ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2019:特集 SDGsから考える“未来のカタチ” > Chapter 4: SDGsから考える“未来のカタチ”

Chapter 4: SDGsから考える“未来のカタチ”

SDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の蟹江憲史教授をお迎えし,
押味社長とSDGsへの取組みについて対談を行った。

蟹江 憲史(かにえ・のりちか)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授 1969年生まれ。
2000年,慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 後期博士課程修了,博士(政策・メディア)。
国際連合大学サステイナビリティ高等研究所シニアリサーチフェロー,
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 特定教授を経て,2015年より現職。
2018年からは,内閣府地方創生推進事務局「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」幹事会 
幹事メンバーを務める。

改ページ
押味

最近,SDGsという言葉をよく聞くようになりました。当社の事業活動とSDGsに対しての取組みを改めて整理し,優先的に取り組む課題,マテリアリティを明確化しました。本日は,SDGsから見た当社の事業戦略や未来に向けての取組みについて,色々とお話を伺えることを楽しみにしています。

蟹江

宜しくお願いします。新たな成長戦略の方向性として,SDGsは企業が進むべき道筋を示してくれていますので,いま中長期的な観点から進めている企業活動は,SDGsとの関連が深いはずです。

押味

中期経営計画では,ESGを重視し,環境・エネルギーに関する取組みの推進,生産性向上と就労環境改善,人材の確保・育成,リスク管理体制強化などについて重点的に実施しています。これらは,SDGsと重なる部分が多いと思っています。

蟹江

そうですね。ESG投資,つまり環境や社会,ガバナンスに配慮した経営をしている企業に投資する流れは加速しています。その評価軸としてSDGsが活用され始めており,これまで進めてきたESGを重視した経営は,まさにSDGsの達成に向けた取組み,そのものだと考えて良いと思いますね。

押味

当社が歩んできた180年の歴史もまた,SDGsとの関連が深いと思っています。例えば,自然災害への対応です。日本は,巨大地震だけでなく,台風や豪雨,火山噴火,大雪などにより,幾度も大きな被害を受けてきました。その度に,復旧・復興活動の一翼を担っています。関東大震災の頃からです。また,こうした災害列島ともいえる国で,安全・安心な生活を守るための技術を磨いてきました。防災・減災技術の開発,国土強靱化に資するインフラ整備,BCPソリューションの提供などです。

蟹江

災害に強いまちづくりは,「11 住み続けられるまちづくりを」に合致します。先日,海外の要人と話す機会がありましたが,自然災害からの復旧の早さに驚いていました。これは日本の建設業の力ではないでしょうか。建物やインフラをつくる技術という意味では「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」,建物・インフラの長寿命化や,改修・維持更新分野であれば「12 つくる責任つかう責任」に通じます。建設業は,大規模な社会インフラの構築やまちづくりをとおして,様々な技術で社会へ貢献していると思いますね。

写真:蟹江 憲史

改ページ
押味

当社の経営理念には「社業の発展を通じて社会に貢献する」と記してあり,これを実践してきました。これまでもSDGsに貢献してきたと考えています。

蟹江

まさにそうですね。多くの日本企業の経営理念はSDGsと軌を一にするものが多いので,新しさを感じないかもしれません。ただ,これまでの事業活動を未来志向で一歩進めて,先進国から新興国,発展途上国まで全会一致で合意した国際社会が目指すSDGsという共通言語で語ることで,さらなる成長につなげる視点が重要です。

押味

未来志向という意味では環境関連のアプローチとして,パリ協定の発効前に「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を策定し,2050年までにCO2排出量実質ゼロ,建設廃棄物ゼロ,生態系へのインパクトゼロの3つのゼロを目指しています。SDGsの達成年でもある2030年に具体的な数値目標「ターゲット2030」の達成を目指しているところです。

蟹江

「トリプルZero2050」の内容を読みましたが,持続可能な社会を実現しようとするビジョンとして高く評価できますね。「低炭素」「資源循環」「自然共生」の3つの視点でとらえており,「13 気候変動に具体的な対策を」をはじめ,「7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」,「14,15 海,陸の豊かさを守ろう」に共通すると考えます。

押味

建設業は,受注産業ということもあり短期的な志向になりがちですが,こうしたビジョンをとおして長期的な視点でのビジネスを行っていることを訴求していきたいと思っています。

蟹江

SDGsのなかに「未来のカタチ」があるとよく話をするのですが,このビジョンは正に未来の姿を表していると思います。日本企業は,真面目なところがあり,現実的にできることからシナリオをつくることが多いのですが,SDGsではこうした大きな未来の目標をつくって達成を目指すアプローチが重視されているので,先駆的といえるでしょう。環境分野の枠組みという話でしたが,環境に限られないもっと横断的なイメージで考えられると,なお良いと思います。SDGsの17の目標は,総合的に色々なことが書かれていて,相互に関連していますから,このビジョンを軸に広げていくのも良いでしょう。

押味

ありがとうございます。2030年の目標として,2013年度比で30%以上のCO2排出量削減を掲げ,全現場でのエネルギー消費量を正確に把握し,削減手法の構築やエネルギーの多様化を推し進めています。お客様へは,再生可能エネルギー施設,エネルギーの効率的なマネジメントなどの技術やサービスを提供しています。ただ,高いハードルがあるのも確かです。たとえ話をするなら,いま目標を達成するには,水力発電用のダムを1基保有してCO2削減に貢献していく必要があります。現実には建設業の事業形態から難しさもあるのですが,そのくらいの規模の話になるのです。

写真:押味社長

改ページ
蟹江

SDGsの目標達成についても,難しさはあります。一方の目標を追求すれば,他方を犠牲にせざるを得ないという状況がでてきます。例えば,再生可能エネルギー施設はクリーンなエネルギーを提供しますが,建設中には環境への負荷をかける可能性もあるということです。

押味

何か良い方法はありますか。

蟹江

先程,大きな目標をつくることが大切という話をしましたが,目標から逆算して現在の計画,戦略を策定する考え方があります。バックキャストと呼ばれますが,目標達成には様々な選択肢があるのです。2030年に実現しているテクノロジーを想定して,そこから目標達成の手段を考えるのも良いと思います。スマートシティや洋上風力発電などは,そうした手法が有効ではないでしょうか。

押味

次の中期経営計画では,そうした考えを取り入れていきたいと思っています。建設業を持続的に成長させるという意味では,将来の担い手確保が重要となります。社員だけでなく協力会社にとっても魅力ある就労環境を整備することが大切です。協力会社の発展がなければ,建設業が存続することさえ難しくなると常に話をしています。そこで,当社の社員だけでなく協力会社の働き方改革も積極的に推進しています。現場では原則4週8閉所,年間で104閉所を実現するとともに,技能労働者の賃金水準の維持・向上などに取り組んでいます。最近も,協力会社組織と共同で若手技能者の採用や育成に資する活動に対する助成事業を開始したところです。SDGsでは「17 パートナーシップで目標を達成しよう」「8 働きがいも経済成長も」などがフィットすると思います。

蟹江

建設業は男性社会というイメージがありますが,ジェンダーに関しては如何ですか。

押味

いま,多くの女性が様々な職場で活躍してくれています。女性が働きやすい職場環境をつくることは,女性に限らず誰にとっても働きやすい環境の創出につながるという考えのもと,若年層の建設業入職を促進する観点からも,職場環境の改善を目指し,積極的な活動を推進しています。

蟹江

「誰にとっても」が重要な視点です。「誰一人取り残さない」という考え方とも通じますしね。

押味

次世代の担い手確保・育成に向けて,グループ会社では,ベトナム人技能実習生を受け入れていますので,女性に限らず,この考え方を継続していきたいと思います。

蟹江

今後,外国人労働者は増加するでしょうから,この基本方針は効果をあげるはずです。

押味

魅力ある職場の創出や働き方改革を推進するため,施工の機械化,自動化,ICT化など生産性向上のための技術開発にも積極的な投資を行っています。これは将来の労働力不足への備えでもあります。また,公正で誠実な企業活動を推進することも重視しています。

蟹江

なるほど,SDGsに関する多くの取組みを実施されていますね。現在,SDGsはヨーロッパや日本を中心に機運が高まっていますが,世界共通言語です。昨年12月に公表された「SDGsアクションプラン2019」では,日本のSDGsモデルを,東南アジア・アフリカを重点地域とし,国際社会に展開していくとしています。グローバル事業にもSDGsの考えを広げ,グループ全体で取り組むと良いと思います。

押味

国や地域が持つ市場特性に合わせ,これまで培ってきた技術やノウハウを活用した事業を展開することで,国ごとに異なる社会・環境課題を解決していきたいと思います。例えば,大規模複合開発プロジェクトやスマートビルなどのノウハウを新興国へ,地震国へは高度な制震・免震技術を展開し,安全・安心な社会の実現を支援していく考えです。

改ページ
蟹江

今年9月には初のSDGs首脳級会合(SDGsサミット)が開催されます。SDGsが今まで以上に注目されるでしょう。内容を理解する段階から具体的な行動を起こす時期となっています。SDGsへの取組みを通じて,ビジネスを拡大できるチャンスです。17のゴールに対して,決められた行動ルールはなく,多様性が重視されます。会社だけでなく,社員の皆さん一人ひとりが何をできるのかを考え,行動を起こしていただければと思います。180年続いた会社です。そのヒントとなるエッセンスは,これまでの経営者の言葉のなかにあるはずです。

押味

当社が歩んできた歴史を重視しながら,これからもお客様や社会に信頼され,持続的に成長できる企業グループを目指していきます。そして,SDGsの達成に貢献していきたいと思います。本日は,ありがとうございました。

写真

(2019年6月14日,鹿島本社ビルにて収録)

photo:中原一隆

改ページ

Column

自然災害と鹿島

自然災害は,人びとの日常生活を脅かすと同時に,経済活動にも多大な影響を与える。当社は,創業以来,復旧・復興活動に尽くし,絶え間ない技術開発を続けてきた。1923(大正12)年9月1日の関東大震災では,木挽町本店,月島倉庫などが全て焼失するなか,三田網町にテント事務所を立ち上げ,震災復旧活動にあたった。“まずは電灯と交通を”という合言葉のもと,震災直後から各地で鉄道インフラを中心に復旧工事を担った。

発災から8年が経過した東日本大震災では,全社的な支援体制を整え,支援社員の派遣,救援物資の輸送などを行った。災害廃棄物処理,インフラの復旧作業,東京電力福島第一原子力発電所の安定化,除染作業,復興まちづくり事業などをとおして復興に向けて今も奮闘を続ける。

関東大震災時の本店移転広告
(時事新報)

技術開発では,業界に先駆けて制震構造の実現に向けて研究開発に着手したほか,近年では新世代制震オイルダンパーや中低層建物用の制震技術の開発,液状化対策や津波・高潮対策技術の開発,BCP(事業継続計画)ソリューションの提供など,ハード・ソフトの両面で安全・安心を支えている。

新世代制震オイルダンパー「HiDAX-R」

新世代制震オイルダンパー「HiDAX®-R」

東北地方・太平洋沖地震の波動伝播解析

東北地方・太平洋沖地震の波動伝播解析

改ページ

鹿島環境ビジョン:
トリプルZero2050

2013年,当社の環境への取組みの基本となる「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を制定した。持続可能な社会を3つの分野「低炭素」「資源循環」「自然共生」でとらえている。2050年までに鹿島が達成すべき将来像を「Zero Carbon」「Zero Waste」「Zero Impact」と表現。3つの「ゼロ」は,それぞれのリスク(自社の事業活動での負荷軽減で実現するもの),機会(社会や顧客への提案を通じて実現していくもの),2つの観点で構成している。

低炭素については,ESG投資の高まりや2015年のパリ協定での国際合意,2016年に日本の低炭素目標が定められたことなどを受け,2018年に「Zero Carbon」の目標値の見直しを行った。CO2排出量原単位(t-CO2/億円)を2013年度比で2030年30%,2050年80%以上の削減を目指している。

図版:トリプルZero2050
改ページ

国連グローバル・コンパクト

SDGsと共通点が多いのが国連グローバル・コンパクト(UNGC)だ。UNGCは,各企業・団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することにより,社会の良き一員として行動し,持続可能な成長を実現するための世界的な枠組みづくりに参加する自発的な取組みで,SDGsなど国連の掲げる目標の達成に向けた活動を推進している。UNGCに署名する企業・団体は,人権の保護,不当な労働の排除,環境への対応,そして腐敗の防止に関わる10の原則(下図参照)に賛同している。これらはクローバルな社会・環境課題の解決に向けたSDGsとも合致する。

当社はUNGCに署名・参加し,SDGsへの取組みを積極的に進めるとともに10の原則を支持し,経営理念のもと事業を通じた社会・環境課題の解決に努めている。

図版:国連グローバル・コンパクトの10原則
改ページ

経営理念

当社の経営理念は,その時々の経営者が示した方針や理念,行動の総和として社内に受け継がれてきた。そのキーワードは,創業者・鹿島岩吉の「パイオニア精神」,鹿島守之助社長の「人道主義と合理主義」「科学的管理法」「鹿島共同体」,渥美健夫社長の「システム力」などであった。

しかし創業以来140年,企業規模も拡大するにつれて,経営理念が「無形」のままでは,その伝承・継承に支障をきたす恐れが出てきた。そこで石川六郎社長は,これまで社内に受け継がれてきた理念のエッセンスを「経営理念」として再構築し,社内に示した。
(鹿島建設 社史1970年~2000年からの引用)

図版:経営理念

ContentsAugust 2019

ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2019:特集 SDGsから考える“未来のカタチ” > Chapter 4: SDGsから考える“未来のカタチ”

ページの先頭へ