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Message:廃炉プロジェクト,新たな局面へ

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東京電力ホールディングス
福島第一廃炉推進カンパニー
小林照明
リスクコミュニケーター

廃炉プロジェクトの現状

2011年3月11日,国内観測史上最大のマグニチュード9.0を記録した東日本大震災により事故を起こした福島第一原子力発電所では,30~40年を要する廃炉作業について,廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議(現:廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議)で決定された「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」を踏まえ,廃炉を安全かつ着実に進められるように取り組んでいます。

福島第一原子力発電所は1~6号機の原子炉プラントで構成されておりますが,事故当時,定期点検中であった5, 6号機は大きな事故には至りませんでした。このため,原子力事故として取り上げられるのは1~4号機となりますが,まずはこれらプラントのリスクを取り除き,「安全な状態」にする必要があり,このための主な廃炉作業として,使用済燃料の取り出し,燃料デブリの取り出しおよび汚染水対策があります。

現在,汚染水対策や使用済燃料の取り出しなど,相対的にリスクが高く優先順位が高いものは着実な進展が見られる一方,今後は,不確実性および技術的難易度が極めて高い燃料デブリの取り出しという,廃炉の根幹となる最も困難な作業段階に入っていきます。

今後の廃炉の本格化に向けて

燃料デブリ取り出しでは,初号機として2号機から開始する予定です。2号機のデブリ取り出しについては,2022年8月,楢葉遠隔技術開発センターでのモックアップ試験を踏まえた対応状況や2号機現場における対策などが整理されたことも踏まえ,作業の安全性と確実性を高めるための準備期間を追加し,2023年度後半の開始を目処に工程を見直しております。燃料デブリの取り出しは,ごく少量から始めて,その知見を反映しながら段階的に規模を拡大させていく計画です。取り出し規模のさらなる拡大については,2030年代前半から,まずは3号機で開始することを念頭に検討を進めています。

福島第一原子力発電所の廃炉は世代を超えて日本全体の技術力の助けを借りた挑戦となります。燃料デブリ取り出しという未踏の挑戦が本格化することを踏まえ,引き続き関係機関や企業にご連携・ご協力をいただきながら,国内外の叡智を取り込んだ「廃炉推進体制」を確立していきたいと考えています。

鹿島への期待

福島第一原子力発電所の事故から12年が経過しておりますが,当時は「緊急的に取り組まざるを得ない状態」が続いた中,汚染水対策では凍土方式の陸側遮水壁の設置,使用済燃料取り出しでは原子炉建屋燃料取り出し用カバーの設置など,高い技術力を背景とした鹿島さんのお力添えをいただき,汚染水発生量の低減や3,4号機の燃料取り出しが完了するなど,着実に廃炉が進展してきました。

他方,「緊急的に取り組まざるを得ない状態」が一区切りし,今は「先々を見越して戦略的に進めていく段階」となりましたが,「未踏の領域に計画的に取り組む局面」に直面しています。燃料デブリの取り出しという未踏の挑戦が本格化していく中で,適正かつ着実な廃炉を実施するという,福島への責任の貫徹において重要な局面に立っており,いわばこれからが福島第一原子力発電所の廃炉の正念場と考えています。鹿島さんのこれまでの様々な廃炉現場でのご経験とハイレベルな技術力は何事にも代えがたく,今後,20~30年続く廃炉作業に引き続きご支援をいただけますようお願いいたします。

図版;1・2号機プール燃料取り出し用カバー完成予想図。左から1・2・3号機

1・2号機プール燃料取り出し用カバー完成予想図。
左から1・2・3号機 

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column

3号機の今と鹿島

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東電福島第一工事事務所
涌澤一章 所長

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燃料取り出し作業の様子。
2021年2月に
すべての燃料取り出しが完了

出典:東京電力ホールディングス

事故当初,3号機は水素爆発の影響で原子炉建屋の屋根などが吹き飛び,ガレキが散乱した。高い放射線量下,当社は2011年9月から複雑に積み重なっているガレキの撤去に取りかかった。その後,オペフロの除染,遮蔽材の設置と続き,使用済燃料プールから燃料を取り出すためのカバー設置工事に着手。2018年2月に完成させ,次の作業へとつないだ。そして2021年2月,使用済燃料プールから566体の燃料取り出しが完了。現在,東京電力を中心に燃料デブリ取り出し方法の検討が続けられている。

当社は今も3号機やその周辺でのガレキ撤去工事などを担う。東電福島第一工事事務所の涌澤一章所長は,「原子炉建屋周辺のガレキを撤去することは,汚染水の発生量抑制だけでなく,廃炉を進める上で有効活用できるエリアを広げることにもつながります」と工事の先を見据える。

涌澤所長はガレキ撤去や雨水対策,止水対策など多種の工事を受け持つこの工事事務所を10年以上率いてきた。事故直後から長く現地を見てきたからこそ,廃炉作業に携わる中で得た手応えと歯がゆさの両方を知っている。「10年で構内の環境はかなり整備されました。何があっても焦らず,求められる役割を一つひとつ着実に果たしていきたいと思います」。

図版:手前が3号機原子炉建屋(2020年2月)

手前が3号機原子炉建屋(2020年2月)

出典:東京電力ホールディングス
図版:3号機南側ガレキ撤去前(2020年5月)

3号機南側ガレキ撤去前(2020年5月)

図版:撤去完了(2023年2月)

撤去完了(2023年2月)

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Interview

「廃炉プロジェクト室」の設立と役割

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原子力部廃炉プロジェクト室
澤田祥平 室長

福島事故以降,原子力発電の運転期間の40年制限や経済性の観点から,現在,商業炉57基中24基の廃炉が決まっています。一般廃炉では,東海発電所や浜岡原子力発電所1・2号機が先行しており,福島廃炉では,現在のプール燃料取り出しから,今後は難易度の一番高い,デブリ取り出しに向けた工事に移行します。これまで,福島第一原子力発電所の全6機を皮切りに,我が国の過半数の原子力発電所の建設に携わってきた企業として,廃炉プロジェクトに取り組むことは当社の責務であると考えています。

廃炉プロジェクトは,計画段階から工事まで十数年の時間を要し,高線量下での作業や放射性廃棄物の取扱いなど,特殊で高度な技術を必要とします。2021年4月に設立した「廃炉プロジェクト室」は,技術営業,解体計画,技術開発を一元的に担当し,廃炉プロジェクトの知見やノウハウを集積・水平展開する役割を担います。先行する福島廃炉で適用中の高線量下での遠隔化・機械化技術の知見・ノウハウを一般廃炉にも展開するなど,課題解決に向けた取組みを関係各部署と一体となって進め,安全で円滑な廃炉プロジェクトの進展に貢献していきたいと考えています。

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