ストックとしての社会インフラ施設「空港」――。新たな公共投資が厳しく選択される中,
国際都市東京の競争力を増強させるためにも,再拡張事業の整備が急がれた。
そこには建設業の様々な最新技術が投入された。D滑走路と国際線旅客ターミナルビルで
採用された当社の技術・ノウハウの中から,一端を紹介する。
接続部のスリット式護岸
埋立と桟橋を組み合わせて建設するD滑走路で,埋立部と桟橋部を接続する接続部の護岸は,大水深・軟弱地盤に対応しなければならない。
このため埋立部の土留め,渡り桁の支承,越波の防止,反射率の低減といった様々な機能が求められた。これら要求機能を満足させる構造として,円柱型のスリット式護岸が考案された。当社技術研究所の水理模型実験で最適となる柱の形状や開口率などを決定し,波圧の計測結果を設計にフィードバックした。
接続部護岸は全長428mの大規模構造物で,厳しい工期短縮が要請され,鋼管矢板を用いた工法と主要部材のプレキャスト化で大量急速施工が行われた。
D滑走路に適用された多様で大量のコンクリート
接続部は,工法と構造の多様性から,様々な高い技術を駆使して設計・施工が行われた。要求ごとに様々な機能のコンクリートが使用され,接続部のコンクリート総量は,場所打ち6万9,000m3,プレキャスト2万8,300m3に及ぶ。
(a)膨張コンクリート(3万7,200m3)
収縮の低減などによりひび割れの発生を抑制し,接続部の躯体の耐久性向上に寄与。
(b)高強度水中モルタル(1,100m3)
鋼管矢板井筒護岸の継手に充填し,せん断剛性を3.3倍,せん断耐力を6倍に向上。
(c)水中不分離性コンクリート「ハイドロクリート」(1万3,400m3)
鋼管矢板井筒護岸の底盤に採用し,水中打設における品質を確保。
(d)超高強度繊維補強コンクリート「サクセム」(2,600m3)
当社が開発した,圧縮強度180N/mm2以上,引張強度8.8N/mm2以上の高性能コンクリートで,桟橋部鋼製ジャケット桁上のプレキャストPC床版の一部に適用。
Geo‐Explorerで杭支持層をスピーディに調査
平面規模700m×250mと広大な国際線旅客ターミナルビルの敷地内で,支持層の堅固な地層が複数層に分かれ複雑に分布していることが,事前のボーリング調査で確認されていた。
所定の工期内に高品質な杭を施工する上で,この複雑な支持層分布を短期間に正確に把握することが重要な鍵を握っていた。
そこで,通常のボーリング調査の10倍以上の速度で支持層調査を実施できる地盤調査車Geo‐Explorerを活用することにした。これにより69地点・延べ深度4,000mの調査を20日間で完了させ,支持層分布を正確に把握した上で過不足なく既製杭を調達し,高品質な杭をスムーズに施工することができた。
大屋根施工時の風の影響を事前に評価
国際線旅客ターミナルビルの大屋根―10ユニットで構成される全長178m,幅95mの屋根は,外壁に先行して組み上げる。屋根端部で重機により1ユニットずつ鉄骨部材を組み上げて屋根材などを取り付け,順次スライドさせていく。
大屋根は弓形で外壁がないため,完成時よりも施工中に屋根材にかかる風力が大きくなると予想。スライド時の仮固定状態での安全性も確保する必要があった。これらを当社技術研究所で風洞実験などにより予測・評価した。
風洞実験では,各ユニットの施工段階別に建物全体をモデル化した模型で実験し,1ユニット目に作用する風荷重が竣工時よりも大きくなることが分り,対策した。さらに数値解析で防風ネットの設置条件を調査し,天井下地材の同時施工を可能にし,工期を短縮できた。