若い力が躍動,
つくり上げる新たな
国際レベルの研究拠点
芝浦工業大学 豊洲第二校舎新築工事
芝浦工業大学創立100周年記念事業の一環として,新校舎建設が当社横浜支店施工で進行している。
斜めにせり出すアルミルーバーが特徴的な建物で,サッシ施工時には移動式足場を採用。
また3D K-Fieldの試験的導入や,横浜支店が推進する多能工による生産性について
同大学蟹澤研究室の学生と共同研究するなど,さまざまな新しい取組みに「若い力」が躍動する。
【工事概要】
芝浦工業大学 豊洲第二校舎新築工事
- 場所:東京都江東区
- 発注者:芝浦工業大学
- 設計・監理:日建設計
-
規模:S造一部SRC造 B1,14F
延べ44,493m2 - 工期:2019年11月〜2022年3月
(横浜支店施工)
大学の新たなシンボルとして
2022年3月の竣工に向け,地域のシンボルツリーであるクスノキの背後に,新築校舎の全容が姿を現す。建物は南面と西面が斜めにせり出す特徴的な形状で,大学が目指す「未来に向かって発展し成長する姿」を示している。建物には象徴としてアルミルーバーを,熱負荷軽減のために複層ガラス,Low-eガラスをそれぞれ採用。また隣接する既存校舎(交流棟)とは4階と6階で接続する。
photo: hiroki sakuraba
「アルミルーバーについては1年ほどかけて検討してきました。学生さんや教職員の皆さんの室内環境を第一に考えつつ,一方で意匠的な格好良さも同時に追求したのが本工事の肝とも言える部分です」と話すのは,現場を指揮する番尚雄所長。室内の特徴の一つが5階から上の階に配置されるオープンラボ形式の研究室で,これらは天井仕上げが無く,躯体がむき出しの状態となっている。
「建築系の学部もある工業大学なので,ダクトや照明といったものがどのように配置されているかを実際に見て学んでもらうという狙いもあります。またダクトは段ボールで製作するなど,さまざまな試みも行っています」(番所長)。
photo: hiroki sakuraba
オンリーワンの建物をつくる
やりがいや面白さ
工事が始まって間もなく新型コロナウイルス感染拡大が深刻化し,工事期間中は常にコロナ対策を求められることになった。渡邉和寿副所長は,「朝礼は全員参加の形式から職長のみに変更し,作業員へはWEB配信しています。各自が手元のスマートフォンで視聴することにより,元請側の伝えたい内容が伝わり,また一度職長を介することで発生する“伝言ゲーム”を防ぐことにもつながると考えています。また毎日の作業間連絡調整前の所員打合せは立って行い,15分程度で集中して済ませるように努めています」と語る。
施工にあたって特筆すべきは,外装のアルミルーバーはユニット化して取り付け,サッシ施工時には移動式足場を採用したことだ。これは作業箇所にピンポイントで移動可能なため全面足場を組むよりも効率化できる。
「誰もが気持ちよく使えるオンリーワンの建物をつくるやりがいや面白さを,現場の中心として働く若手所員に感じてほしいと考えています」(渡邉副所長)。
photo: hiroki sakuraba
photo: hiroki sakuraba
大学と連携する現場,進める共同研究
現場ではリアルタイム現場管理システム「3D K-Field」※1を試験的に導入している。具体的には社員の稼働状況や行動履歴を分析し,長時間労働を抑制していくことに役立てる狙いがあるという。
※1 鹿島建設,マルティスープ,アジアクエストの共同開発
「最初のきっかけは当社から大学にこのシステムを紹介したことです。なかでも蟹澤宏剛教授はもともと生産性の研究をされており,作業効率の調査や集計,分析に3D K-Fieldを活用できないか,今少しずつ検証しているところです」と藤原一郎次長は話す。
この現場の大きな特徴は大学敷地内にあるという利点を活かし,実際に学生との共同研究が実施されるなど,非常に大学との関わりが強いことだ。なかでも当社横浜支店が近年推進している多能工による生産性について,蟹澤教授の研究室の学生と当社が共同で実証調査を進めている。「学生さんには研究の一環として実際に現場で調査していただき,彼らと年齢の近い当社の若手社員がサポートに付いています。学生さんからは現場の専門用語について色々質問がくるため,社員にはそれに答えられるようなスキルが要求されます。当然大きなプレッシャーではありますが,本人たちにはいい勉強にもなり,社員教育としても非常に効果的だと思っています」(藤原次長)。
photo: hiroki sakuraba
この現場では型枠工の技能労働者数名が,本業の型枠工事以外に多能工として墨出し,仮設配管,安全設備の設置などさまざまな職種の作業に取り組んでいる。また,段ボールダクトの製作と施工も彼ら多能工によって手掛けられた。人手不足や現場の効率化に対応するため,一人の技能労働者が複数の職能を身に着け,稼働率を高めるのに有効とされる。その作業実態について学生と当社の若手社員が共同で調査・集計し,分析に活かしている。若手社員の一人,梅村実菜工事担当は,「現場はさまざまな専門工の人たちによって支えられており,ひとつの工事が完了しないと後工程にスムーズに引き継ぐことができません。私はこの現場で初めて多能工の方々にお会いしましたが,専門工事以外に狭間のちょっとした小さな作業もこなしてくださるのはとても助かるし,作業効率も上がったことを実感しました」と手ごたえを感じている。
photo: hiroki sakuraba
photo: hiroki sakuraba
若い世代が上手く機能するような現場運営
工事にあたっては近隣への配慮も欠かせない。工事着手前は大学構内が近隣保育園の散歩ルートであったことから,所員がサンタ役になって,毎年近隣保育園のクリスマス会に参加しているほか,毎朝仮囲い周りの清掃作業を続けている。そんな現場の中心となっているのが20代~30代前半の若手社員たちである。「ここは比較的年齢層が若い現場で,社員の平均年齢は32歳。駆け出しの新人とは違い,仕事も覚え,やりがいや日々のモチベーションなど色々なことを考える頃です。ベテラン世代と考え方の差が出るのは当然なので,こちら側の価値観を一方的に押し付けないよう配慮しつつ,彼らの考えを尊重し,現場が上手く機能するように進めていくのが,現場を預かる側としての責務と考えています」と現場を統括する番所長は説明する。
中長期的視点からみる多能工の可能性―鹿島への期待―
photo: hiroki sakuraba
2021年12月6日の所信表明演説の中で,岸田文雄内閣総理大臣は次のように述べました。
「建設業では,官と民が協働して,公共調達単価の引上げや下請けの適正発注の徹底により,直近6年間で年平均2.7%と,全産業平均を大幅に上回る賃上げを実現しました。こうした官民協働の取組みを,他業種に広げます」。
これは,社会保険未加入対策と対で実行された公共工事設計労務単価の引上げについて言及したものですが,前近代的な産業の代表例のように扱われることの多い建設産業が他産業の手本のように取り上げられるのは画期的な出来事です。
社保未加入対策は2012年度,労務費の引上げは2013年度から本格実施された政策です。国交省の検討会の場で社保未加入対策の必要性を最初に訴えたのは私ですが,当初,業界は「絶対に無理」といったネガティブな反応が大勢でした。
なぜ私は社保の重要性を訴えたのか。それは, 1990年代から技能者の地位向上が叫ばれながらも,バブル崩壊を経て四半世紀以上何も変わらず,むしろ悪化の一途をたどってきた要因を考えると,具体策が何もないからと考えざるを得なかったからです。従来の政策は雇用改善,処遇改善という言い方でした。しかし,これらは多義的です。「社員化」も同様で,必ずしも正規で長期の雇用関係を意味するものではありません。この手の語感は良いですが多義的で具体化しない標語を真面目に捉えた人ほど損害を被り,それを知る大多数が看過することで却って傷口を広げる悪循環に陥ってきたのが建設業の実態です。
実際,建設技能者の社保加入や教育訓練の充実に真摯に取り組んだ専門工事会社がいくつも倒産しました。私が知る会社も複数あります。ダンピングが蔓延すれば,そうした会社は一溜まりもない。「正直者が馬鹿を見る」とはこの産業に深く染み込んだ観念ですが,これを払拭しない限り産業の健全な発展はありません。
従来ゼネコンは,技能者問題は専門工事業界の問題として距離をおいてきました。「冬の時代」に名義人制度や協力会を解体しようとした会社もありました。しかし,建設キャリアアップシステム(CCUS)が導入された頃から,大手を中心に急速に認識が変化したように思えます。今般,鹿島と多能工の活用や現場の生産性向上に関して共同研究をさせていただく機会を得ましたが,ゼネコンが多能工問題に直接取り組むのは画期的と言えます。
多能工は2000年代初頭に注目されましたが,技能者の正社員としての身分や中長期的な視点での育成,能力評価手法などの具体的内容が希薄であったため雲散霧消してしまいました。今回,多能工へチャレンジしている専門工事会社は10代の若者を正社員として採用して社保に加入させ,元請の鹿島は,専門工から教わる機会を提供したり,支店として継続的に活用したりしようという中長期的な視点があります。
この取組みをきっかけに,正社員として入職した若者が,まずは現場に多々ある隙間仕事をやりながら現場に慣れ,徐々に設備や内装工事に関わる仕事を体得し,その上で型枠技能も習得するような多能工育成モデルの構築,さらには,鹿島パートナーカレッジで学び経営幹部や鹿島マイスターを目指すような道筋を整備できないでしょうか。金銭面だけでなくモラールを高め続けることが可能な画期的制度になるはずです。解決すべき課題は少なくありませんが,鹿島にはトップランナーとして業界を牽引していただくことを期待しています。
母校での施工を
担うことへの想い
●笠原照乃設備課長代理(14年目)(写真中央)
東京建築支店時代は高層建築の現場を中心に設備担当として従事。その後横浜支店に移り,当現場で計画段階から大学側と打ち合わせを重ねてきた。「近隣には高層マンションや幼稚園などもあり,災害発生時に大学が地域の防災拠点となります。そのためBCPに対応しうまく機能するように,最後まで気を抜かずに調整していきます」。
●流剛志さん(建築担当・7年目)(写真左)
入社して東京建築,関東支店を経て横浜支店の配属となる。横浜近辺の現場になるかと考えていたところ,思いがけず母校の施工を担当することになり,おのずと士気も上がっているという。「人一倍モチベーションは高く工事に臨めていると思います。近隣に配慮しながら,今後外構から仕上工事までしっかりやっていきたいです」。
●小澤日南子さん(設備担当・1年目)(写真右)
入社1年目。横浜支店に配属となり,去年までキャンパスの中から眺めていた工事に,今度は自身が携わることになった。「すごく親しみを感じる現場です。まだまだ新人の自分にできることは限られますが,設備のことを学ぶにはこれ以上ない現場だと思うので,竣工までたくさんのことを吸収したいと思います」。
多能工の生産性に関する研究
~学生と鹿島の共同研究~
今回お話を伺ったのは,自分の家を建てるのが夢で建設業に興味があったという松村千裕さんと,日本の建築技術や品質,それに日本の町並みに魅かれて中国から留学してきたという謝子茜さんのお二方。いずれも芝浦工業大学蟹澤研究室の学生で,この共同研究の中心メンバーである。
研究活動として実際に現場に入り,多能工がどのような仕事をしているのかを知るために,技能労働者の作業履歴を調査するところからスタートした。調査は単に作業内容や時間,量といった数値的なものにとどまらず,作業者本人の多能工に対する印象や仕事へのモチベーションといった意識調査,また同一作業においての専門工と多能工の作業量比較など多岐にわたる。仕事内容についての素朴な疑問などを質問する中で,当社社員や現場の技能労働者たちともさまざまな会話が生まれ,多くの発見があったという。
「地道にコツコツやる大事さを改めて学びました。ここまでのやり方が良かったのかはまだわかりませんが,学んだ経験や知識を今後の研究にも活かしていきたいと思っています」(松村さん)。
「今後施工管理の仕事へ進む予定なので,生産性について実際の現場で学ぶことができたのは大きな財産ですし,この知識を新たな仕事に活かし,建設業発展のため少しでもお役に立ちたいと考えています」(謝さん)。