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対応:円滑な初動を支える

近年では災害発生時の帰宅困難者対策の一環として,72時間を目安に従業員などを建物内に待機させるよう行政から指導されている企業も多い。そのため発災直後に建物が待機場所として安全か否かの判断を,専門的な知識をもたない建物管理者でも行えるよう,応急的な点検・確認のための仕組みへのニーズが高まっている。小堀鐸二研究所が開発し当社グループが推奨する「q-NAVIGATOR®」とイー・アール・エスが提供する「応急点検チェックリスト」は地震後の建物安全性の判断を支援する。また,復旧への第一歩となる被災状況の把握,共有をスムーズにする技術として,イー・アール・エスが提供するリアルタイムハザード情報があり,発災直後の適切な避難・復旧を実現する対応段階にも当社グループの強みが活かされている。

建物安全度を1〜3分で判定
q-NAVIGATOR

建物内に設置した複数のセンサーが地震による揺れの強さを感知し建物の変形の大きさを推定,得られたデータをもとに建物の倒壊可能性を判定する「q-NAVIGATOR」。揺れが収まってから判定が出るまでは1~3分というスピードで,建物管理者が避難の要否の判断に要する時間を大幅に短縮する。建物利用者への迅速かつ安全な情報提供を実現するとともに,被災状況の詳細な記録ができるため,災害後の早期復旧実現にも寄与する技術でもある。

このシステムの特徴は,対象建物の耐震診断や構造設計図書の精査に基づいた,建物ごとの最適な判定限界値。利用者の利便性を考えた厳密な限界値の設定は,建築を熟知し地震と向き合ってきた小堀鐸二研究所と当社グループの叡智の結晶だ。しかも対象は建物の構造躯体のみならず,天井などの二次部材や家具,什器に至るまで,揺れの強さに応じた被害の可能性を推定し点検箇所を判断できる。今後,土木構造物に対しても同様に地震後の安全度判定を行えるよう,新たなシステムを現在開発中である。

図版:q-NAVIGATORの仕組み

q-NAVIGATORの仕組み

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応急点検チェックリスト

システムによらず,建築構造の専門家ではない建物管理者などが,自ら目視で建物の安全性を確認するためのツールが「応急点検チェックリスト」だ。これは,建築の専門家による事前の調査に基づいたオーダーメイドのチェックリストで,q-NAVIGATORの判定が黄色信号である“要注意”になった場合のダブルチェック用としても活用できる。

リストは専門知識をもたない人にも使いやすいチャート式になっており,損傷度は判断基準のサンプル画像と照らし合わせて最も似ているものを選ぶ仕組み。迅速な判断を実現するため,点検ポイントは最重要箇所にしぼっている。さらに,システム導入後には応急点検チェックリストの使用訓練を実施するなど,建物管理担当者のリスクリテラシー向上のためのフォローも行っている。

図版:応急点検チェックリストの例

応急点検チェックリストの例。損傷度は上図のような損傷度の例示を参考に,I~Vの5段階で判定する

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Voice

信頼のq-NAVIGATOR

全国に約300棟のビルを所有し,
q-NAVIGATOR(以下,qナビ)の導入を積極的に進めている
日本生命保険相互会社不動産部のお二人に,qナビを選んだ理由と実際に使用しての感想を伺った。

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(左)日本生命保険相互会社 
不動産部 ビル業務推進課長
斎尾正志

(右)日本生命保険相互会社 
不動産部 建築監理課 
建築技術課長
吉田篤史

多くの帰宅困難者が発生した東日本大震災を契機に,災害時に従業員などの建物内待機を可能にする体制の整備を始めました。いくつかの企業が大地震時の建物安全性判断の仕組みを商品化していましたが,高さ60m以下の中小規模ビルに対応しているシステムは導入開始当時qナビしかありませんでした。小堀鐸二研究所というプロフェッショナルが開発した信頼感と,導入コストの経済性から,私たちが保有するすべての中小ビルへの導入を決めました。今年1月の時点で200棟以上に設置が完了しています。

昨年6月の大阪府北部地震の際,私は東京から大阪へ向かう新幹線の車内で発災を知りました。スマホでqナビの判定画面をチェックすると,大阪府内で“要注意”判定となっているビルがあり,即座にビル管理会社に安全確認を依頼しました。多数のビルを所有している立場なので,優先度の判断がすぐにできる点も非常に助かります。結果,管理会社からの要請を受けた設計会社の方が現状調査し,比較的早期に利用者の皆様に建物の安全をアナウンスできました。(斎尾氏)

大阪府北部地震ではqナビを見て,要注意判定のビルにすぐに駆け付けた職員もいましたね。データは不動産部の職員のほか,ビル管理会社も閲覧できるようにしています。管理人が常駐していないビルでは,ビル利用者が自ら確認できるようエントランスにモニターを設置して,qナビの情報を公開しています。信憑性の高い安全情報を瞬時に発信できる,優れたシステムだと思います。

小堀鐸二研究所は長年の研究開発実績に加え,建築の素人の質問にも丁寧かつ的確に答えてくれて,判定結果画面表示に対する希望などユーザーの声にも耳を傾けてくれます。この点もqナビの魅力だと思います。

qナビは建物の変形を感知するシステムですが,じつは築古の中小規模ビルへの適用は高度なノウハウや多くの経験が必要で,簡単なものではありません。地震が起こった後には,qナビの判定値と建物の実際の応答値を見直し,より精度の高い判定結果となるよう調整を重ねてくれています。日々使いやすいシステムへと進化していると感じますね。今後も原則すべての新築ビルに設置していく予定です。(吉田氏)

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図版:ニッセイ永田町ビル

ニッセイ永田町ビル(東京都千代田区)。
エントランスホールのモニターで,ビル利用者がqナビの判定を確認できる

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