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特集 夏旅2023 インフラツーリズム

コロナ禍の行動制限が緩和され,今年は思う存分アクティビティを楽しみたいと
夏休みを計画する方も多いだろう。そこで今月の特集は「インフラツーリズム」と題して,
地域社会に貢献し,観光資源としても名高い鹿島ゆかりのプロジェクトを訪ね,
構造物をリアルに体感できるツアーの見どころや,地域周辺のおすすめスポットなどをあわせて紹介する。
大自然と調和した橋やダムの構造美,復興のまちのシンボルが伝える力強さ,
ジャンクション越しに望む東京の新たな都市景観,防災機能を担保する地下大空間の秘密。
知的好奇心を満たす夏旅がスタートする。

生きている橋 明石海峡大橋

主塔のてっぺんから神戸側を見る。素線127本を束にしたものを,さらに290本束ねた
メインケーブルには,錆や腐食を防ぐ乾燥した空気が常時送り込まれている

撮影:大村拓也(以下同)

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1998年4月の開通から今年で25周年を迎えた明石海峡大橋。それまではフェリーの運航のみであった兵庫県神戸市と淡路島を高速道路で結び,淡路島のライフラインである水道と送電線,光ケーブルも敷設する。淡路島を南下して徳島と結ぶ大鳴門橋,瀬戸大橋,瀬戸内しまなみ海道と並ぶ,本州四国連絡橋のひとつである。

明石海峡大橋は吊橋構造で,主塔とアンカレイジの間にメインケーブルを渡し,そこから垂らしたハンガーロープによって橋桁が支えられている。主塔の高さは海面から297m,全長は3,911m。吊橋の大きさを表す2つの塔の間の距離(中央支間長)は1,991mあり,2022年3月までのおよそ24年間,世界1位の吊橋として居続けた。

神戸市三宮のバスターミナルから淡路島に向かう高速バスは中高生の姿も交えて満席だ。神戸・淡路島間は両住民にとってもはや地続きの生活圏なのだろう。車窓から明石海峡大橋が目の前に迫り,上空から連なる白いハンガーロープが景色を横切っていく。降り続いた雨が止んだばかりの夕方,海面からは虹がかすかに立ち上がっているのが見えた。淡路島に到着だ。

激しい潮流との闘い

この世界最大級の吊橋の主塔に上れるというのが「明石海峡大橋塔頂体験ツアー」である。現在ツアーは淡路島側の主塔を案内するコースで行われ,参加者は橋のたもとにある「道の駅あわじ」に集合する。

まずは映像で建設の歴史を学ぶ。1988年に最初の工事,当社JVが建設を担当した神戸側の主塔基礎(2P)の海中掘削工事が始まる。掘削面積はほぼ甲子園球場の広さ,水深60mの海底に沈める鋼鉄製の円筒形ケーソンは,直径80m,高さ70m,重さ15,800tという巨大なもの。最大毎秒4.5mといわれる明石海峡の激しい潮流と闘いながら,その設置誤差はわずか5cmであったという。約4年の歳月をかけて2つの主塔基礎が完成した。

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左手のアンカレイジ内の階段を上り,主塔を目指し1km弱の距離を歩く。主塔のてっぺんにはエレベーターで上る

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トラス構造が美しい補剛桁。普段は管理用として使用される通路を渡る。この真上を道路が走る

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海面の上を歩く

いよいよ塔頂体験ツアーがスタート。アンカレイジ内の171段(約40m)の階段を上り,管理用通路のゲートに到着。足元が格子状の金網で下が透けて見える通路に踏み出す。しばらく進むと海面に出る。

足元,つまり海面から吹き抜ける風が強い。船舶が威勢よく汽笛を鳴らし橋の下を通っていく。足元を見ながら歩を進めると海面に吸い込まれるような錯覚に陥り,万が一,という恐怖に足がすくみ,来たことを後悔し始める。

橋自体も結構揺れている感覚。本州四国連絡高速道路の布廣(ぬのひろ)淳史さんによると「これが良いんです。むしろそうじゃないとダメなんです」とのこと。その答えが後でわかる。

海面に円形のケーソンが見えてきたところで,主塔に到着。内部のエレベーターで塔の98階まで上昇し,階段を上って塔頂スペースに出る。

思わず「わー」と声が漏れる。海面約289mの高さから見わたす広い海,青い空。下方に海を一直線に延びる明石海峡大橋。晴れわたった空に緑萌える淡路島,逆サイドに神戸や明石の市街地,遥か遠景に小豆島までこの日は確認できた。メインケーブルの優美な曲線を伝えば海に降り立つことができそうなほど,機能が形になった構造物の見事さを実感する。実際に訪れた人のみが味わえる感動だ。

図版:歩行時の足元

歩行時の足元

写真

本州四国連絡高速道路
神戸管理センター
布廣淳史さん

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主塔基礎を見下ろす

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技術者が直接案内してくれるのもツアーの見どころ。
橋の構造について説明

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塔頂記念撮影。白く霞んで見えるのは海面からの水蒸気

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揺れる吊橋,動く橋桁

帰り道では,吊橋の構造について布廣さんから話をうかがうことができた。

「鉄製の橋桁は,気温の変化で長さが伸び縮みするんです。気温20度を境に,夏は伸び,冬は縮む。さらにいえば,朝と夕,太陽が差しこむ橋の東側と西側でも差があります。つまり橋は微妙に歪んでいるのです。そして風が吹けば揺れ,絶えず動いている。我々はこれを『橋は生きている』と呼んでいます。その動きを制止せずに上手く逃がしてやることで,負荷をかけずにしなやかな強さを保っています。橋は生き物。使い続けると同時に,日々の保全管理をこまめに行い,明石海峡大橋の今後の200年をつなぎます」。生きている橋,ぜひ体感してほしい。

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淡路島側から撮影。淡路島と神戸側,2つの主塔が建つ。
手前が淡路島側の主塔。この上まで上ったと思うと感慨深い

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Column

海の恵みと日本神話

淡路島の名産品といえば,たまねぎ。吊るしてよく風に当て,通常よりも長く置くことで甘みが出るという。「道の駅あわじ」では農家直送のたまねぎの購入や,食事処で新鮮な海の幸がいただける。

淡路島は,日本神話に登場するイザナギノミコトが最初に生んだ島とされる。淡路市にある緑豊かな伊弉諾(いざなぎ)神宮には,二本の「楠」が寄り添うように成長した御神木,「夫婦(めおと)の大楠(おおくす)」が「夫婦のふるさと」として崇められている。

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写真上から右回りで
鯛たまごかけ丼,生しらす丼,海鮮丼

図版

撮影:編集部

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