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浪江町

地域経済を支える浜通りの中核都市の実現へ

図版:現場全景(2021年1月)

現場全景(2021年1月)

浪江町南産業団地造成工事

場所:
福島県双葉郡浪江町
発注者:
浪江町
設計:
浪江町
施工者:
鹿島・泉田特定建設工事共同企業体
規模:
造成面積45ha 切土量750,000m3 盛土量820,000m3
工期:
2019年12月~2022年3月(部分引渡し工期:2021年3月)

海・山・川に囲まれた豊かな自然を誇り,大堀相馬焼などの名産品でも有名な福島県双葉郡浪江町。浜通りの北部に位置するこの地もまた,東日本大震災による地震と津波,そして福島第一原子力発電所の事故の影響を色濃く受けた。町内全域に出された避難指示は,2017年3月に帰還困難区域を除く区域で解除された。そこを足掛かりに,浪江町は段階的に整備地域を拡大。生活環境の再建とともに「福島イノベーション・コースト構想」とも融合するまちづくりを目指している。

※福島イノベーション・コースト構想:
東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域などの産業を回復するために,新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト

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図版:地図

当社JVは,雇用の場の創出と新たな産業の集積を図ることを目的とした産業団地の施工「浪江町南産業団地造成工事」を,棚塩産業団地(2020年3月竣工)に続き,2019年12月から請戸地区で進めている。

山林が広がる約45haの開発地域を切り拓く工事。エリアは4つの工区に分かれ,そのうち1工区は今年3月末に先行で引き渡すことが決まっていた。「工事の目的は造成後の企業誘致です。誘致が進むよう先を見据えながら施工を行う必要があります」と現場を率いる平野明彦所長は話す。エリアは沢が多く,伐採工事には手間がかかり,本格的に造成工事に取りかかろうとした夏季は長雨に見舞われた。泥岩で構成された土壌では思うような進捗をあげることができない中,その間に地盤改良工事や工事用道路の切替えなど,浪江町が望む先行引渡しの形に向け,できることを先回りで対応してみせた。「それぞれの場面でベストな選択をすることで自ずと結果はついてきます。浪江町の再興を担う仕事を最後まで走り抜けたいです」(平野所長)。

図版:当社JV所員の集合写真

当社JV所員の集合写真

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図版:造成工事の様子

造成工事の様子

図版:平野明彦所長

平野明彦所長

共同企業体として,ともに工事を担う泉田組は1954年の設立以来,浪江町に本社を置く。大堀相馬焼の物産会館「陶芸の杜おおぼり」や今は震災遺構として残る請戸小学校の体育館,道路や河川工事など,町内のまちづくりを担ってきた。同社の泉田征慶社長は震災時,浪江駅近くの工事に従事していた。避難指示発令後はじめてまちに入った時の光景は忘れられない。「見渡す限りのがれき。いつもは見えるはずもない場所から海が見えました」

この10年間,泉田組はがれきの片付けや損壊した住宅の応急復旧,仮設住宅の整備など,復旧・復興工事に奔走した。避難生活を続けながらの業務に不安を抱いたり,体調を崩したりする従業員もいた。泉田社長は一人ひとりに寄り添いながら,浪江町の復興を願い続けた。「震災後の約半年間,私たち家族は新潟県妙高市でお世話になりました。地元の方々が本当に手厚く受け入れてくださりました。私たちもいつまでも与えられる側ではなく,与える側にならなくてはいけません。我々は引き続き浪江町の復興に全力を注ぎます」。震災以降,復興工事にあたる従業員の健康管理を気遣い,毎年従業員の体脂肪率を測り,結果が良かった人に景品を贈るようにした。「恥ずかしい結果とならないよう,私も頑張って食事制限に努めています」。そこにはあたたかみ溢れる笑顔があった。

図版:泉田組の泉田征慶社長

泉田組の泉田征慶社長

「南産業団地は浪江町の悲願です」。浪江町役場産業振興課の清水中課長はそう話した。あの日,請戸小学校の100人近い生徒と先生はいち早く約1.5km離れた大平山に避難。全員が無事に助かった。その大平山が今,復興を加速化する産業団地として生まれ変わろうとしている。大平山エリアが工業専用地域に指定されたのは約30年前。ここに産業を興す構想はその時からあった。

浪江町復興の指針となっているのは,前町長の馬場有さんがまちの再生・再建のため構想した「暗中八策」。震災直後から災害対策本部・行政サービスなどの陣頭指揮を執り対応に追われる中,経済生産活動の支援強化の必要性を説いた。当時秘書係長を務めていた清水課長が現部署に異動したのは,馬場前町長が亡くなる3ヵ月前(2018年)。「産業振興はお前がやれよ」と託された言葉を胸に,清水課長はこれまで産業振興商工労働の施策を推し進めてきた。

浜通りの中核都市の実現へ。棚塩産業団地では再生可能エネルギーを利用した世界最大級のCO2フリー水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」が開所し,まちとしてもゼロカーボンシティを宣言するなど,歩みを進める。「これまで浪江町を支えてくれた皆様と,これからお世話になる皆様,そして町民の力を結集して,新しい浪江町をつくっていきたい」と意欲を燃やす。

図版:浪江町役場産業振興課の清水中課長

浪江町役場産業振興課の清水中課長

photo: takuya omura

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