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水素“社会”へのスケールアップをめざして

東芝エネルギーシステムズ
水素エネルギー事業統括部 グループ長
山根史之

水素社会への布石となるこの実証実験を実施するのは
東芝エネルギーシステムズ,東北電力,岩谷産業の3社。
なかでも,“2030年のエネルギー”を思い描き,
課題設定からフィジビリティスタディ,
実証までをリードした東芝エネルギーシステムズの
山根史之氏に話を伺った。

写真:山根史之

事業の2つの意義

まず本事業の意義について山根氏は語る。「製造時に二酸化炭素が発生しないCO2フリー水素を,大規模製造で実現することです。水素“社会”というスケールで展開していくためには必要なことです」。

また,電力の需給問題についても,「この先,再エネが普及するにつれ,電力が余る場面が頻発するようになるでしょう。たとえば地域によっては,太陽光発電の電力量が需要を上回り,再エネ出力を制御する事態がすでに起こっています。この余剰電力を水素に変換させることで,自然エネルギーにつきものである供給の波を整えることが,再エネ導入の拡大を支えることになります。こうした仕組みが,火力発電などほかの発電方法に対してもエネルギー効率を高め,地域の電力系統の需給調整としても役立つのです」。水素の大規模な生産と,電力の調整力という2つの意義を両立させる,マルチなエネルギー施設というわけだ。

20MWの太陽光パネルを備えた,世界最大規模の再エネ水素製造施設。しかし,「ゆくゆくはこの数十倍規模の水素プラントがつくられていくことになるでしょう」という。「既存の技術では,太陽電池と水素製造設備の間に蓄電池を置き,太陽光発電の出力変動を吸収し安定した電力によって水素を製造するという手順が現実的でした。しかし,それではスケールアップしていく際に蓄電池のコストがネックになってしまいます。蓄電池を用いずに不安定な太陽光発電の電力のまま水素製造設備を動かすシステムの必要性を認識し,世界最大級の規模に対応できる新たな制御システムを開発,実装しました」。

工程管理に見るプロ意識

克服すべき課題が多く,非常にチャレンジングな事業となった本施設。鹿島が事業に参画するきっかけとなったのは当社が長年関わってきた「霧島酒造バイオガス発電設備工事」(宮崎県都城市)だった。「公開入札となった建設工事の発注にあたっては,大量の水素を製造する難易度の高いプロジェクトであることから,水素プラントの実績も重視しました。しかし,入札を実施した2017年の時点ではまだどこも小さな規模しか経験がなかった。そのようななかで鹿島さんには水素と性質が似たメタンガスの大規模な実績がありました。ほかにも,大きな製薬工場の実績など,エンジニアリング力の高さも強みでした」。

また,工期の厳密さも重要なポイントだったという。「実証事業ですから,定められた期間内に必ず成果をあげなければなりません。ですが,工程管理の面では鹿島さんに意見をしたことがなかったのです。自営線工事やプラント工事,土木工事も,当初の想定と実際の条件が違ってしまった場面が幾度もありましたが,『やる』と言ったことは絶対にやってくれる。そうした姿勢がとても頼もしく,全幅の信頼を置くことができました」。

「鹿島の人は技術,営業から現場まで高いプロ意識をもっており,それぞれの風通しが良い。もっている技術力や知見で,さまざまな問題をカバーされていたのが印象的でした。このプロジェクトは,鹿島の総合力のおかげで成功したと言ってもいいと思います」。

図版:福島水素エネルギー研究フィールド概念図

福島水素エネルギー研究フィールド概念図。青色で囲まれた範囲が本施設における実証実験の内容である。FH2Rでは1時間あたり1,200Nm3の水素を製造可能。1日の水素製造量は28,800Nm3(約45MW)となり,約150世帯分の1ヵ月の電力を供給,またはFCV約560台を満タンにできる

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