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Message:BCP構築への最適なソリューション

技術研究所
近藤宏二
プリンシパル・リサーチャー
写真:近藤宏二

昨年は,皆さんの記憶にも新しい,大阪府北部地震,平成30年7月豪雨,台風21号や24号,北海道胆振東部地震など,大きな災害が立て続けに発生し,各地に爪痕を残しました。その結果,多数の犠牲者を出し,また多くの企業が操業停止に追い込まれました。

南海トラフの巨大地震や首都直下地震,関西での上町断層地震などの発生確率も近年高まっており,地震の揺れや津波による甚大な被害が懸念されます。また,毎年多発する台風による強風災害や高潮被害,集中豪雨による大規模な水害のリスクも増大する傾向にあります。

自然災害リスクの理解とBCPの構築

企業は様々なリスクにさらされていますが,なかでも自然災害は発生の可能性が高く,また発生した場合の影響が非常に大きいリスクです。世界でも有数の自然災害大国である日本では,巨大地震はもとより巨大台風や集中豪雨による風水害などにも備える必要があります。これらの自然災害に対して,そのリスクを理解して,BCPを構築し企業活動の防衛策を講じることは,経営上の重要な課題であるといえます。

この状況を受けて,当社は昨年11月,技術研究所にBCP・リスクマネジメントチームを組織し,様々な災害に対する自社BCP強化,顧客対応,研究開発を推進する体制を整備しました。

図版:BCP効果の概念

BCP効果の概念

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リスクコミュニケーションの重要性

災害による被害や損失を軽減させるためには,リスクの認識と,発災時の対応力の向上が極めて重要です。この能力のことをリスクリテラシーといいます。企業としてのリスクリテラシーを高めるためには,実際にBCPを検討する担当者とBCPやリスクマネジメントの専門家の間,そしてBCP担当者と一般社員の間のコミュニケーションの充実を図る必要があります。ここではリスクコミュニケーションの重要性を示す事例を2つご紹介しましょう。

平成30年7月豪雨で大きな被害が発生した岡山県倉敷市の真備町は,国土交通省の洪水ハザードマップにおいて高い水位の浸水が想定されており,実際にも過去に浸水被害が多数発生しています。しかし,過去の水害後にこの地域に移り住んだ住民も多く,水害リスクが高い地域であることを認識していない方も多かったことから,適切な避難行動につながらなかったと思われます。このような状況は,岡山県だけでなく,広島県などほかの地域でも見られ,多くの犠牲者が出ています。このことは,リスクを正しく理解したうえで,発災時の行動計画の策定とそれに基づく訓練の実施の重要性を示唆しています。

図版:小田川周辺の洪水浸水ハザードマップ(上)と平成30年7月豪雨による岡山県倉敷市真備町周辺の浸水域(下)

小田川周辺の洪水浸水ハザードマップ(上)と,
平成30年7月豪雨による岡山県倉敷市真備町周辺の浸水域(下)
2枚の地図を比較すると,被害の想定と実際の浸水域がほぼ一致していることが見て取れる
(出典:国土交通省資料,国土地理院資料)

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大阪府北部地震では,ブロック塀倒壊と家具転倒による死亡事故が発生してしまいました。ブロック塀の倒壊は1978年の宮城県沖地震で顕在化し,その後耐震基準の見直しが行われましたが,大阪府北部地震では多くの古いブロック塀が倒壊に至りました。過去の地震で大きな被害が出たにもかかわらず,耐震化への意識が低いために,同じ被害を繰り返している例は枚挙にいとまがありません。このことから,専門家とのリスクコミュニケーションによって,個々のリスクリテラシーを高めることの重要性が示唆されます。

これらの事例は一般市民に関わるものですが,企業活動においても,災害情報のリスクコミュニケーションが重要であることを示唆するものであるといえます。

リスクマネジメントの3つのフェーズ

様々な自然災害に対して,企業のBCPを考える場合,リスクを時間軸で捉えることが重要です。最近はそれを「予測・予防・対応」の3つのフェーズで整理する取組みが行われています。「予測」では,リスクをどう捉えるか,すなわち起こりうる自然災害やそれによる被害を調査・診断します。「予防」では,リスクにどう備えるかが重要であり,耐震対策や風水害への対策など予測に基づく被害を軽減するための対策を講じます。「対応」では,非常時にどう対応するか,すなわち速やかな回復を実現し,災害時の機能低下を最小限に留めるために,避難・復旧など適切な措置を講じることが重要となります。

図版:リスクを時間軸で捉えた3つのフェーズ「予測・予防・対応」

リスクを時間軸で捉えた
3つのフェーズ「予測・予防・対応」

「対応」のフェーズのリスクコミュニケーションツールとして,発災前に公開された各種ハザードマップや発災直後に関係機関から配信される各種の被害・影響情報などと,自社拠点施設の位置情報などを地図上で重ねて表示するシステムや,被害量を集計して情報共有を行うシステムの導入が始まっています。これらは主に災害時の初期対応に役立てられることが期待されています。

BCPへの投資は,直接,利益を生み出すものではないため,費用対効果の判断が難しいものでもあります。そのため,リスクマネジメントの観点から,「予測」でリスクを見える化し,「予防」ではリスクの高いところから対策を優先的に行い,「対応」では災害が起きたときに円滑な初動体制を構築することが重要です。当社ではグループ会社の小堀鐸二研究所,イー・アール・エス,鹿島建物総合管理,カジマアイシーティー,ケミカルグラウトなどと協力して技術開発を続け,各種企業や自社のニーズに沿った最適なソリューションを提供しています。

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図版:施工中現場位置と大阪府北部地震時の地震動強さを重ね合わせたリアルタイムハザード・リスク情報(震度分布情報は防災科学技術研究所が作成)

施工中現場位置と大阪府北部地震時の地震動強さを重ね合わせたリアルタイムハザード・リスク情報
(震度分布情報は防災科学技術研究所が作成)

図版:施工中現場位置と浸水想定区域・実況降雨強度を重ね合わせたリアルタイムハザード情報(実況降雨強度情報は防災科学技術研究所が作成)

施工中現場位置と浸水想定区域・実況降雨強度を重ね合わせたリアルタイムハザード情報
(実況降雨強度情報は防災科学技術研究所が作成)

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