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Project 2: 世界最大の再エネ由来の水素製造施設:福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)

注目のプロジェクト

再エネを利用した世界最大のCO2フリー水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が福島県双葉郡浪江町の棚塩産業団地に完成。3月7日に行われた開所式には安倍首相らが出席した。

本施設は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)の委託事業の実証フェーズとして,東芝エネルギーシステムズ,東北電力,岩谷産業の3社が建設。将来の再エネの導入拡大を見据え,電力系統の需給バランスを調整する機能としての水素事業モデルと水素販売事業モデルの確立をめざし技術開発を行っている。

当社は東芝エネルギーシステムズから発注を受け,水素製造建屋,管理棟,受変電設備,ユーティリティ設備,水素ガス貯蔵充填設備建屋,プラントへの電力供給用の20MWの太陽光発電設備と,敷地外約7kmの自営線の設計・施工を担った。約13.8haに及ぶ敷地に展開された前例のない施設に,環境本部,エンジニアリング事業本部,建築設計本部,東北支店のチームで取り組んだ。

委託事業名称:
水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発/再エネ利用水素システムの事業モデル構築と大規模実証に係る技術開発

図版:福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)全景

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)全景

撮影:川澄・小林研二写真事務所

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福島から発信する未来

敷地である棚塩産業団地は,「福島イノベーション・コースト構想」**を推進する先進的な産業の誘致・創出拠点として構想され,2018年4月から当社JVが造成を行った。約49haの敷地は,FH2Rのほか,無人航空機(ドローン)用滑走路として,飛行・操縦訓練が行われる予定の約5.1haの「福島ロボットテストフィールド」と11.1haの企業誘致エリアからなる。

**福島イノベーション・コースト構想:
東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域などの産業を回復するために,新たな産業基盤の構築をめざす国家プロジェクト

図版:3月7日に行われた開所式では安倍首相をはじめとした参加者によるテープカットが行われた

3月7日に行われた開所式では安倍首相をはじめとした参加者によるテープカットが行われた
(出典:首相官邸ホームページ

土木工事
――20MWの太陽光発電設備

本事業を特徴づける大規模太陽光発電設備。太陽電池パネル約7万枚とパネル架台の設置および基礎工事や,場内の電気工事,排水工事,フェンスの設置などを含む太陽光発電設備工事一式を指揮した菊地隆史所長は,工事を振り返ってこう語った。「10MWの太陽光パネル敷設工事を単年度ずつ,2つの別工事のかたちで実施しました。許認可申請もそれぞれの年で実施する必要があり,施工期間が思った以上に短かった。それが最大の課題でした」。

さらに,福島県浜通りという立地の難しさもあったという。「現状,この地域には環境省の工事が集中しており,加えて福島県は太陽光を含む再エネ普及を促進しているため,専門作業員が集まりにくい状況でした。短工期ゆえに集中的な人員確保が必要ななかで,作業員は北は北海道,南は九州と全国から集まってもらいました」。

図版:菊地隆史所長

浪江棚塩地区
メガソーラー建設工事
菊地隆史所長

課題はほかにもあった。本工事は事業用地が決定した時点で敷地はまだ造成中。引渡しは分割で行われたうえ,太陽電池パネル設置範囲は敷地のほぼすべてになるため,資材置き場の余裕をもてない施工条件であった。そのため,菊地所長は効率よく敷地を運用する事前計画に力を注いだという。しかし,工事を行った2018,19年度は大型台風の上陸が相次ぐなど,現場は想定外の連続だった。「各種資材を工事進捗に伴って搬入していくのですが,18年度は台風の影響で海外からの資材の一部が予定通りに到着せず,思うように工事を進められませんでした。続く19年度も,関東を直撃した台風15号以降の気象現象の影響により部品の工場出荷が1ヵ月半程遅れるなど,想定外の事態がありました。施工エリアの工程組替えなどの工夫で対応しました」と,当時の苦労を振り返る。

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このような状況においても工期を遵守できたのは,作業に当たった関係者全員の熱い想いがあったからだという。「集まった作業員は,国家プロジェクトということを誇りに,非常に高い意識をもって取り組んでいました」。

図版:太陽光モジュール設置工ダイジェスト, 太陽光モジュール電気工ダイジェスト, 中間変電設備設置工ダイジェスト

10MW級P2Gプラント
太陽光発電設備
建設工事

場所:
福島県双葉郡浪江町
発注者:
東芝エネルギーシステムズ
CM:
日建設計コンストラクション・
マネジメント
設計:
東北支店土木部
規模:
太陽光パネル285W/枚×17,600枚,
280W/枚×17,820枚 
中間変電設備5基(PCS,Tr,LBS盤)
工期:
2018年4月~2019年3月

10MW級P2Gプラント
太陽光発電設備
建設II期工事

場所:
福島県双葉郡浪江町
発注者:
東芝エネルギーシステムズ
CM:
日建設計コンストラクション・
マネジメント
設計:
東北支店土木部
規模:
太陽光パネル305W/枚×33,000枚 
中間変電設備5基(PCS,Tr,LBS盤) 
防塵対策工(防草シート工)約150,000m2
工期:
2019年4月~2020年3月

(ともに東北支店施工)

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建築工事
――前例のない大規模水素プラント

建築工事を担当した山口憲一所長は,これまでバイオマス発電施設や焼却炉施設などの現場を経験してきた。「プラント工事はプラント機器の選定・配置などの計画変更により,建築図面の変更・遅延が頻繁に起こりやすい特徴があります。工期を守るためには現場工事工程と作図工程の綿密な調整が必要になり,時には工程の見直しを行うこともあります。また総合仮設計画から建築・プラント双方の工程調整など,プラントエンジニアとの綿密な調整が欠かせません」。前例のない規模となった本施設において,その苦労は通常のプラント工事の何倍もあったことは想像に難くない。

本工事では工事の規模・注目度の大きさゆえの対応も求められた。「建設過程においても多方面からの視察・取材があり,昨年は年間100件以上の視察に対応しました。数多くの関係者・組織があるため,会議数が多く,また飛び交うメールは膨大な量で,所員幹部のメールは一日100件以上が日常茶飯事という状況でした」と語る山口所長は,所員が本業に集中できるよう,全体を掌握し関係者や組織の対応を一手に引き受けた。

図版:山口憲一所長

福島水素PJ
プラント建設工事
山口憲一所長

そんな多忙な現場であっても,建物の品質管理は一切怠らない。一般に「突然の爆発が怖い」という印象をもたれる水素。建築の設計・施工においては,水素を“漏らさない・検知したら止める・万が一漏れても溜めない・着火させない”の4点を徹底する必要がある。当工事においても,水素ガス貯蔵充填建屋の施工中,屋根端部における水素溜まりの危険性を発見し,現場にてディテールを検討,改良する場面も見られた。

図版:一般的な屋根納め

一般的な屋根納め

図版:水素抜きカバーを設置した屋根納め

水素抜きカバーを設置した屋根納め

工事全体を振り返って山口所長の心に残ったのは,人の力だ。「山根さんをはじめとした東芝エネルギーシステムズの担当者の方々が,数多くの関係者が関わるプロジェクトを牽引するのに非常に苦労されていた。山根さんの人間性や仕事に対する前向きな姿勢があったからこそ成功したプロジェクトだと思います」。

「現場では所員・協力会社が団結し,国家プロジェクトに携わっている高い意識を感じられました。本社・支店関係者より多大な支援を頂きながら福島の復興と最先端の次世代エネルギー事業の両面を併せもつプロジェクトへ携われたことに感謝いたします」。

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図版:水素製造建屋

水素製造建屋

図版:水素ガス貯蔵充填建屋

水素ガス貯蔵充填建屋

図版:管理棟

管理棟

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福島水素プロジェクトプラント建設工事

場所:
福島県双葉郡浪江町
発注者:
東芝エネルギーシステムズ
CM:
日建設計コンストラクション・
マネジメント
水素電解設備:
旭化成エンジニアリング
基本設計:
当社建築設計本部
実施設計:
東北支店建築設計部
用途:
工場(水素製造施設)
規模:
水素製造建屋―S造 2F 
管理棟―S造 1F 総延べ985m2
工期:
2018年7月~2020年7月

福島水素プロジェクト
水素ガス貯蔵充填設備
建設工事

場所:
福島県双葉郡浪江町
発注者:
岩谷産業
設計:
東北支店建築設計部
水素ガス貯蔵充填設備:
岩谷瓦斯
用途:
工場(水素ガス貯蔵充填施設)
規模:
水素ガス貯蔵充填建屋―S造 1F 
散水ポンプ室―S造 1F 総延べ1,226m2
工期:
2018年12月~2020年3月

(ともに東北支店施工)

図版:土木・建築所員の集合写真

土木・建築所員の集合写真

撮影(特記以外):川澄・小林研二写真事務所

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