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アイデアや思いやりで舵をとる

北陸新幹線、敦賀駅新築工事

2024年春,北陸新幹線が金沢駅から敦賀駅まで延伸し開業を迎える。
当社JVはこの延伸事業の終着地点となる敦賀にて,整備新幹線の中で国内最大となる
新駅舎を建設中だ。幾多の荒波をアイデアや思いやりで乗り越え,
コミュニケーションを大切にする現場の取組みを紹介する。

【工事概要】

北陸新幹線、敦賀駅新築

  • 場所:福井県敦賀市
  • 発注者:鉄道建設・運輸施設整備支援機構
    北陸新幹線建設局
  • 設計:鉄道建設・運輸施設整備支援機構
  • 規模:S造 3F 延べ25,224m2
  • 工期:2020年1月~2024年1月

(北陸支店JV施工)

地図
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図版

全景(2023年5月撮影)。波の煌めきを表現した外壁は,セメント板とサッシ・ガラスを交互に取り付けるため,
鉄骨建方はミリ単位の精度が求められる

空にうかぶ駅

北陸新幹線は,長野市・富山市・福井市などを経由して東京と大阪を結ぶ計画の路線で,整備新幹線5路線の1つに数えられる。現在は2023年度末に迫った金沢・敦賀間の延伸,開業に向け,各種整備が最終局面に差しかかっている。

当社JVはこのプロジェクトにおいて,既存のJR敦賀駅東側に北陸新幹線,敦賀駅を新築中だ。別途先行していた土木高架橋工事の後に,国内最大規模となる駅舎を施工,当面は終着駅としての役割を担う。

新駅舎はかつて大陸文化の玄関口として栄えた歴史が息づく港町にふさわしく「空にうかぶ~自然に囲まれ、港を望む駅~」をコンセプトにデザインされ,自然豊かな敦賀湾の波の煌めきを外壁に表現。内装はかつて日本海海運で活躍した北前船(きたまえぶね)がイメージされている。

※全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画により整備が行われている路線。北海道新幹線(青森~札幌間),
東北新幹線(盛岡~青森間),北陸新幹線(東京~大阪間),九州新幹線鹿児島ルート(福岡~鹿児島間),
九州新幹線西九州ルート(福岡~長崎間)

図版:ユリカモメの飛翔をイメージした舟形トップライト

ユリカモメの飛翔をイメージした舟形トップライト。
先端部は鉄骨が少しでもズレると部材を取り付けることができない

photo:takuya omura
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図版

巨大なコンコースの天井は
北前船の帆をイメージした膜構造

図版

新幹線ホームは木調タイルで甲板を,
待合室なども角を丸くして船をイメージ

photo:takuya omura

数々の日本一

敦賀駅は1階に在来線特急電車ホーム,2階に在来線と新幹線をつなぐコンコース,3階に新幹線ホームが配され,縦動線でスムーズに乗り換えができるよう設計されている。最高高さは37mとなり,完成すると整備新幹線の駅で最大の高さとなる。建物断面構造もさることながら, 約200mのコンコース,エスカレーター26台, 自動改札機22台なども整備され,「整備新幹線において数々の日本一がある建物です」と現場を率いる横田光司所長は規模の大きさを表現する。

横田所長は以前,北陸新幹線富山駅の新築工事を担当していたが,敦賀駅は富山駅の約3倍の床面積となる。その上,西側を既存の在来営業線,東側を木ノ芽川に挟まれた狭隘な敷地条件だ。施工難易度が高い中,最大32名の体制で臨んだJV職員のうち,駅舎の新築工事経験者はほんのわずかだったという。鉄道工事特有の繊細な要求品質に応えるため「富山駅の写真を参考に勉強会をしたり,改めて富山駅を訪れ現地確認をしたりしました」とかつての経験を所員に伝えながら,自身も所長として臨む新駅舎のイメージを膨らませていった。

写真

横田光司所長

photo:takuya omura

図版:全体図(断面)
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自立式工事用エレベーターを発明

当社JVは2,3階部分の施工を担う。すべての工事は2,3階への資材揚重作業から始まるのが大きな特徴だ。揚重にあたってはクレーンとともに,施工効率やクレーン作業時の玉掛け作業の手間を考慮し,効率的な揚重のために工事用エレベーターを設置する計画とした。しかし1階部分は発注者の異なる別途業者が在来線ホームを施工中であり,工事用エレベーター設置の際に必要な壁つなぎが1階から2階までは取り付けられない状況だった。さらに土木高架橋にはアンカー打設ができないといった課題もあった。

「タワークレーンはマストで自立しています。それにエレベーターを添わせたら,エレベーターでも自立するのではないかと,ぱっとひらめいたのです」この横田所長のアイデアが解決へと導いた。協力会社に持ち掛け,タワークレーンのマストと工事用エレベーターのガイドレールを組み合わせることで,1~3階まで壁つなぎをとらずに自立させることに成功した。ひらめきからはじまったイノベーションは生産性を大きく向上させるとともに,当社と協力会社の連名で特許を出願するに至った。

図版:自立式工事用エレベーター

自立式工事用エレベーター

図版:壁つなぎゼロのガイドレール

壁つなぎゼロのガイドレール

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業務効率化と工期短縮

工事の受注後,プロジェクト全体の進捗の影響で当社JVは予定の時期に着工できなかった。それでも予定工期までに完成させるべく,現場では様々な業務効率化・工期短縮に取り組んだ。

BIMを用いた干渉調整もその1つだ。駅舎工事では土木・建築・電気・設備などの専門部隊がそれぞれ設計業務を行う。そのため,全工種の設計の整合性がとれていないことがあるという。現場では着工前にすべての設計を重ね合わせ,BIMを用いて干渉チェックを行った。すると,土木躯体に建築の鉄骨があたったり,設備配管に電気のラックが貫通していたりといった干渉が数多く判明した。

横田所長は「このような手法が無かった時には複数の図面を横断的にチェックすることに苦労していました。事前に干渉チェックを行えたことで,もの凄くスムーズに施工できました」と手ごたえを口にした。BIMの干渉チェックの成果は発注者や別途業者にも共有され,工事全体の効率化の一助となった。

図版:BIMにより判明した干渉例

BIMにより判明した干渉例

図版:当社JVが主導した干渉調整会議の様子

当社JVが主導した干渉調整会議の様子

慎重かつスピード感をもって

工期短縮が命題となった現場は,関口孝史次長と阿部隼輔工事主任を中心とする旅客上家チームが牽引する。新幹線ホーム階の総重量3,500tの鉄骨工事や工程調整を取り仕切った関口次長は,「長いホームには必ずどこかの工種が入り,空いている場所が無いように管理しています。前工程でつまずいてしまうと,後工程全体に影響する状況だったので,すべて計画通りに進める必要がありました」と合理的な施工を心掛けた。ピーク時には工事用エレベーターのほか大型のクローラークレーン5台,補助のラフタークレーン4台を配置し急ピッチで施工していたが,日本海に近いことから,大雨や大雪,強風などの天候面での苦労も伴ったという。

その一方で,駅舎工事特有の規格,例えば新幹線とホームの離隔や高さ,勾配などにはシビアな品質管理が求められる。阿部工事主任は「現場での実測には時間をかけました。スピードが求められるからこそ手戻りが致命的となるので,慎重に施工することを意識しました。厳しい工程の中でも,協力会社の皆さんがとても協力的で,現場全体の雰囲気も良かったです」とお互い協調しながら一丸となって施工を進めた。

写真

関口孝史次長(左)と
阿部隼輔工事主任(右)

photo:takuya omura
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多くの別途業者と調整

工事の進捗に伴い,別途業者の現場入場も多くなる。当社は発注者から統括管理を任命され,各社との調整を主導した。最大で20社以上にも及ぶ別途業者との調整を担うのは,須藤恭平工事担当と星田侑輝工事担当だ。

須藤工事担当は駅外部の調整を任された。週に1度開催される打合せには絵工程を用意しながら対応した。「多数の会社との調整が必要なため,この時期にはこうあってほしいという思いを込めて絵工程を書きました。当社JVで旗を振り,指揮するつもりで進めました」と心構えを語ってくれた。一方で駅内部を担当する星田工事担当は,「膜天井の施工に合わせタイムリーな足場の組立てと解体が必要でしたが,作業通路の確保が最優先です。別途業者に加え,外部からの視察も多いため,通路が塞がれて行けない場所が生じないよう心掛けました」と現場を訪れる人に思いやりを持ち,入念な調整を行った。

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須藤恭平工事担当(左)と
星田侑輝工事担当(右)

photo:takuya omura

楽しい現場だと思ってほしい

着工してほどなく,コロナ禍に突入した。横田所長はコミュニケーション手段がIT化にシフトしていく中で,人と人のつながりが希薄になっていると感じたという。だからこそ,とにかく会話すること,どうしたら楽しく働けるか考えることを大切にした。「会話することで色々なアイデアが出て,そこから必ずなにかが生まれます」。現場には,楽しく仕事に打ち込める工夫が各所に施されている。JVメンバーの思いを盛り込んだ掲示物や,現場の行先看板を駅仕様にアレンジしたことが一例だ。ここにも,JV職員や職人さん一人ひとりに「楽しい現場だと思ってほしい」という横田所長の思いやりがあった。

6月からは各種検査がスタートし,工程もいよいよ最終段階に入った。地域からも大きな期待が寄せられ,開業が待ち望まれる敦賀駅の船出は,もう間もなくだ。

図版:現場の行先看板は駅の看板をイメージして作成

現場の行先看板は駅の看板をイメージして作成

図版:階段のステップに,のぼる人を励ますメッセージ

階段のステップに,のぼる人を励ますメッセージ

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photo:takuya omura
photo:takuya omura

鉄道建設・運輸施設整備支援機構
北陸新幹線建設局 建築部 建築第二課
阿部祐介 課長

来春,いよいよ開業を迎えます

今回福井県に初めて新幹線が来ることになります。鹿島JVさんが施工する敦賀駅は,当面北陸新幹線の終着駅となります。嶺南地域だけでなく,湖北地域の玄関口になると考えています。また,東京駅に敦賀行の新幹線が並ぶことで地名が広く認知されますので,インパクトは計り知れません。

地域の伝統や歴史が駅デザインに反映されています

福井県内で開業する新駅舎は,敦賀駅に加え,芦原温泉駅,福井駅,越前たけふ駅がありますが,いずれも地元自治体からいただいたデザインコンセプトをもとに,素案を3案提示し,選んでいただきました。駅の内装は地域の特色を表現するため県産材などを活用します。敦賀駅ではコンコース階の土木柱に敦賀祭りの「水引幕」をガラスにプリントして設えるなど,地域の皆さんに愛されるよう,一緒につくりあげることを目指しています。

現場の印象はいかがですか

工程をゼロから作り突貫工事を進めていただきました。BIMを活用した調整は,施工的にも工程的にも助かりました。大雪や大雨,強風などの気象条件にも即座に対応してくれましたし,現場はいつも整然としていて,安全意識がかなり高いと感じています。職人さんが気持ちの良い挨拶をしてくれ,雰囲気の良さもこの現場ならではです。

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工事も終盤を迎えました

地域の皆様のご協力や,職人さん一人ひとりを含めた受注者の皆様の使命感・責任感があってここまで工事を進めてこられました。皆様のご協力に心から感謝しています。引き続き安全第一で工事を進め,開業の喜びと感動を分かち合いたいですね。

職長会ツルスタ

現場ではコロナ禍で活動に制限がある中でも,熱中症劇場,大お弁当大会,かき氷大会,大とん汁大会,献血大会など工夫を凝らしたイベントを職長会が中心となって行ってきた。4代目会長を務めるSFK(金属工事)の舟木真矢さんは「所長や副所長をはじめ,みんなが話しやすい現場です。職長同士も仲が良く,スムーズな施工につながっています」と雰囲気の良さをアピールした。

職長会が主体となり,工事のあゆみを記録した動画も制作。編集は須藤工事担当がフォローした。現在,鹿島事業協同組合のYouTubeチャンネルにアップされている。「迫力ある現場の映像とともに,職長会のイベントの様子も収録されています。目標は10万回再生です!」(舟木さん)。

写真

会長の舟木さん。職長が身に着けるヘルメットは北陸新幹線の車両をイメージした

photo:takuya omura

図版
図版:熱中症劇場

熱中症劇場

図版:大お弁当大会

大お弁当大会

図版:大とん汁大会

大とん汁大会

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