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大地の建築術 自然と共生する叡智 第7回 ギリシャ・サントリーニ島—青い海と空に映える断崖の白い街

写真:断崖に建つ集落

断崖に建つ集落。横穴住居に工夫が加わり豊かな空間が生み出されている。漆喰塗りの白い住居の中に,教会の青いドームがアクセントを添える

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カルデラの外輪山

エーゲ海は,ギリシャとトルコに挟まれた海域で地中海の一部を構成している。古代ギリシャ文明はこの海を取り囲む地域で繁栄を誇り,著名なトロイア遺跡は現在のトルコの北西部に位置する。

多くの島が浮かぶエーゲ海の中でも,ギリシャ本土の南東に位置し,220以上の島々からなるキクラデス諸島の美しさは際立っている。その最南端に世界から観光客を集めるサントリーニ島がある。断崖に建つ白い集落, 所々に点在する教会の青い屋根のドームや鐘楼などがアクセントとなり,この街の景観を豊かにしている。

サントリーニ島はパンのクロワッサンのような形をしているが,それはカルデラの外輪山の半分にあたる。中央の2つのカメニ島を囲むように,円環状に点在する島のひとつだ。島の円環のほぼ中央にあるフィラの街の建物のテラスから海を見渡すと,そこから左右にクロワッサンの形が広がり,この島がカルデラの一部であることが手に取るようにわかる。世界には多くのカルデラが存在し,日本では桜島を囲むようにできている鹿児島湾や,阿蘇山などが有名である。

フィラの街も島の北端にあるイアの街も,それぞれ断崖上にへばりつくように形成されている。これらの街の構成は極めて明快だ。自然のコンター(等高線)に合わせてつくられているので歩きやすいし,自分が今どこにいるのかも自覚しやすい。それらの等高線上に走る道は,所々で上下に結ばれている。

地図

図版:クロワッサンの形のサントリーニ島と対岸の島々

クロワッサンの形のサントリーニ島と対岸の島々。円環状のカルデラを形成しているのがわかる

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写真:サントリーニ島最大の街,フィラ

サントリーニ島最大の街,フィラ。自然の等高線に合わせてつくられている

観光地化された街と静かで落ち着いた街

島で最大の街はフィラであり,島へのアクセスもここが中心になっていて,多くの観光客は最初にフィラを訪れる。

かつてこの街へ入るには,200mも下の港から,ジグザグに折り返す階段を上がるしかなかった。おそらく街そのものが城塞的な役割を果たしていたのだろう。現在は港と街がロープウェイで結ばれ,船で訪れた人たちはかつての苦労を知る由もなく,街にたどり着くことができる。

それ以外にも,ジグザグの道をロバに乗って上がることができるので,時間に余裕のある人にはロバの利用がおすすめだ。上がる途中のさまざまなポイントから,フィラの街をいろいろなアングルで眺めることができる。

一方,北端の街イアへのアクセスは不便なので,多くの観光客で溢れることはさほどない。そのことが景観をつくる上では有利に働いた。ありふれたホテルやレストラン,土産物店の看板がフィラに比べると少なく,街としてはるかに美しい。私たちがテレビや雑誌で目にするサントリーニ島の美しい街並みは,ほとんどがイアである。フィラに比べると空間がダイナミックで,しかもあまり観光地化されてなく,人々の生活の息吹を感じることができる。

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写真:段状に連なるレストランやホテルが並ぶフィラの街

段状に連なるレストランやホテルが並ぶフィラの街。下部の屋根がテラス席になっている

写真:ドアだけが付けられているフィラのレストランの入口

ドアだけが付けられているフィラのレストランの入口。階段を下りてアプローチする

写真:港とフィラの上部の街を結ぶロープウェイ

港とフィラの上部の街を結ぶロープウェイ

写真:住居の前庭が下部の住居の屋根を兼ねている

住居の前庭が下部の住居の屋根を兼ねている

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写真:ダイナミックな構成のイアの住居

ダイナミックな構成のイアの住居。港と街をジグザグの階段が結ぶ

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豊かな空間を生み出す斜面住居群

サントリーニ島の住居群は,もともと斜面に沿ってつくられた横穴住居であった。それらの前面にさまざまな建築的な工夫が加わり,豊かな空間が生み出されている。これらは斜面上に折り重なるように建ち,その結果,住居の前庭は下部の住居の屋根だったりもする。所々に階段が設けられ,土地の所有形態は曖昧であるが,それがこの地域のコミュニティを強くしているのであろう。

フィラの街,イアの街とも1956年の大地震でかなりの部分が崩れてしまった。当初ギリシャ政府は崩落の危険性から斜面に住むことを禁じ,上部の安全な場所に移転すべく開発を進めた。しかし,長く培われてきたコミュニティの意識や将来の観光資源のために,以前の斜面住居を修復しながら時間をかけて美しい街を再生していった。フィラとイアの建物には白い漆喰が塗られている。住民たちが何世代にもわたって塗り続けたのは,美しく快適な街をつくろうという意図があったに違いない。その結果,青い空,紺碧の海に映える白い街ができあがったのだ。

歴史的に見ると,人々は必ずしもフラットな所ばかりに集落を創出してきたわけではない。外敵からの防御の意味合いなどから,人類は斜面を活用して住みやすい居住環境を生み出してきた。住まい方やコミュニティのつくり方など,斜面住居から得るものは十分にある。

写真:小さな街の中のあちこちに見られる教会の鐘楼

小さな街の中のあちこちに見られる教会の鐘楼

写真:住居群の中にある急な階段

住居群の中にある急な階段。この住居専用の階段にも見えるが,誰もが通れる階段にも見える

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古市流 地球の歩きかた

サントリーニ島国旗
Santorini

面積:約76km2
人口:約1万5千人(2011年)
エーゲ海キクラデス諸島最南端
アテネとクレタ島の中間に位置する島である。
サントリーニ島へはギリシャの首都アテネから飛行機・高速船・フェリーで移動できる。

エーゲ海のタコ料理

欧米ではタコを食べない国が多い。確かに姿もグロテスクで,その生きている姿を見たら,とても食べる気持ちにはなれないのかもしれない。英語でデビルフィッシュと呼ばれるのも理解できる。

しかしフランス,スペイン,イタリア,ポルトガルなど,ラテン系の国々では好んで食べられる。私にとって忘れられないのは,スペインのガリシャ地方で食べた,プルポ(タコ)だ。足を輪切りにしたものをオリーブオイルで焼き,塩と唐辛子で味付けし,レモンをかけただけのシンプルな料理。白ワインがその味をさらに引き立て,ついもう一皿注文してしまうほどだった。

写真:大きな足が1本まるごとお皿に

大きな足が1本まるごとお皿に。ポテトとライスが添えられている

そして,このタコはエーゲ海でも好んで食べられる。料理の仕方はじつに大胆で,大きな足がそのまま1本の姿で出てくる。エーゲ海の芳醇なオリーブオイルで炒められ,ガリシャとはまた違ったタコが楽しめる。

さて,これをどうやって食べるのだろう。周りを見回すと,ひげを生やした地元の漁師風の男たちは,まるごとガブリと噛みついている。その姿はなかなか豪快で,エーゲ海のタコもおすすめである。

古市徹雄(ふるいち・てつお)
建築家,都市計画家,元千葉工業大学教授。1948年生まれ。早稲田大学大学院修了後,丹下健三・都市・建築設計研究所に11年勤務。ナイジェリア新首都計画をはじめ,多くの海外作品や東京都庁舎を担当。1988年古市徹雄都市建築研究所設立後,公共建築を中心に設計活動を展開。2001~13年千葉工業大学教授を務め,ブータン,シリア調査などを行う。著書に『風・光・水・地・神のデザイン―世界の風土に叡知を求めて』(彰国社,2004年)『世界遺産の建築を見よう』(岩波ジュニア新書,2007年)ほか。

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