
パリの街を彩るものたち。メトロ入り口はアール・ヌーヴォーの傑作とされる
生きた歴史博物館
パリには「華の都」の名がある。いうまでもなく,世界中の人が憧れる観光都市である。凱旋門やエッフェル塔,オペラ座など,誰もが知っているランドマークがある。加えて,ノートルダム大聖堂,サクレ・クール寺院,サント・シャペルなど,著名な教会が点在している。
またパリには「芸術の都」の異名もある。世界中の人が訪れる文化的な都市だ。ルーブル美術館,オルセー美術館,オランジュリー美術館,ピカソ美術館など,素晴らしい収蔵品を誇る美術の殿堂がある。加えて,ポンピドゥー・センターやグラン・パレなど,年間を通じてさまざまな催事が行われるミュージアムもある。
もっともパリは,街そのものが「生きた歴史博物館」である。セーヌ河畔に遥かにそびえ立つエッフェル塔や,アール・ヌーヴォーの代表作である,ギマールがデザインしたメトロ入り口といった近代建築も,竣工時にはその斬新さが強調されたが,やがて都市の歴史と伝統に組み込まれ,パリという博物館の陳列品となった。ポンピドゥー・センターやケ・ブランリ美術館,アラブ世界研究所などの現代建築の名作も同様である。
ミニチュアサイズの建築からも,私たちはパリ独自の香りを感じ取ることができるのだから不思議なものだ。

凱旋門。蓋が開いて小物入れになる
空想と想像のなかに
ミニチュアは,私たちの空想力と想像力を喚起する。
たとえばガウディのサグラダ・ファミリア教会の場合,現在も工事が進捗中なのだが,将来における完成予想図そのままのミニチュアが,すでに土産として販売されている。
対して,空想上の建物,あるいは完成を見なかった建物のミニチュアも販売されることがある。世界七不思議に数えられるアレクサンドリアの大灯台や,バベルの塔のミニチュアなどが好例だ。
一方で失われた名建築を再現する建築ミニチュアもある。
ここでは,パリ・シテ島にあるノートルダム大聖堂のミニチュアを紹介したい。周知のとおりちょうど1年前の火災によって,石造りの双塔などのファサードはそのままに,木造の屋根と躯体などは焼け落ちた。内部の十字架が姿をとどめたのが奇跡であると報じられたことも記憶に新しい。
現在,再建途上にあるが,土産物店で販売されているミニチュアは,以前のままだ。足場を組みあげている現状でも,完成予想の模型でもない。縮景のなかに,かつてあった聖堂の姿を見ることで,私たちは安心することができる。パリを流れる時間は過去から現在,そして未来に向けて緩やかに流れている。いかなる災害があろうとも,私たちのパリは,パリであり続けるのだ。

昨年に大火災を受けたノートルダム大聖堂
ミニチュア提供:橋爪紳也コレクション