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砂防堰堤の無人化・自動化施工へ

図版:3号砂防堰堤(3次元モデル)

3号砂防堰堤(3次元モデル)

[工事概要]
赤谷3号砂防堰堤工事

発注者:
国土交通省 近畿地方整備局
設計者:
エイト日本技術開発
規模:
砂防堰堤工1基
工期:
2020年2月~2022年9月
(関西支店施工)

新たなる挑戦

下流域の対策工事を終えると,一連の抜本対策は最終フェーズ,3号砂防堰堤工事へと移行した。3号砂防堰堤は,2号砂防堰堤とともに河道閉塞脚部の安定化により,侵食による決壊防止を目的としたもの。崩壊斜面に最も近いエリアでの施工となる。安全性確保のため,出水期(6月15日~10月31日)は人の立入りが禁止される。工事はECI方式(技術協力・施工タイプ)※7が採用され,当社は設計段階から施工予定者として参画。早期に工事を完了させるため,出水期における遠隔操作による無人化施工に加え,新たに自動化施工を提案し,国内で初めて砂防工事における自動化施工への挑戦が決まった。

※7 ECI方式:設計段階で施工者の技術・経験を取り入れる技術的な提案・交渉方式

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一般的に無人化施工はオペレータがモニタを確認しながらの遠隔操作となるため,通常の有人施工と比較して,70%程度に施工効率が低下することが課題とされる。当社は,モニタを見ながらの遠隔施工では時間がかかり,かつ精度確保が困難な作業を抽出。砂防堰堤構築のうちコンクリートブロック設置と,ソイルセメント敷均し・転圧作業に自動化施工の導入を決めた。

図版:出水期の掘削・土砂運搬は遠隔操作による無人化施工で実施。最盛期には最大15台稼働した

出水期の掘削・土砂運搬は遠隔操作による無人化施工で実施。最盛期には最大15台稼働した

図版:砂防堰堤施工順序

自動化の技術開発・施工支援には当社機械部が携わった。「コンクリートブロックの把持から設置までの自動化作業は,複数の要素技術から構成されています。実施工に至るまで,それぞれの技術開発と要素実験の結果を反映して融合し,総合的に動くよう試験施工とフィードバックを何百回と繰り返しています」と当社機械部生産機械技術グループの土井原美桜担当が説明する。約3年間の開発期間を経た自動化技術は,把持するブロックと設置箇所を自動判別,把持ブロック据付角度を自動判定する。オペレータは操作室で監視するだけで,一連の作業が的確に繰り返される。実施工を現場で確認した土井原担当は,「厳しい環境下の工事でも,自動化技術で品質と効率の向上を果たすことができました」と成果を語った。

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図版:土井原美桜担当(左)と中川和歩担当

土井原美桜担当(左)と中川和歩担当

コンクリートブロック設置の自動化

ブロックの背面に付けたARマーカーを重機のARカメラが認識し,コンピューターが目標の座標値を自動で算出。自動運転データを作成・実行することで,重機に搭載した人工筋肉ロボットが重機を操作し,コンクリートブロックの把持から設置までの一連の作業の自動化を可能としている。

赤谷工事から次につなげる

ソイルセメント敷均し・転圧作業には,現在「国土交通省 東北地方整備局 成瀬ダム堤体打設工事」(秋田県雄勝郡東成瀬村)で活用されている,建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL®」を導入した。「立ち入りが禁止されている災害現場での作業である以上,絶対に人が現場に入る必要のないシステムにしなくてはと考えました」。そう話すのは,当社機械部自動化施工推進室の中川和歩担当。そこでJAXAとの共同研究で培った遠隔操作と自動制御技術の知見を応用した。本現場では遠隔操作でキャリーダンプがソイルセメントを所定位置まで運搬・荷降ろしすると,待機していた自動ブルドーザが敷き均し,その後自動ローラが転圧するという連携作業を行った。

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図版:A4CSELによるソイルセメント敷均し・転圧

A4CSELによるソイルセメント敷均し・転圧

現場の工事担当者はA4CSEL開発担当者と一緒に自動化重機の動作,作業方法,作業工程を詰めるとともに,成瀬ダムに赴き,実際の運用状況を学ぶなどの準備をしてきた。現場でA4CSELを運用したのは,2020年入社の渡辺大貴工事担当だ。「運用に必要な知識の習得には苦労しましたが,その結果,問題点の絞り込みや解決法,計画変更時の処置など自動化施工推進室とスムーズに情報交換ができ,順調に工事を進めることができました」。狭隘な中で複数重機が連携して作業できる最適な計画と,計画通りに稼働する自動化重機によって,有人施工と同等以上の施工精度と効率を達成した。「当初計画よりも自動化施工の適用範囲を増やしました。作業員さんからの評判も良く,施工能力の高さと利便性を実証することができて良かったです」と中川担当と渡辺工事担当は語った。

図版

渡辺大貴工事担当

今年4月,3号砂防堰堤の本堤が完成した。「自動化施工を設計段階から導入したのはこの工事が初めてです。災害現場に自動化施工を導入したという実績以上に,自動化施工が設計段階から導入され実施工に至った,そのアプローチにこそ,今後鹿島として自動化施工を推進する上で大きな価値があると考えています」と江口所長は総括する。自動化施工を導入するにあたり,ECI業務で設計段階から,コンクリートブロックや堰堤の形状を自動化施工に適した仕様に見直した。また,コンクリートブロックを把持する重機の装置開発も行った。「構造や施工に関する既成概念を横に置き,どうしたら自動化施工が導入できるかを,本社・支店の支援を受けながら検討しました。赤谷工事での様々な実績が,鹿島らしい付加価値を生み出す施工につながればと思います」。

図版:無人化・自動化施工操作室の様子

無人化・自動化施工操作室の様子

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図版:完成した3号砂防堰堤(2022年4月)

完成した3号砂防堰堤(2022年4月)

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