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進む抜本対策工事

図版:2014年8月,台風11号による急激な越流水

2014年8月,台風11号による急激な越流水

[工事一覧]

発注者:
国土交通省 近畿地方整備局
設計者:
エイト日本技術開発
  • ●堰堤他工事
  • ●上流堰堤他工事
  • ●下流堰堤他工事
  • ●河道閉塞部侵食防止緊急対策工事
  • ●床固工他工事
  • ●渓流保全工他工事
  • ●下流渓流保全他工事
  • ●3号砂防堰堤工事

(関西支店施工)

図版:施工イメージ

施工イメージ

続く施工中の被災

仮排水路を構築する緊急対策工事に続き,下流部への土砂・洪水氾濫被害を防止するための抜本対策工事が2013年から始まった。不安定な土砂の除去・整形を行うとともに,河道閉塞の脚部固定と土砂流出による土石流被害の防止を目的とした砂防堰堤の設置,保全対象付近での洪水流を安全に流下させるための渓流保全工などを構築する。

2013年9月15日,台風18号が現場を襲った。その6日後の21日夜中,再び斜面が崩壊し,約40万m3の土砂が崩れ落ちた。台風通過後,晴天の日の夜中に起こった出来事だった。「常に災害が起こりうる現場だということです。気を抜くことはできませんでした」と江口健治所長は話す。2012年1月に赤谷地区に着任し,同年10月から所長として現場を統括している。

図版

江口健治所長

斜面再崩壊はまだ続いた。2014年8月の台風11号は,赤谷地区に設置した雨量計で430mmの連続雨量を記録。約76万m3の斜面再崩壊を引き起こし,越流水が,完成間近だった2号砂防堰堤を損壊させた。「それでも,紀伊山系砂防事務所※4のご担当者は,『2号砂防堰堤が機能したから下流域への被害を防止できた』と言ってくれました。赤谷地区の安全のため,一日も早く工事を進めなければならないと,改めて決意しました」。

※4 紀伊半島大水害による二次災害のおそれのある箇所に対し,緊急的に砂防事業を実施し,安全を確保することを目的として2012年4月に国土交通省近畿地方整備局が設立

図版:損壊した完成間近の2号砂防堰堤(2014年8月)

損壊した完成間近の2号砂防堰堤(2014年8月)

無人化施工で仮排水路復旧

2014年8月の台風11号による急激な越流侵食は,緊急対策工事で設置した仮排水路と暗渠排水管も破損させ,一部の範囲で流出した。特に湛水池の水位低減を担う暗渠排水管は,早急な復旧が望まれた。しかし,復旧には崩壊斜面直下での作業を要する。崩壊斜面直下の施工箇所までの土石流到達時間は僅か30秒と推定された。現場は避難の迅速性を第一に考え,従来の作業方法を見直し,今回の復旧における全作業を無人化施工で行うことを決定した。

図版:暗渠排水管の被災状況(2014年8月)

暗渠排水管の被災状況(2014年8月)

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図版

松本健太郎工事課長代理

「2011年は目視による重機の遠隔操作で防護土堤をつくりましたが,今回は施工箇所から約1km離れた操作室で遠隔操作にて施工します。さらに,構築する構造物には排水勾配などの精度確保と品質が求められるので,施工の難易度が異なります」。当時,監理技術者として施工計画立案に携わった松本健太郎工事課長代理はそう話す。掘削,暗渠排水管の設置,コンクリート打設など,全てを無人化する。無人化で暗渠排水管を施工するのは国内初の試みだった。バックホウでの施工性を考慮した暗渠排水管の材料選定に始まり,管材の揚重方法を検討した上で特殊アタッチメントの開発も行い,試験施工を繰り返した。そして,仮排水路の復旧を工期内に無人化施工で実現した。「赤谷地区では,つくったものが被災によって破損するだけでなく,基礎地盤自体がなくなるという衝撃的な光景を目の当たりにしました。その状況下でも,協力会社の皆さんは下を向かずついてきてくれました。無人化施工を無事に進められたのもたくさんの協力があったからです。赤谷の現場で学び,経験した10年間は,私の誇りです」。

図版:操作室のモニタから見る,遠隔操作による無人化施工での暗渠排水管設置状況

操作室のモニタから見る,遠隔操作による無人化施工での暗渠排水管設置状況

現場では,台風や大雨によるダム湖の越流,再崩壊を繰り返してきたが,これまで人的な二次災害は起きていない。「着工時から,発注者とともに数値による明確な作業中止基準や降雨後の作業巡視計画を定めています。それを愚直に徹底してきたことと,無人化,さらには自動化施工のような新しいことへの挑戦が結果につながっていると思います。災害現場だからこそ,皆が主役意識をもって前向きに取り組める環境づくりをこれからも大事にしていきたい」(江口所長)。

図版:下流域の対策工事の様子

下流域の対策工事の様子

図版:下流域の対策完了(2019年12月)

下流域の対策完了(2019年12月)

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グラウンドアンカーに光ファイバを用いた
PC張力計測システムを初適用

2017年に着工した渓流保全のための法面補強工事では,当社ら※5の最新技術が適用された。

法面補強工事におけるグラウンドアンカー工法は,地中にグラウトで造成するアンカー体と,地表のアンカー頭部をストランド※6で連結し,その張力を利用して法面を補強する。ストランドの張力は地山の動きなどによって変動し,その値が設計の想定を外れると,法面の崩壊につながるおそれがあるため,張力は長期間管理する必要がある。

そこで当社らは,光ファイバを用いたPC張力計測システムをグラウンドアンカーに活用することに着目。ストランドにひずみ分布を計測できる光ファイバを全長にわたって組み込み,張力の変動に伴って光ファイバに生じるひずみ分布の変化を把握することで張力の変動要因を推定する。

本技術を初適用した赤谷地区では,グラウンドアンカーの施工から4年以上経過した現在も,光ファイバでデータを計測し,計測結果からグラウンドアンカーの張力が適切に確保されていることが確認できている。赤谷地区で得られた知見は,今後高速道路をはじめとした様々な法面の維持管理や土砂災害に対する予防保全,BCP対策などへつながっていく。

※5 鹿島,住友電工スチールワイヤー,ヒエン電工,エスイー

※6 PC(プレストレストコンクリート)構造物の緊張材として使用されるPC鋼より線

図版:地山全体の動きなど,外力の作用によるグラウンドアンカーの張力変動を示す図

地山全体の動きなど,外力の作用によるグラウンドアンカーの張力変動を示す図

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