再開発が進む東京都港区。その代表的なエリアのひとつである大門・浜松町は,かつては江戸城の城下町として整備された地域。浜松町二丁目では,世界貿易センタービルディング既存建物の解体が完了し,新本館の建設が始まった。その隣りには新設された南館がそびえ立つ。
羽田空港へのアクセスポイントであるこの地には,多様な交通機関が行き交う。鉄道に新幹線,東京モノレールに新交通ゆりかもめ,首都高速道路,隅田川の水運ネットワークも活発だ。地下,地上,上空,そして海へ。この地を起点に,あるいは通過点として,交通機関の軸が互いに干渉することなく隣り合い,交差し,すれ違っている。
近年そこに,浜松町から竹芝へと抜ける歩行者専用のバリアフリーデッキが加わった。地上15mの高さから見わたすパノラマ的眺望は,これまでになかった角度や見晴らしで東京の魅力を浮かび上がらせる。
「東京はインフラを重ねてきたレイヤーでできているから面白い」と語る写真家の大山顕さん。「立体交差」の写真で著名な氏が,浜松町・竹芝エリアを巡り,さまざまな地点から歩行者デッキと首都高速道路の見える風景を写した。
「歩くことを取り戻す」
撮影:編集部
都市の見方
都市を見ていて面白さを感じるのは,いろんな要素がせめぎあって一つひとつのスケールで風景が形づくられている点です。それぞれの制約と折り合ってどうにか踏ん張っている,それが見えたとき,「キュート」さを感じます。その工夫の跡を写真を通して発見するのが面白いんです。
土木のインフラはそれがむき出しでわかりやすい。すでにでき上がっている都市のなかに新たに道をつくるには,高架にして,立体交差にせざるを得ません。この歩行者デッキも,首都高を越える高さでつくられている。ものすごいことですよね。首都高を上から見る機会はそうそうなく,歩行者デッキから走っている車がこうしてすぐ間近に見られると,親近感がわく。分断されがちな首都高の存在も身近に感じられます。
東京の歴史が見えてくる
この歩行者デッキを歩いていくと,東京がいかに歴史的なレイヤーでできているのかが見えてきます。たとえば旧芝離宮は東京ができる前からあり,竹芝エリアは埋立地です。高度経済成長期の真っただなかに首都高,モノレールができて(1964年),世界貿易センタービルが建てられ(1970年),今その建替えが進んでいる。ここから見える構造物が築何年かという表示があれば,東京の歴史を俯瞰して見られるでしょうね。まさに「ザ・東京」の風景です。
未来の都市
昔描かれた未来都市では車が空を飛んでいましたが,現実はその逆で,地上は車,空中は歩行者のものになるのではないでしょうか。実際に世界中で,歩道を上空につくる流れが起き,マンハッタンのハイラインでも皆が歩いています。じつは皆,歩きたいんじゃないか。歩きながら「見る」,風景を受け取ることと歩行のスピードはシンクロしています。「歩くこと」を取り戻し,歩行者にとって快適な歩行空間があるかどうかを,都市が力をもつ指標として,再評価してほしいと思います。
写真と体験
写真は,そこに自分がいないと撮れません。体を現地にもっていき,そこで得た情報や記憶の上に写真が重なって,体験として落とし込まれます。なので「あの日は風が強かったな」とか,写真には写っていない感傷やディテールも大事なんですよね。僕は,意味が先行して肉眼がスルーしがちなものをよりよく見るためにカメラを使っています。その写真を人と見ることも大事にしています。撮影したものを発表し,工事に携わった方など多くの方の意見を聞いて初めてわかることがあり,それでもう一度撮りに行く。写真の良し悪しよりも,対象をどう見たらよいのか理解を深めるために撮っています。
夏休みにおすすめの撮影
工事の風景でしょうか。公開している工事現場があれば,それを見に行くのもいいですよね。都市はどんどん変わっていくので,風景は空間の様相である以上に時間で切りとった切り口の断面だと考えると,工事現場はまさにその瞬間が見えます。ある場所の1ヵ月後,1年後,10年後の定点観測,または10年前に誰かが撮ったのと同じ場所で今撮ってみる。写真の面白さはそこにあると思います。