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1号機:燃料取り出し 設計

地震と津波によってすべての電源を喪失した1~4号機原子炉建屋。
冷却機能を失ったことで炉心損傷が進み,発生した水素が原子炉建屋に漏れ出し,
最初に水素爆発したのが1号機だった。
2019年10月,燃料取り出しに向け日立と当社が提案した大型カバー先行設置案が採択され,
1号機の廃炉がまた1歩動き出した。

東京電力ホールディングス「1号機燃料取り出しに向けた工事の進捗について」
(2023年5月25日)をもとに作成

さらに安全・安心な工法へ

1号機原子炉建屋上部の使用済燃料プールには,392体の燃料が残されている。オペレーティングフロア(以下,オペフロ)には,水素爆発により散乱した屋根材などのガレキの一部や天井クレーンなどが残置されており,燃料取り出し作業を行うにはこれら高線量のガレキなどを撤去する必要がある。

ダストが飛散しないよう慎重な作業が求められる中,日立と当社は建屋全体を覆う大型カバーを先行設置して,その中でガレキなどの撤去を行うプランを検討。並行で検討されていたガレキ撤去後に燃料取り出し用カバーを設置するプランよりも,ダストの飛散と雨水浸入による汚染水の発生を抑制できるなどの観点から2019年10月に採択され,そこから当社は大型カバーの基本・詳細設計業務に取りかかった。

図版
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図版:1号機原子炉建屋(2020年2月)

1号機原子炉建屋(2020年2月)

出典:東京電力ホールディングス

被ばく低減に配慮した設計

大型カバーの規模は,ガレキ撤去用天井クレーンなども含めると総重量約7,900t,東京タワー約2基分にも及ぶ。高線量のガレキなどの撤去や使用済燃料取り出しの屋台骨には,高いレベルの耐震性能が求められた。「想定しうる最強クラスの地震動にも耐えうる構造となっています。一方で,1号機周辺は高線量エリアであるため,大型カバーの性能を担保しつつ,作業時の被ばくを最小限に抑える設計を模索しました」。そう話すのは当社原子力部原子力設計室の西岡聖雅グループ長。基本・詳細設計着手時から難易度の高い設計に挑むチームをまとめる。

通常の構造物は基礎から立ち上げるが,今回は1号機周辺の敷地にスペースがないことやほかの工事との干渉などを考慮し,大型カバーは,原子炉建屋の外壁に新たに設けたアンカーボルトを介して直接支持させる構造を採用した。「事前に実施したアンカーボルトの強度試験やFEM解析により原子炉建屋の耐震安全性に問題がないことを確認しています」と水谷亮太主任は説明する。大型カバーの外壁支持の適用可否は設計工程の根幹を揺るがしかねない。水谷主任は,「当社技術研究所にもアドバイスを受けながら,迅速かつ正確な確認試験が実施できたと思っています」と振り返る。

アンカーボルトによって原子炉建屋の外壁に取り付けられたベースプレートと大型カバーは,当社が開発した高強度特殊棒鋼ブレースを介して支持される。このブレースにも,施工省力化のための設計的配慮がなされた。両端に伸縮および回転可能なボールジョイントが設けられており,ブレース取付けの際,現地で外壁の形状に合わせ精度誤差を容易に調整できる。もともと200t級ブレースがラインナップされていたが,西岡グループ長が当社建築設計本部に相談したタイミングで開発された400t級ブレースの適用が,設置本数の半減につながった。「現場が一番大変なんです。設計段階でできる被ばく低減策を,可能な限り考えていきたいと思います」。

図版:アンカー削孔,ベースプレート設置イメージ

アンカー削孔,ベースプレート設置イメージ

図版:特殊棒鋼ブレースとボールジョイントのイメージ

特殊棒鋼ブレースとボールジョイントのイメージ

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鹿島グループの総合力を活かして

大型カバーは燃料取扱設備などの大きな装置の搬入や,設備の不具合時などに搬出して点検ができるよう可動式の屋根とする。設計では,“可動屋根を備えた大型カバーを設置した原子炉建屋の耐震性”が求められる。高橋彬課長代理は,「数多くのケーススタディを解析することで構造の成立解を導き出しました。また,設計にあたっては当社グループのアルテスや建築設計本部の協力を受けました」と話す。今後はオペフロ床遮蔽やランウェイガーダの設計にも鹿島グループの総合力を活かす。

大型カバーの設置が完了すると,オペフロのガレキなどの撤去工事が始まる。オペフロには水素爆発により散乱した上屋の鉄骨や約160tの天井クレーン,燃料取扱機などが残置されている。施工を担う当社東京建築支店では既にプロジェクトチームが立ち上がり,水谷主任も参画。当社グループのアルモ設計,建築設計本部と協力しながらガレキ撤去のシミュレーション解析を担う。長丁場となる1号機の燃料取り出しを少しでも早く,安全に。その思いで,今日も精励している。

図版
図版:可動屋根は大小4つの架構に分かれている。それぞれが南北にスライドして屋根面積の約50%を開放できる構造

可動屋根は大小4つの架構に分かれている。それぞれが南北にスライドして屋根面積の約50%を開放できる構造

図版:1号機のオペフロの状況

1号機のオペフロの状況

出典:東京電力ホールディングス

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図版:東京電力ホールディングス提供の点群データや図面をもとに,ガレキ撤去の解析モデルを作成。解体撤去計画を解析的にフォローする

東京電力ホールディングス提供の点群データや図面をもとに,
ガレキ撤去の解析モデルを作成。解体撤去計画を解析的にフォローする

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