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特別寄稿

東北の再建を推進してきた都市再生機構(UR)。当社もいくつものプロジェクトをともに取り組んできた。
URの理事長を務める中島正弘氏より,東北のこれまでと,これからのまちづくりについて,ご寄稿いただいた。

図版:中島正弘 理事長

独立行政法人都市再生機構
中島正弘 理事長

なかじま・まさひろ

1952年生まれ。京都大学経済学部卒。
1975年旧建設省(現国土交通省)入省。
国土交通省都市・地域整備局長,国土政策局長,
国土交通省総合政策局長を経て,2013年復興庁事務次官,
2014年復興庁顧問,内閣官房参与兼福島復興再生総局事務局長を歴任。
2016年より都市再生機構理事長に就任,現在に至る

はじめに

2011(平成23)年3月11日に発生し,太平洋沿岸部の広範囲に甚大な被害をもたらした東日本大震災の発災から,10年が経過しました。

独立行政法人都市再生機構(以下,UR)は,発災直後から被災地の復旧・復興を支援し,地方公共団体からの要請に基づいて復興市街地整備や災害公営住宅の建設を実施しました。これまでに26の被災地方公共団体と協定などを締結し,最大時には460名体制で,その後も事業の進捗に応じて体制を確保して復興まちづくりを着実に進めてきました。

津波被災地域での取組み

津波被災地域では,土地区画整理事業や防災集団移転促進事業など,さまざまな事業手法を組み合わせ,高台・内陸部への移転と既成市街地の嵩上げによる復興まちづくり,さらには災害公営住宅の建設を進めてきました。

東日本大震災は被災規模が極めて大きく,被災地が広範囲にわたる一方で,一日も早い住宅と生業の再建が求められました。そこで,民間のノウハウを活用し,工期の短縮や資機材の早期調達,施工方法の工夫を図るため,官民が明確な役割分担のもと事業を強力に推進する「復興CM(コンストラクション・マネジメント)方式」を導入しました。被災地の厳しい現場条件の中で,「復興CM方式」は復興まちづくりの推進に大きく寄与し,地元が待ち望む早期再建を成し遂げることができました。

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図版:女川町中心部,完成後の街並み

女川町中心部,完成後の街並み

出典:UR都市機構

URは津波被災地域において5,932戸の災害公営住宅建設と,22地区,約1,314haの復興まちづくりを地方公共団体,施工業者との三位一体で進め,本年1月をもって,すべての災害公営住宅および宅地の整備・引渡しを完了することができました。

また,被災地では道路や河川護岸,防潮堤など多くの復旧・復興事業が展開されているため,各事業者間で工程や工事ヤードを調整しながら進めていく必要があります。URは各地で復興まちづくりを進めてきた経験を活かし,宮城県気仙沼市や石巻市で事業者間の調整に係る支援を行っています。

さらにURはハードの整備だけでなく,災害公営住宅のコミュニティ形成支援を行ってきたほか,完成後の宅地の土地利活用促進に向けた取組みについても地方公共団体や地権者の皆様を支援してきました。宮城県気仙沼市の鹿折地区と南気仙沼地区では市と共同で「復興まちづくり事業者等エントリー制度」を導入し,沿道商業施設などの立地を促進させ,まちの賑わいの向上に寄与しました。

図版:宮古市田老地区,高台住宅地の造成状況

宮古市田老地区,高台住宅地の造成状況

出典:UR都市機構

原子力災害被災地域での取組み

一方,福島県の原子力災害による被災地域では,徐々に避難指示が解除されていますが,生活サービスの再開や住民コミュニティの回復への不安から帰還を迷っている方も多く,住民の帰還促進,地域の再生が大きな課題となっています。

こうした課題の解決に向け,URは大熊町,双葉町,浪江町において,①復興拠点の整備,②公的施設の発注者支援,③地域再生の支援を3つの柱として,それぞれ次に述べる内容を,渾然一体となりながら行い,復興まちづくり支援をしています。

I 復興拠点の整備

帰還される住民の生活再開や地域経済の再建の場となる復興拠点整備に向け,
構想・計画段階から事業実施までを支援

II 公的施設の発注者支援

町が発注する公的施設の建築工事などについて,設計および工事の発注手続き,
品質,工程,コストの管理,各種申請の手続きなどを支援

III 地域再生の支援

避難の長期化により,住民も経済活動もゼロから出発という背景を踏まえ,
持続可能な地域社会の再生に向けてソフト的な取組みを支援

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図版:原子力災害被災地域での支援の3つの柱

2019(令和元)年12月に「復興・創生期間後の基本方針」が閣議決定され,原子力災害被災地域は中長期的な対応が必要であり,引き続き,国が前面に立って取組みを行うこととされました。URも引き続き,福島の復興・再生に取り組んでいきます。

東北の都市再生

URでは,地域経済の活性化とコンパクトシティの実現を図るため地方都市の再生に取り組んでいます。2018年には,仙台市に東北まちづくり支援事務所を設置し,東北地方における取組みを本格化しました。

例えば福島県須賀川市では,震災後,被災した市役所の建替えなどの支援を行ってきましたが,引続き地元の方とも連携し,市役所周辺のまちづくりを支援しています。また,青森県むつ市では,地方再生コンパクトシティモデル都市である市の取組みをサポートしています。

東北の都市再生への期待

東北地方にはUR団地もほとんどなく,URはなじみの薄い組織だったと思いますが,復興支援を通じて,URの名前も浸透し,都市再生のご相談もいただけるようになりました。インフラや公共施設の再編,地域経済の活性化,災害に強いまちづくりなど被災地が取り組んだ課題は,全国共通の課題でもあります。今後は,復興支援はもとより全国のまちづくり支援で培った経験やノウハウを活かし,地方公共団体や民間企業の方々とも連携して,東北の都市再生が全国都市再生のモデルとなれるよう取り組んでいきたいと考えています。

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