再拡張事業のうち国際線地区の整備にはPFI事業が導入された。
旅客ターミナルビル等整備・運営事業の事業者である東京国際空港ターミナル株式会社
霜田明彦社長に新たなスタートを切った羽田空港の話を伺った。
32年ぶりの「東京国際空港」らしい顔
今年8月の竣工式から10月31日の国際線定期便運航開始と,様々な重要行事が慌しく過ぎていきました。無事に国際線ターミナルを開業することができ,安堵しています。
私がこのプロジェクトを担当して約4年経ちますが,事業はその2年以上前からスタートしました。施設整備を完遂した関係の皆さんのご協力,ご尽力に改めて感謝申し上げます。
32年ぶりに国際線が復活して,再び各国の航空会社の尾翼デザインがエプロンに並ぶようになりました。すでに,海外からのお客様の地方への乗り継ぎは予想以上に増えています。羽田を起点に観光地や地方都市へ向かいやすくなり,航空政策の効果が出ている,そんな手応えを感じています。
民間のノウハウで運営
わが国は空港ターミナルビルを50年前から“民活”で行ってきました。成田,関西,中部の各国際空港以外は,羽田空港も含めすべて民間資本中心で運営していますが,今回のPFI事業で民間のスタンスがより明確化したと思います。一方で,PFI事業の特定目的会社として,企業会計上綿密な事業運営をしていく緊張感もあります。
航空業界の多様化,国際化とともに,羽田と成田の分担,羽田の発着枠など,政策上も需要上も激しい変化が予想されるいま,PFI事業でこの変化にどう対応していくのか。結果的に利用するお客様に負担とならないよう,私たちには常に運営段階での改善,ノウハウが求められているのです。
首都東京の空の玄関として迎える
国際線旅客ターミナルビルは,年間約700万人の利用を想定して設計され,比較的コンパクトにできています。巨大なターミナルでは「自分がどこにいるのか分らない」ということになりがちですが,このビルはヒューマンスケールで分りやすく,温かみのある仕上がりになりました。モノレールや京浜急行からも一直線で出発カウンターに辿り着けます。「単純明快」が建物のコンセプトなのです。
海外からのお客様に「首都東京の空の玄関」に着いた印象を与えるため,到着のコンコースは広く開口の大きな明るい空間を心掛けました。千住博氏のアート作品「ウォーターシュライン」という滝の絵で,入国する人に日本の感性を伝えています。このほかにも日本の「心」を伝えるアートをターミナル内に散りばめました。
「逆マラソン方式」制した総合力
再拡張事業は,土木・建築の技術的な貢献が大きかったと思います。D滑走路では,埋立と桟橋のドッキングという難しい構造を,短工期の中でリカバーしてくれました。国際線ターミナルビル建設でも,逆梁式の大屋根施工を「スライド工法」などの技術力で克服しました。
スタートはバラバラでもゴールは一緒。供用開始の日時を決めて,そこに向けて異なるプロジェクトを進めるのは「逆マラソン方式」に例えられるそうですが,これをきちんと実現できたのは,鹿島を中心としたゼネコンの底力です。よほど各種の調整・段取りができないと至難な技だと思います。一連の再拡張事業を通じて,建設業の技術開発力に基づいた総合力を改めて実感しました。