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大熊町

再び生活を取り戻すために

図版:帰還困難区域

JR大野駅周辺を取り囲むフェンスの向こう側が
帰還困難区域

大熊町特定復興再生拠点区域 被災建物等解体撤去等及び除染等工事 (その2)(その3)(その4)

場所:
福島県双葉郡大熊町
発注者:
環境省
施工者:
(その2)―鹿島・東急・鉄建特定建設工事共同企業体
(その3),(その4)―鹿島・東急特定建設工事共同企業体
業務:
解体工―対象建物等約800件
除染工―住宅地,大型施設,道路,農地,草地・芝地,果樹園,森林など
工期:
2019年1月~2021年6月

福島県双葉郡大熊町に町民が戻れるようになったのは2019年4月。東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所の事故により,全町民1万1,505人が町外での避難生活を余儀なくされてから,8年余りの月日がかかった。大熊町は大川原地区など避難指示が解除された一部地域に,新たな役場庁舎や復興公営住宅,仮設店舗などを整備。少しずつ人々の営みを取り戻そうとしている。

帰還困難区域(高線量地域)に指定された地域は町民の約96%が居住していたまちの主要部にあたる。大熊町は帰還困難区域である下野上地区などのまち中心部を特定復興再生拠点区域と定め,除染およびインフラ整備などを一体的に進めることにより,2022年春頃までに当該区域の避難指示解除を目指している。その中で当社JVは,所有者から環境省に解体申請のあった被災建物解体工事と,住宅地や農地,道路,森林などの除染工事を2019年6月から本格的に行っている。

※特定復興再生拠点区域:
将来にわたって居住を制限するとされてきた帰還困難区域内に,避難指示を解除して居住を可能にすることを目指す地域

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図版:地図

現場を取り仕切るのは上木泰裕所長。これまで東京都心でシールド工事など都市土木を多く担当してきた。赴任当初は初めての工事に戸惑うこともあったと話す。「まち全体が作業範囲。その中で線量管理をしながら社員・作業員の安全を守ることの難しさを感じました」。広範囲かつ複数工種が同時並行で進む現場は,最盛期にはJV職員約200人,作業員約1,300人が作業に従事した。

難しさを感じたのは工事内容だけではない。現場に立ち並ぶ建屋一つひとつに,さまざまな思いが詰まっている。「私たちは所有者の方々の“思い出”を扱う仕事であることを重く受け止め,丁寧に工事を進めていくことを心がけています」。

「一人ひとりの力を貸していただきたい」。朝礼や安全大会,災害防止協議会などのたびに,上木所長はJV職員・職長・作業員に語りかける。工事エリアには,区域内の自宅の様子を見に帰られる方もいる。線量管理を含めた作業員の安全,町民への配慮,さらには昨年来の新型コロナウイルスの感染防止にも努める必要があり,一人ひとりが安全への強い意識をもって作業にあたることが大切となる。「現在の町内居住者数は震災前の約2.5%程度だと聞いています。大熊町の復興はこれからです。復興に向けた基盤をつくるこの工事を,工期通りに遂げることが私たちの使命です」。

図版:上木泰裕所長

上木泰裕所長

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図版:仮設焼却施設全景

仮設焼却施設全景

平成29年度から平成32年度までの大熊町における廃棄物処理業務(減容化処理)

場所:
福島県双葉郡大熊町
発注者:
環境省
実施者:
三菱・鹿島共同企業体
業務:
仮設廃棄物処理施設の設計・施工,施設の運営
業務期間:
建設―2016年5月~2018年1月 
運営―2018年2月~2022年3月

避難指示解除を目標に,中間貯蔵建設予定地内に仮設処理施設を建設し,大熊町などで発生した放射性物質を含む可燃性廃棄物(津波廃棄物・片付けごみ・家屋解体廃棄物・除染廃棄物)を焼却により減容化する事業が進行している。「大熊町における廃棄物処理業務(減容化処理)」を担当するのは三菱(三菱重工環境・化学エンジニアリング)・鹿島共同企業体。2016年5月に着手した業務は,既に仮設焼却施設を構成する焼却施設,灰保管施設,これらに付随する施設の建設が完了し,2018年2月より処理業務が本格始動している。

図版:廃棄物破砕状況

廃棄物破砕状況

図版:焼却灰の処理

焼却灰の処理

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現場を主導する桑山武史所長が現場に着任したのは2019年6月。阪神・淡路大震災(1995年)の被害により発生した震災廃棄物の減容化処理を行う業務に従事した経験をもつ。「着任当初に比べ仮置場等の廃棄物が減ってきており, 確実に処理が進んでいることを実感します」。当業務は施設建設後, 約4年間を事業期間として約22万6,000tの廃棄物を減容化する計画で,3月までに約16万tの処理を終えている。

阪神・淡路大震災の発災時は神戸の現場に従事していた。当時の現場所長の判断で,発災翌日から宅地地図を片手に,建物が崩壊したまちなかの通行ルートを調べたことをよく覚えている。「きっとこういう事態にはインフラを熟知しているゼネコンが率先して動くべきと考えたのだと思います」。当時の所長の行動が,今ならわかると桑山所長は話す。

「通常の建設工事と異なり,終わりが見えづらい業務。だからこそ,発注者や大熊町内のほかの鹿島の現場と知恵を出し合いながら,少しでも合理的に業務を進めていきたいです」。未曽有の大災害で培ったノウハウが,大熊町の復興を進める力になる。

図版:桑山武史所長

桑山武史所長

図版:仮置場からの廃棄物の積込み

仮置場からの廃棄物の積込み

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図版:受入・分別施設全景

受入・分別施設全景

平成29年度中間貯蔵(大熊1工区)土壌貯蔵施設等工事

場所:
福島県双葉郡大熊町
発注者:
環境省
施工者:
鹿島・東急・飛島特定建設工事共同企業体
業務:
受入・分別施設と土壌貯蔵施設の建設,輸送用道路ほか周辺施設の整備,
除去土壌等の輸送・分別処理・貯蔵
工期:
2017年5月~2021年3月

除染により集積された放射性物質が付着した大量の土壌,草木などの廃棄物はフレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)に詰められ,県内各地の仮置場等に保管された。国は大熊町と双葉町の民有地・公有地あわせて約1,600haの広大な敷地に,除去土壌等を最終処分するまでの間,安全かつ集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設の整備を計画。仮置場等から約1,400万m3(2019年7月末時点の集計値)の除去土壌等の輸送がはじまった。

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図版:施設配置図

施設配置図

当社JVは「大熊1工区」を担当している。前例のないプロジェクトを指揮するのは小沢明正所長。当工事に向けた技術開発から携わる。当社JVは,中間貯蔵施設を構成する受入・分別施設や土壌貯蔵施設などの設計・施工業務および運営業務を2017年5月に契約。早期復興を目指し,施設計画と並行しながら同年9月に本格着工し,本社・支店の関係部署の協力を得ながら,予定通り2018年7月に供用開始を果たした。その後,除去土壌等の輸送,受入・分別施設などの運営,処理土壌の貯蔵にかかわる業務を担い,2月末までに約106万袋の輸送,約78万袋の処理と貯蔵を行った。

震災当時,東京で勤務していた小沢所長。発災翌月から約2週間,浜通り地区の応援に駆けつけた。「当時はまだがれきが散乱していましたが,今では整備が進み,減容化処理や中間貯蔵施設事業の進行に伴って目に見える形でまちからフレコンバッグも無くなってきました。避難指示も段階的に解除され町民の方々が戻ってくるのを見ると,少しずつ復興を感じます」。

ただ同時に,施設用地として大切な土地を手放した地権者がいることを忘れてはいけないと小沢所長は話す。現在,施設の一角に地権者の方が大切に育てていた植栽が囲われている。地権者と話し合い,そこに移植すると決めたものだ。2月末には,通り沿いに桜の新木を12本植えた。すべての地権者に何かができるわけではないが,「手の届く範囲で,できる限りのことを――」。

今後も除染土壌等の輸送や施設運営の業務が続く。「福島県全体が注目しているプロジェクト。最後まで関係者の思いを胸に丁寧な業務を進めます」。(小沢所長)

図版:小沢明正所長

小沢明正所長。
背後に土壌貯蔵施設(拡張南)が広がる

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図版:当工事で整備した専用道路と輸送車両

当工事で整備した専用道路と輸送車両

図版:施設の一角に移植された植栽

施設の一角に移植された植栽

図版:クリーンセンターふたば全景(2021年2月)

クリーンセンターふたば全景(2021年2月)

令和2年度から令和4年度までのクリーンセンターふたば整備工事

場所:
福島県双葉郡大熊町
発注者:
環境省
施工者:
鹿島・日本国土開発・パシフィックコンサルタンツ特定建設工事共同企業体
業務:
既存埋立地の復旧,新規埋立地の整備,浸出水処理施設の性能復旧などの設計・施工
工期:
2020年12月~2022年11月

復興を加速化する新たな工事が始まった。双葉郡内における住民の生活に伴って生じる廃棄物の処理先を確保するとともに,インフラ整備事業などに由来する廃棄物の処理を目的に,東日本大震災以降10年間稼働を停止している「クリーンセンターふたば」を整備する計画だ。

クリーンセンターふたばは産業廃棄物や双葉郡の一般廃棄物の最終処分場として2000年に当社施工によりつくられた。当社JVは,既存埋立地の復旧と新たな埋立地の整備,浸出水処理施設の性能復旧,そのほか付随施設の整備などの設計・施工を担当する。

現場を先導する西村吉央所長はこれまで,大熊1工区で複数ある工事チームを統轄する役割を務めてきた。四国支店では廃棄物最終処分場建設工事を担当したこともある西村所長だが,今回は今までと違った難しさがあると話す。「既存の処分場を復旧する工事があります。ある日突然停止した処分場を再稼働させるプロジェクトは,過去に例がありません」。浸出水処理施設が長期間停止しているため,施設内には未処理の水が溜まったままとなっており,中の様子を確認することができない。別途設置する仮設水処理施設で処理を行った後でなければ確認できず,工事は状況に応じた柔軟な対応が求められる。「入札段階から関係各部署より多くの協力を得ながら進めているところです」。

身近に心強い存在もいる。大熊町の隣,富岡町での復興工事に,兄の西村正夫所長が従事している。ともに震災以降,東北支店に配属された西村所長にとって,富岡町における復興工事の所長を務めている兄の存在は「励みになります」と微笑む。

現場は設計業務を終え,4月から伐採工事に着手する。「住民の方々が生活をするうえで必要不可欠な施設。発注者・管理者に満足してもらえるものを納めたいです」(西村所長)。

「前向きに明るく,工夫し挑戦してほしい」と,ともに大熊1工区の現場で過ごした小沢所長もエールを送る。いち早い復興を願う気持ちは,すべての復興工事に通じている。

図版:西村吉央所長

西村吉央所長

図版:小沢所長(左)と西村所長

小沢所長(左)と西村所長

図版:富岡町で復興工事に従事する兄の西村正夫所長

富岡町で復興工事に従事する兄の西村正夫所長

photo: takuya omura

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