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ダムの未来を切り拓く

湯西川ダム本体建設工事

土・水・コンクリート…,そのすべてを知らなければダムを築くことはできない。
木技術の粋を集めて築かれるダムは,治水・利水機能で人々の生命をまもり,
生活をまもってきた。いま,“暴れ川”鬼怒川の支流・湯西川で,ダム工事が進んでいる。
100万m3のコンクリートを実質19ヵ月で打設する,かつてない急速施工。
昼夜の別なく現場は動き続け,ダムの堤体は高さを増していく。

 

図:完成予想パース

完成予想パース

工事概要

湯西川ダム本体建設工事

場所:
栃木県日光市
発注者:
国土交通省関東地方整備局
規模:
重力式コンクリートダム
堤高119.0m 堤頂長320.0m 堤体積103万m3
総貯水量7,500万m3
工期:
2008年7月~2012年3月

(関東支店JV施工)

地図

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写真:ダムサイト全景を下流から望む

ダムサイト全景を下流から望む

ダム工事の集大成

1947年9月,カスリーン台風が関東地方を襲い,利根川が決壊した。死者およそ1,100名を数える未曾有の被害をもたらし,これを契機に全国で治水事業が本格化していく。利根川水系・鬼怒川でもダム整備が行われ,1950年には,重力式コンクリートダムとして国内で初めて堤高100mを超える大型ダム・五十里ダムが着工した。建設機械や機材のすべてを国産で賄い,パイプクーリングやジョイントグラウチングなどダム建設に欠かせない多くの技術を生み出した。ダム技術の基礎をつくったといわれ,1956年に完成している。

その後,鬼怒川周辺では川俣ダム,川治ダムと相次いでダム群が整備されていく。鹿島はこれまで,この地域全てのダム本体工に携わってきた。

湯西川ダムは湯西川につくられる重力式コンクリートダム。堤体積100万m3余の多目的ダムで,この地域4つ目の大型ダムとなる。全国のダム工事に従事してきた大内斉所長は,地域住民と発注者の信頼の大きさに驚きを隠さない。「先輩たちが築いた信頼を失ってはいけない」。鹿島はダムとともに地域・発注者との信頼関係も築いてきた。

工事は高度技術提案型の総合評価方式で,最新の技術を盛り込み受注した。大内所長はいう。「湯西川ダムは鹿島の歴史を背負い,技術のすべてが投入されたダム工事の集大成といっても過言ではない」。

写真:大内斉所長

大内斉所長

写真:ダム技術の基礎をつくったといわれる五十里ダムの施工の様子

ダム技術の基礎をつくったといわれる五十里ダムの施工の様子

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急速施工

技術提案では,96日間の工期短縮を掲げ,急速施工を行うために様々な技術を提案した。なかでも,コンクリートの供給が生命線の堤体コンクリート打設工程では,最新の仮設備を利用して大幅な短縮を試みた。コンクリート製造設備は1時間あたり360m3もの製造能力を持つ。これを高低差のある打設場所まで運搬するために,15t級ケーブルクレーン2基とSP-TOMを導入。出荷制御システムも取り入れ,状況に合わせた最適な供給を行う。

ダム堤体構築の指揮を執る岡山誠工事課長は,「担当職員で試行錯誤を重ね,現場に最適な設定を模索した」と話す。現場により施工環境が異なるため,設備に最高のパフォーマンスを発揮させるのは職員の役目。設備を知るほどに,緊急時にも冷静な対応をとることができるという。

昼夜絶え間なく作業が行われ,本体基礎掘削に仮設備設置と工事は順調に進んできた。大規模土工,法面工事,コンクリート打設…。ダムには,あらゆる土木技術が散りばめられている。そしていま,ダム工事のハイライト,堤体コンクリートの打設が進められている。

写真:岡山誠工事課長

岡山誠工事課長

写真:コンクリート製造設備全景

コンクリート製造設備全景

写真:SP-TOM

SP-TOMは斜面上に設置した搬送管を回転させながら,高所から低所へコンクリートを安定的に運搬する

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品質の確保

湯西川地域は日光国立公園内に位置している。景観保全の配慮から,付近の山を切り崩してコンクリートの骨材を採取することができない。当初から,工事で掘削したズリと付近2ヵ所の河床砂礫を使用することが施工条件となっていた。3種類の骨材を使用するため,安定した品質のコンクリートを絶え間なく供給するのが難しい。それぞれの特性を分析したうえで,最適な配合を選定した。掘削と仮設備設置の工程を75日間短縮させ,その短縮期間を利用して,実際の施工と同規模の試験施工も行っている。

さらに,現場の品質管理担当者とは別に,第三者の立場でコンクリートの品質チェックを行う品質証明員が常駐している。土木管理本部の安田和弘課長代理はコンクリート主任技士の資格を持ち,技術研究所やコンクリートダム現場勤務の経歴も持つダムコンクリートのエキスパート。「品質は十分。総合的な管理が実施されている」と太鼓判を押す。多種類の骨材の使用や急速施工など,品質への要求事項は多いが,「それだけにやりがいがある」。

写真:安田和弘課長代理

安田和弘課長代理

巡航RCD工法

本体コンクリート打設工事は,RCD (Roller Compacted Dam-Concrete)工法を採用している。セメントの少ない超硬練りのコンクリート(RCD用コンクリート)をブルドーザで敷き均し,振動ローラーで締め固める。堤体の上・下流面部分は,外部環境にさらされるため,水密性を高めた有スランプコンクリート(外部コンクリート)を打設する。大規模コンクリートダムの主流工法である。

図:RCD工法と巡航RCD工法の施工順序の違いを打設進行方向から見た図

RCD工法と巡航RCD工法の施工順序の違いを打設進行方向から見た図。巡航RCD工法は,3日かかっていた工程を2.5日で進めることができる

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2010年9月から10月にかけての約2ヵ月間,この工法を改良した最新技術・巡航RCD工法での施工が試みられた。(財)ダム技術センターが開発したもので,嘉瀬川ダム(国土交通省九州地方整備局 佐賀県佐賀市 当社施工)でも試行されている。通常のRCD工法と大きく異なる点は,コンクリートの打設順序である。

RCD工法は外部コンクリートを打設してから,中央部のRCD用コンクリートを打設する。コンクリートの打重ねに時間制限があり,配合の切替えが頻繁に起こるため効率が上がらない。巡航RCD工法は,先行してRCD用コンクリートを打設し,追いかける形で外部コンクリートを打設していく。打重ねの時間制限が大幅に緩和され連続して打設することができる。

写真:巡航RCD工法での堤体コンクリート打設状況(左岸から)。中央手前からRCD用コンクリートが打設されている

巡航RCD工法での堤体コンクリート打設状況(左岸から)。中央手前からRCD用コンクリートが打設されている

写真:巡航RCD工法専用の機械が端部法面を締め固める

巡航RCD工法専用の機械が端部法面を締め固める

写真:外部コンクリートの打設状況

外部コンクリートの打設状況

写真:24時間施工が行われ,工事が止まることはない

24時間施工が行われ,工事が止まることはない

最新技術への期待

しかし,実際に巡航RCD工法で連続施工を行っても工程短縮にはつながらないといわれていた。特記仕様書で2日間の養生期間が定められており,次の作業を連続して行えないからだ。土木は経験工学である。過去の実績から導かれた仕様は絶対であり,覆すことは難しい。

その変更が認められた。嘉瀬川ダムでの実績や事前に実施した試験施工の結果を分析し,発注者や土木研究所,ダム技術センターなどの関係者と協議を続けた結果だった。仕様が変更されるのは極めて異例である。「それだけ,この技術にかかる期待は大きい」と大内所長。鹿島への信頼と,「一日でも早く」住民にダムを提供したいという関係者の思いが変更を可能にしたのだった。

この工法は雨にも強い。打継ぎが前提の工法であるため,打設途中に雨が降れば任意のタイミングで打設を中断できる。無駄が省け,工程の短縮に貢献する。こうして2ヵ月間で8日の工期が短縮された。有効性が実証されたことになる。

写真:2010年12月現在,堤体は標高650m(堤高79m)まで達している

2010年12月現在,堤体は標高650m(堤高79m)まで達している

ダムの未来を切り拓く

巡航RCD工法による施工は,計画当初には想定されていなかった。着工後,順調に工事が進捗しながらも,敢えて現場が採用したのである。現在,建設業界,とりわけダムの建設には逆風が吹いている。「新技術に挑み,実績をあげてイメージを払拭する。それが鹿島第一線で働く技術者の責務」。大内所長が掲げる方針は,逆風に立ち向かう意思が込められている。その方針の下,現場は新工法を用いて,さらなる急速施工に挑んだ。ダム関連の業界,学会などの関係者から高い評価を得ており,この先築かれるダムの早期完成につながる成果を上げた。

湯西川ダムは,ダムの未来を切り拓いていく。「ダムがなくなることはない。これからも人々の生活を守っていくのです」。大内所長は力を込めた。

冬になると,鬼怒川界隈では滝も凍るほどに気温が下がる。品質確保のため,12月には中断されるコンクリートの打設は,2月末に再開となる。堤体が完成し試験湛水が始まるのは,2011年10月の予定である。

写真:2010年5月23日に行われた定礎式の現場職員集合写真

2010年5月23日に行われた定礎式の現場職員集合写真

写真:上流から見たダムサイト

上流から見たダムサイト。堤体が完成し,トンネルを閉塞すると湛水が開始される

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