第8回
日本製鉄小倉工事事務所
50年以上継続し新設・営繕工事などあらゆる施工を永続的に担う常設工事事務所だからこその発想で,
日本製鉄小倉工事事務所が独自に築き上げたデジタル化。
社内の「第71回施工技術並びに経営の合理化研究会 (土木部門)」で特別賞を受賞。
この取組みは,ほかの現場へも水平展開をしてほしいと押味会長もイチ押しだ。
【工事概要】
日本製鉄小倉工事
- 場所:北九州市小倉北区
- 発注者:日本製鉄
- 主要工事:基礎築造,コンクリート劣化部補修,
屋根壁補修更新,
天井クレーンレール補修更新,
建屋関連一式
(九州支店施工)
日本を代表する製鉄メーカー日本製鉄の九州製鉄所八幡地区(小倉)に居を構える当社の日本製鉄小倉工事事務所。前身である住友金属工業の工場建設時に設置されてから,現在に至るまで50年以上継続して同工場内の新設・営繕工事などを行っている。
工事規模は大小さまざま,工事案件数は年間約150件にものぼる。また,工場設備停止時にしかできない工事も多く,休日出勤も余儀なくされることから,当社九州支店の中でも所員の時間外労働時間が多い状況が続いていた。
抜本的な改善には至らずにいた中,2024年度から建設業にも適用される時間外労働の上限規制に向けて「どげんかせんといかん」と山口峰夫所長が一念発起。所員で意見交換を重ね,現場オリジナルのデジタル化を推進した。導入前と比較して,今では所内の平均時間外労働時間が約30%削減するまでの効果を発揮し,発注者からも「対応がスムーズになった」と好評を得られるといった相乗効果も生まれている。
こつこつと積み上げてきたワーキングの成果
2020年1月から働き方ワーキングを毎週実施した。抜本的な改善施策にこだわらず,まずは日頃の作業を何分,数十秒単位で削減していけば,月単位で長時間労働の削減に繋がると考え,①“不要な書類”の断捨離,②“重複業務”の削減,③“事務所に戻ってから”の業務削減とモバイル端末の活用,④ “内業”の見直し,を基本的な方針とした。ワーキングテーマの担当は持回り制とし,日頃の業務で効率化できそうなことがあれば,ITに限らず,所内ルールの見直し,事務所のレイアウトなどテーマはさまざま。ワーキングは11時30分からスタートし,必ず30分で終えることをルールとした。
検討の結果,まずペーパレス化から進めることになり,そこから山口所長の怒涛のシステム構築,アプリ作成が始まった。使用するソフトは,すべて当社のパソコンにインストールされているOffice 365※1の標準ソフト(図1参照)を組合せて作り上げた。「最初からすべてのソフトを使えたわけではありません。YouTubeで,1分でアプリを作る動画を見たり,調べたりしながら作成し今の状況までたどり着きました」と苦労を笑顔で語る。
※1 Office 365は米国Microsoft Corporationの登録商標
データベースの構築
常設工事事務所は,過去の工事案件を振返ることが多く,目的案件を探す時間が非効率となる。そこでまずはデータベース管理システムソフトAccessを用い,独自の工事情報一元管理システムを構築。工事の基本情報や日報,作業間連絡調整会議にも活用することができた。慣れないと1時間程要する発注者提出用の日報作成がボタン一つで自動的に作り変えられるなど,同じデータを入力する書類の“重複業務”をなくす基礎を確立させた。
施工計画書作成の半自動化で,約40%の時短に成功
所員が最も時間を費やしていた業務が「施工計画書」の作成だ。発注者書式の施工計画書は1件ごとに作成が必要かつ規模の小さい工事であっても平均約35枚/件の書類を作る必要がある。時間を費やす要因は,参考資料となる過去の類似工事を探す手間と重複業務が多いことなどが挙げられるため,ワークフローを自動化するツールPowerAutomateDesktopを活用し,施工計画書作成の半自動化を推進した。大石晋吉工事課長は「フォーマットに必要事項を入力するだけで,施工計画書への自動転記と必要な定型図などを過去のデータフォルダから自動収集できます。作成における非効率がなくなるとともに,配属直後の所員でも短時間で使いこなしています。便利なソフトはどんどん活用していくことが肝要です」と時短効果を特に実感している。内容によっては1日がかりの施工計画書作成も約40%の時短ができているという。
デジタル化で体制にも変化を
山口所長の進めるデジタル化は事務系社員の業務・体制にも大きく変化を与えている。現場事務を担当する前田香苗さんは「協力会社への発注管理,請求書関係,建退共※2の内訳,作業員の出面表※3などが,データベースを基に集計され,メール作成までの作業が自動化されています。協力会社の皆さんへ確認・捺印・返送してもらうだけなので齟齬や手戻りもなくお互い効率的です」とシステムをフル活用している。「少し前まで,この現場の事務は2人体制でしたが,今では,前田さん1人でもちゃんと定時で終業できています」(山口所長)。デジタル化で事務体制にも大きな変化をもたらした。
※2 建設業退職金共済制度
※3 現場で働く作業員の作業日数表
デジタル化から生まれた意識改革
その他にもアプリをPowerAppsなどで作り,今では多数(図2参照)の効率化を図ることができている。PowerAppsで作成したアプリは,SharePoint上の所内専用ポータルサイトから活用できるようにし,全体の使い勝手にも気を配っている。
「システムを構築した当初は,すぐに時短の成果が見えませんでしたが,所員とともに改良を重ねるうちに効果があらわれ,社内表彰という形で評価していただけたのは素直に嬉しいです。また,このデジタル化で,所員の時短への意識改革にもつながり,各自がより改善を考えるようになったことも大きな成果だと思っています」と山口所長は,さらなる効率化への意欲と所員への期待を込める。