に立地しており,市民にとってはなじみの深い施設。停電時を想定した市民向けの電力供給実験も予定されており,水素社会という未来を身近に感じる好機会となるだろう。

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図版:新たに導入される簡易型水素充填車。サプライチェーンの一部となり酪農地帯とまちを結ぶ役割をもつ

新たに導入される簡易型水素充填車。
サプライチェーンの一部となり酪農地帯とまちを結ぶ役割をもつ

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