公園を特徴づけるもののひとつに,いわゆる「禁止サイン」がある。
公園一つひとつに個別にいろいろな行為を禁止するサインが立てられているのは
憂鬱な風景だが,それにはそれなりの背景があり,
最近ではそれを乗り越えようとする努力も見られる。
公園の禁止サインについて考える。
禁止サインの風景
公園にはさまざまなサインが設置されている。入り口にはまず公園の名称を示す看板が,規模の大きな都市公園ではその近くに園内の配置図が掲げられていることもある。園路の分かれ道には公園の出入り口への方向や,トイレや事務所などの所在を示す道標が立てられている。
いろいろなサインのなかでも,特に目立つのはいわゆる「禁止サイン」だろう。多くの公園には,してはいけないことが列挙されたサインが立てられている。私の自宅近く,住宅地の近隣公園では,ボール遊び,バイク等の乗り入れ,花火,粗大ゴミの投げ捨て,犬の放し飼いが禁止されている。「夜間は静かに」は禁止ではないが,公園の使い方を規定するものだ。このような常設サインのほかにも,張り紙や仮設の看板が立てられることもある。こうした禁止サインはいわゆる「お役所仕事」の悪い面が露呈した風景としてメディアに取り上げられ,揶揄されたりもする。
なぜ公園には禁止サインが出現するのだろうか。公園の禁止サインの特徴のひとつは,禁止されるのが特定の行為だということである。たとえば「遊び」にはさまざまなものがありうるが,下の写真のサインでは「ボール遊び」や「花火」だけが禁止されている。公園では,ある行為は許され,ある行為は禁止されるのである。これは特定の行為が絶対的に悪いからではなく,異なる行為の競合が起きるからだ。公園でのボール遊びは悪くないが,幼児を遊ばせたりベンチや芝生で休憩したりする利用者にとっては,飛び交うボールは妨げとなる。
そもそも公園に多様な行為があらわれるのは,都市に多様な行為を受け入れる余地がないからだろう。かつては空き地や道路などが受け入れていただろうボール遊びや犬の放し飼いや花火をする隙間は今日の都市にはない。そこで,それらは公園に持ち込まれる。しかし,受け止めきれない種類の行為もあるため,どれか特定の行為,たいていは広い面積を必要とする行為が禁止の標的になる。
公園の禁止サインの特徴のもうひとつは,禁止事項に「この公園では」という但し書きがついていることである。つまり,このルールはすべての公園に共通するものではなく,あくまでも特殊な個別ルールだということだ。これは,公園という施設の根源に関わる問題である。基本的に公園では何をしてもいいのである。たとえば都市公園法には公園の有すべき性能や仕様は書いてあるが,公園が何をするところかは書かれていない。何をしてもいい場所であるために,行為の禁止は運用上の個別のルールになる。「公園では何をしてもいいのですが,この公園ではボール遊びは禁止です」というわけだ。公園の禁止事項はすべて「ローカル・ルール」であり,だから公園ごとに掲げられる必要がある。これが,公園にいちいち禁止サインが立てられる理由である。
禁止サインのない公園へ
とはいえ,やはり公園に行くたびに禁止のメッセージを眺めるのは気持ちの良いものではない。禁止サインのない公園はどのように可能だろうか。
近年つくられた公園では,サインのデザインにも注意が払われている例が見られる。禁止サインがなくなるわけではないが,サインの形を好ましいものにすることで公園の印象はずいぶん違うものになる。してはいけないことを列挙せずに,望ましいこと,やっていいことを明示するポジティブなサインを作ることも考えられる。長井海の手公園ソレイユの丘(神奈川県横須賀市)では,ハンディキャップのある子どもも一緒に遊べる「インクルーシブ遊具」のサインが設けられている。設計者によれば,今後も禁止サインではなく前向きな語りかけを目指すという。
禁止サインを本当になくすためには,禁止サインが存在する理由をつくる状況そのものを変える必要があるだろう。禁止サインは,公園を提供する側と公園を利用する側が分かれていて,それぞれの思惑がずれているとき,つまり提供者と利用者の間の意思疎通がないところに出現するものだと考えられる。私たちは自分ひとりが使う部屋に禁止サインを立てたりはしないが,それはつくる人が同時に使う人だからである。不特定多数の人が使う公園でつくる人と使う人を完全に一致させるのは難しいが,少なくともお互いの考えを思いやって理解し合うことができれば,禁止サインを掲げる理由はかなり減るはずだ。
冒頭の写真(右側)は,以前,世田谷区の二子玉川公園の花壇に立てられていたサインである。二子玉川公園は公園の設計段階から周辺住民が参加するワークショップを繰り返し,開園後も市民が「公園サポーター」として維持管理に積極的に加わっている公園である。「おはなをつんでいいよ」は,禁止サインを見慣れた目にはとても新鮮で感動すら覚えるメッセージだ。公園サポーターという管理者でもあり利用者でもあるグループの存在が,自治体と市民をつなげている事例である。