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折りと包みと結びと歳時

クリスマス

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中央のクリスマスカラーのギフトボックスは、折形デザイン研究所がデザインした
切り込みを一切入れずに組み立てられる「家六角」。
サンタクロースを含め、セルロイドのクリスマスオーナメントは戦後間もない頃の「オキュパイド・ジャパン」製品

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今から70年前,1951年12月24日のクリスマスにある事件が起きました。フランスのディジョン大聖堂の前で,サンタクロースが聖職者によって火刑に処せられたのです。理由は,イエス・キリストの生誕を祝う日が,アメリカの商業主義的な習俗によってプレゼントの交換の日にすり変わったことに抗議するものでした。

それを文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが「火あぶりにされたサンタクロース」という論文で取り上げました。宗教学者の中沢新一が,その翻訳と自身の「幸福の贈与」という論文を加えてまとめています

人類はなぜ贈り物をするのかという「贈与論」の本質に触れる深い内容です。折形は贈答の際の包みと結びの礼法ですので,深い部分で繋がり,学ぶべきことが多くあります。

サンタクロースの姿とクリスマスの日を思い出してみてください。サンタクロースはトナカイが引く橇(そり)に乗り,赤い洋服に赤い帽子を被り,白い髭を蓄え大きな袋を背負った老人のイメージではないでしょうか? 子供たちは,暖炉の前に立てられたモミの木のクリスマスツリーに靴下を下げ,サンタクロースからの贈り物を楽しみに眠りについたものです。

このイメージが,第二次世界大戦後にアメリカのコカ・コーラ社によってつくり出されたものであり,さらに気前のいい見返りを求めないプレゼントを施す老人には,戦勝国のアメリカのメタファーが隠されているというのです。

そもそもキリストが生まれたのは夏ではないかという説がありますが,それをキリスト教では冬至の日とし,死と再生のイメージの強化を図ったそうです。北半球では1年で最も昼の短い冬至の日は逆を言えばその日を境に昼が長くなり,春へ向けて再生が始まる日なのです。

国家の宗教の地位をかち得たローマのキリスト教が,もともとは夏に生まれたという伝承のあるイエスの生誕日を,なぜこの真冬の季節にもってきたのか,その理由についてははっきりしたことはわからない。しかし,ひとつだけはっきりしていることは,その選定が,キリスト教の世界化のために,大きな貢献をおこなうことになった,という事実である。イエスは,自分が真冬に生まれたという,後世の捏造に同意することによって,キリスト教が大衆の間に受け入れられていく条件を整えたのだ。クリスマス祭を真冬とした決定は,グレゴリオ聖歌の発明にまさるともおとらない,ローマ教会のすぐれた営業感覚の勝利をしめしている。(中沢新一「幸福の贈与」より)

クロード・レヴィ=ストロース/中沢新一 訳・著『サンタクロースの秘密』せりか書房,1995(再版『火あぶりにされたサンタクロース』KADOKAWA,2016)

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キリスト教の年中行事や儀礼は,自然発生的に生まれた部分もありますが,このように人為的にイメージ操作がされ,さらに習俗や民話や神話などが習合してもいます。外来のものを受け入れ習合させるのは日本に限ったことではないでしょう。また民族を超えた普遍性を読み取ることもできます。例えば,現代では新暦旧暦が混ざり合い不明瞭になっていますが,古今東西で冬至の翌日が新年とされてきました。冬至の日を境に太陽が生まれ変わるという感覚を人類は共有しているからでしょう。また,日本では新年に年神様の依代として常緑樹の松を門松として立てますが,クリスマスに常緑樹のモミの木を室内に立てるのは,サンタクロースへ向けた依代と言えるかもしれません。

今回の連載では日本の文化の特性を「折形」を通してご覧いただきましたが,それをひと言で言えば「和」ということになるのかもしれないと思っています。異なるところを見るのではなく,異なるもの同士を結びつけていくことが重要ではないかと思いますが,いかがでしょうか。「和」は日本文化の特性と言いましたが,結局のところ人類共通の知恵と言えるのかもしれません。

白川静の『常用字解』で「和」を引くと,以下のような解説がされています。

【和】 会意(かいい)。禾(か)と口とを組み合わせた形。禾は軍門に立てる標識の木の形。禾を並べた秝(れき)は軍門の形である。口は(さい)で,神への祈りの文である祝詞(のりと)を入れる器の形。をおいた軍門の前で誓約して媾和(こうわ)する(戦争をやめ,平和な状態にもどす)ことを和といい,「やわらぐ,やわらげる,なごむ,なごやか」の意味となる。[中庸,一]に「和なる者は,天下の達道なり」とあって,和は最高の徳行を示す語とされている。(強調筆者)

一年間,お読みくださりありがとうございました。

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クリスマスのお祝いにシャンパンを贈り物にしてはいかがでしょうか。包みの中央に正方形の色紙を匂いとして配し、金銀の水引きを五本取りにして片輪で結び止め、依代としてモミをひと枝添えています。日本の伝統文化の「折形」でクリスマスギフトを包む、これこそ、「和」の体現ではないでしょうか

参考文献:
白川静『常用字解』平凡社,2004

やまぐち・のぶひろ

グラフィックデザイナー/1948年生まれ。桑沢デザイン研究所中退。コスモPRを経て1979年独立。古書店で偶然に「折形」のバイブルとされる伊勢貞丈の『包之記』を入手。美学者・山根章弘の「折形礼法教室」で伝統的な「折形」を学び、研究をスタート。2001年山口デザイン事務所、同時に折形デザイン研究所設立。主な仕事に住まいの図書館出版局『住まい学大系』全100冊のブックデザイン、鹿島出版会『SD』のアート・ディレクターなど。著書に『白の消息』(ラトルズ、2006)、『つつみのことわり』(私家版、2013)、句集『かなかなの七七四十九日かな』(私家版、2018)など。2018年「折りのデザイン」で毎日デザイン賞受賞。

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