ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2019:特集 自然災害リスクとBCP--鹿島グループのソリューション > 予防:リスクへの備え

予防:リスクへの備え

予測の段階でハザードを理解し,リスクを把握したうえで,想定される被害から事業を守る対策を実行し災害に備えていくのが予防のフェーズだ。ここでは災害に強いハードの構築を前提とした液状化対策,津波・高潮対策などの予防技術を紹介する。

液状化対策のエキスパート

多くのプラントが立地する臨海部の埋め立て地など,液状化のリスクが高い敷地では,地盤改良によって事業の継続性向上が望める。

ケミカルグラウトは地盤改良工事を専門にしており,狭隘部での施工が可能な高圧噴射撹拌工法の「ジェットクリート®工法」,遠隔地からの作業が可能で供用中の建物直下の地盤改良も実現する「カーベックス®工法」など,数多くの特許技術を有している。対象敷地の条件に合わせて多様な対応策を提案できる液状化対策のエキスパートだ。

2011年の東日本大震災直後,当社と同社が施工した液状化対策済み施設の被災状況を調査した結果,一部の構造物は想定を大きく上回る地震動と津波にさらされたが,大きな被害がなく,液状化対策の有効性が確認された。

部分的な地盤改良

東日本大震災後の調査を踏まえて,当社では高い安全性と経済性を両立する地盤改良工法の研究開発を進めている。そのひとつ「低置換率格子状固化工法」は,性能設計を駆使することで改良を行う範囲を見直し,少ない工事量で地盤の耐震性を高めるもの。岸壁の液状化対策においては従来技術の2/3程度にコストを抑えることが可能になり,液状化とそれに伴う側方流動対策の新たな選択肢となってきている。

側方流動とは,地震時に地盤が海側に変形する現象で,南海トラフなど大規模地震動での未対策施設の被害が懸念されている。

改ページ

図版:低置換率格子状固化工法のイメージ

低置換率格子状固化工法のイメージ。パイル状の改良体を格子形に埋め込み地盤固化を施すもの。性能設計を駆使することで,合理的かつ経済的な工事量で行うことができる

図版:東邦液化ガス 名港LPG基地

大規模地震発生時にもガスタンク,パイプラインなどの重要設備を保護し,事業を継続するため,格子状固化で液状化・側方流動対策を実施した
東邦液化ガス 名港LPG基地
(名古屋市港区)

モニタリングによる段階的な対策

液状化対策の経済的負担を小さくするもうひとつの新しい選択肢として,「段階的地震対策とモニタリング・フィードバック」が近年実績を上げている。これは第一段階として合理的かつ経済的な液状化対策を施工。そこへ地震の揺れを感知する加速度センサーを取り付け,地震動への応答を解析,評価し,さらなる強化が必要な部分にピンポイントで地盤改良を行っていくものだ。

BCP対策はいつ発生するかわからない災害への備えゆえ成果を測りにくい投資だが,この方法ではモニタリングによって対策の効果を確かめられるとともに,解析,評価を行うことで目標レベルと過不足ない液状化対策を段階的に施工できるメリットがある。

図版:加速度センサーによる構造物・地盤のモニタリングの仕組み

加速度センサーによる構造物・地盤のモニタリングの仕組み

改ページ

優先度を考慮した津波・高潮対策

現在,地方公共団体や大型の発電所のほか,臨海部の民間施設でもBCPの一環として津波・高潮対策である防潮堤や防潮壁の整備が進んでいる。

防潮堤や防潮壁というと,東日本大震災後に東北地方太平洋側の海岸沿いなどに建設中の市街地を守る大規模な構造物を思い浮かべるが,生産施設の事業所一帯を取り囲むものや,重要施設を守るための止水用の壁など,その規模は様々である。たとえば大塚製薬工場の主力工場である松茂工場(徳島県板野郡松茂町)では,事業所の外周1,620mにわたる高さ2.0~3.35mの防潮堤の設計・施工を当社が担当した。

事業継続という観点から,リスクが大きく,かつ対策優先度の高い施設が一部の範囲に限られている場合は,その施設のみを嵩上げされたエリアへ移設し,津波・高潮被害の予防策とすることも可能である。こうした対策優先度とコストのバランスをにらんだ最適な提案ができるのは,土木工事から施設計画に至るまでオールラウンドのノウハウが集結した,総合建設業ならではの強みだろう。

図版:上空から見た大塚製薬工場松茂工場。事業所一帯を囲う防潮堤を築いた(黄色部分)

上空から見た大塚製薬工場松茂工場。事業所一帯を囲う防潮堤を築いた(黄色部分)

図版:防潮堤建設の様子

防潮堤建設の様子

図版:防潮堤建設の様子
図版:防潮堤建設の様子
改ページ
Column

被災地の復旧・復興へ
向けて

平成30年7月豪雨では,西日本を中心に前日から降り続いた雨のために7月7日,高知自動車道立川橋の上部斜面から土砂が流出。急斜面の崩落は幅約90m,延長約320mに及び,立川橋上り線の上部工が流出した。当社は発生3日後の7月10日から応急復旧工事に着手。流出した土砂や上部工の撤去,下り線を利用しての対面通行車両の安全確保のための落石防護ネットの設置などを行った。現在は橋梁工事と法面工事を並行して施工中。今年の夏休み前までの上り線の開通と,法面保護対策を含めた工事の完了を目指し,急ピッチで工事を進めている。

東日本大震災で,高さ約20mもの津波に襲われた宮城県牡鹿郡女川町では,2012年10月から進められてきた「復興まちづくり」が大きな節目を迎える。津波対策で土地を嵩上げする土工事や集団移転のための宅地造成,道路・橋梁の整備などを終え,3月23・24日に「女川町復幸祭2019」が行われる予定だ。女川町の震災復興事業は,同町と都市再生機構がパートナーシップ協定を結び,被災地では初となるコンストラクション・マネジメント(CM)方式が導入され,当社JVが調査・測量・設計・施工業務を一括で復興事業を進めてきた。他地区の復興まちづくりのモデルとして注目を集めた。

これまで幾度も自然災害に襲われてきた日本列島。被災地の復旧・復興に対して,建設業,そして当社が果たす役割は大きい。

図版:平成30年7月豪雨による土砂災害状況

平成30年7月豪雨による土砂災害状況
(高知県長岡郡大豊町,2018年7月7日撮影,
写真提供:西日本高速道路)

図版:復興事業が完了した女川町

復興事業が完了した女川町。上は2013年9月,
下は今年1月に撮影された駅周辺の姿

ContentsMarch 2019

ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2019:特集 自然災害リスクとBCP--鹿島グループのソリューション > 予防:リスクへの備え

ページの先頭へ