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特集 水素社会の現在地

石炭がエネルギーの主役だった19世紀,
そして石油へと移行した20世紀後半を経て,21世紀は再生可能エネルギーの時代となるだろう。
その再生可能エネルギー活用のカギを握るのが,水素である。
今月号では,来たるべき水素社会の姿と,そこで期待される建設業の役割を特集する。

図版:3月に開所した福島水素エネルギー研究フィールド

3月に開所した福島水素エネルギー研究フィールド(福島県双葉郡浪江町)

撮影:川澄・小林研二写真事務所
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水素エネルギー入門

本特集の主役である水素や水素エネルギー。
次世代エネルギーとして期待される理由や,
そもそもの仕組みについて解説する。

水素社会の幕開け

東京2020オリンピック・パラリンピックは,エネルギー新時代の幕開けを告げるイベントとなるだろう。水素を燃料とする500台の燃料電池自動車(FCV)と100台の燃料電池バス(FCバス)が競技会場周辺を走行し,選手村には純水素燃料電池が配備される。そしてその熱戦を象徴する聖火台には,水素の炎が灯される計画だ。

すでに水素版ガソリンスタンドともいえる水素ステーションは国内各地で建設が進んでいるなど,水素エネルギーは少しずつ身近になってきた。私たちはいま,化石燃料に依存する時代から,水素を主要エネルギー源として日常生活や産業活動に用いる「水素社会」へ足を踏み出している。

クリーン,そして可能性に満ちた
エネルギー

政府は水素普及への取組みを促進しており,世界に先駆けた水素社会の実現をめざし,2017年に開催された「第2回再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」において「水素基本戦略」を打ち立てた。そのなかで安倍首相は,エネルギー安全保障と温暖化問題を解決する切り札として水素を位置づけている。

水素が未来のエネルギー源として期待されている理由のひとつは,地球上に豊富に存在する水から製造でき,使用時に二酸化炭素を一切排出しないことだ。水素の製造方法はいくつかある。中学理科の実験でおなじみの水の電気分解(水電解)はそのひとつ。なかでも再生可能エネルギー(以下,再エネ)由来の電気でつくる水素はCO2フリー水素と呼ばれ,地球温暖化対策の具体案として注目を集めている。

[水素のつくり方①]水電解

水を電気の力で水素と酸素に分解する方法。福島水素エネルギー研究フィールドはこのタイプ

図版:水電解
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また水素は,再エネの電力需要供給調整役としても期待されている。自然由来ゆえ供給の安定性に課題がある再エネだが,需要を超えて発電された分を水電解に使用して水素にすれば貯蔵が可能になる。反対に,発電量が不足する時には水素をエネルギー源とする燃料電池(FC)によって電力を供給するサイクルを利用して,再エネ利活用と電力の安定供給を両立するというわけだ。

現在,日本のエネルギー自給率は8%(2017年時点)と低い状況にあるが,多くの自然エネルギーに恵まれた国土を活かし再エネの導入を拡大していくことで,エネルギー自給率の向上が見込まれる。再エネ利用が進んでいけば,燃料を海外から輸入している現状と比べて,エネルギーを生み出すコストは着実に小さくなっていく。このことは,あらゆる製品の製造コストダウンを意味し,エネルギー源の転換によって貿易収支を改善していける可能性もあるのだ。

図版:再エネと水素の相性

水素は再エネ由来電力の需給調整役としても大きな期待を集めている。従来,この役割は蓄電池が担っていたが,蓄電池などの二次電池には時間の経過とともに蓄えられた電力が減少する自己放電という現象がつきもの。一方,水素は物質的に安定しているため長期保管に向いており,タンクに詰めて輸送することも可能で,蓄えるエネルギー量が大量になる場合はコスト面でもメリットがある。将来的には双方の長所を活かし,昼夜の需給調整など短時間の差は蓄電池,季節差や地域間の需給調整は水素を用いて再エネ電力を効率的に利用する仕組みが一般的になるだろう
出典:東芝エネルギーシステムズ「福島水素エネルギー研究フィールドについて」をもとに作図

メタンガスから水素へ

水素の主な製造方法にはもうひとつ,メタンガスなど炭化水素ガスと高温の水蒸気を反応させる水蒸気改質と呼ばれる方法がある。独自のメタン発酵技術を保有する当社は,長年バイオガスプラントの設計・施工・維持管理に関わっており,そこで培ってきたノウハウがいま水素関連事業にも活かされている。高い技術力を有する総合建設業者としてプラントの設計・施工に加え,水素をつくる,運ぶ,使う,という一連のしくみ(サプライチェーン)の構築,水素を利用した地域のエネルギーソリューション提案など,当社は水素社会を支えるサービスをトータルで提供していく。

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[水素のつくり方②]水蒸気改質

汚水やごみ,生物の排泄物から生じるバイオガスなどに,高温の水蒸気を反応させることで水素を発生させる。しかおい水素ファーム®はこちらのタイプ

図版:水蒸気改質

スマートシティを支える

国内外で建設が進んでいるスマートシティは,IoTなど先進的技術を用いて地域の機能やサービスを効率化し課題解決を図り,快適性や利便性を含む新たな価値を創出する次世代型のまちのあり方だ。そのメニューのひとつに,スマートグリッドと呼ばれる次世代送電網がある。発電所からの電力供給を効率化すると同時に,スマートシティ内の建物に備えられた太陽光パネルやマイクロ風車など小規模な再エネ発電設備をネットワーク化し,電力の地産地消を可能にする仕組みだ。災害などによって万が一発電所が機能しなくなった場合にも,地域内に蓄えた水素などのエネルギーで電力を賄うことが可能になる。

また建物の単位でも,災害時に電力の供給がストップした際の非常用電源として,水素を備蓄し,緊急時には燃料電池で自家発電を行うといったBCP(事業継続計画)の選択肢も,今後ますます一般的になっていくだろう。レジリエントなインフラの実現策としても水素は注目を集めている。

SDGs達成の切り札に

当社が全社を挙げて取り組んでいるSDGsに照らし合わせると,当社の7つのマテリアリティ(重要課題)のうち「低炭素社会移行への積極的な貢献」「新たなニーズに応える機能的な都市・産業基盤の構築」「安全・安心を支える防災技術・サービスの提供」の3項目に水素エネルギーが関わっていることがわかるだろう。エネルギーを中心にインフラを変え,都市や建物も変え,私たちを取り巻く環境を大きくアップデートするのだ。

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CO2フリー水素のサプライチェーンの概念図

CO2フリー水素のサプライチェーンの概念図

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