日本の国土は世界で60番目の大きさにもかかわらず,世界中の地震の10%,マグニチュード6.0を超える大地震では20%が発生している。ここでは,BCP検討にあたってニーズが高い建物本体および室内の非構造部材の地震対策技術に特化して紹介する。
高い制震技術力
1985年,当社は業界に先駆けて制震構造の実現に向け研究開発に着手し,以後この分野をリードし続けている。制震技術の国内累積適用件数の約1/4は当社の施工によるもので,業界トップの実績だ。保有する多数の独自技術のなかでも新世代制震装置「HiDAX-R®(Revolution)」は,特に高層建物特有の長周期地震動にも効果的に働く制震装置としてその革新性と確かな技術力から,発表翌年には日本産業技術大賞・文部科学大臣賞を受賞するなど高い評価を得ている。
中低層建物向け「D3SKY®-c」
「D3SKY」も当社の誇る技術のひとつ。高層建物の屋上など上層階に超大型のTMD(同調質量ダンパ)を配置して地震力を減衰する仕組みで,居室階の利用を妨げずに改修工事が行える点が大きな特徴だ。2015年に設置完了した「新宿三井ビルディング」(東京都新宿区)の改修でも,入居中のテナントへの負担を最小限に,長周期地震動対策を実現した。
こうしたD3SKYの技術をより多くの建物に適用できるよう進化させた,コンパクト版の「D3SKY-c」が新たに開発された。南海トラフ地震と首都直下地震が発生間近と予測されている今,各地の市街地に立つ高さ30~60m程度の中低層建物の安全性へのニーズはますます高まっている。しかしこれらの建物は,敷地面積の制約から間口の狭いスレンダーな建物になることが多く,既存の制震装置では有効床面積の減少に加えて設置場所が限られてしまうことから,地震への備えがなかなか進んでいないのが実情だ。
D3SKY-cはそんな中低層建物に合わせてサイズとコストを極限まで縮小。屋上の1/4~1/3程度の面積での設置で,各階平面・立面の自由度を損なうことなく耐震性能を高められる。建物の新築・既存を問わずに設置可能だ。
D3SKY-c設置予定のプロジェクト
非構造部材の耐震性能アップ
2007年の新潟県中越沖地震では,自動車部品メーカーの工場が被災したために国内の大手自動車メーカー全12社の操業が停止する事態が発生した。サプライチェーン全体を通じてBCPを強化する必要性を認識した出来事だった。
生産施設は一般的に建物と設備,生産装置が一体となっているため,天井材や設備機器など,非構造部材の落下・転倒が事業の継続性に大きく影響を与える。そうした被害を防ぐため,当社は過去の震災における被害状況検証結果の精査と,当社技術研究所内の大型振動台を用いた非構造部材の破壊実験に基づいた,安全性の高い素材や固定方法のガイドラインを作成している。
生産装置の転倒防止には,置床を使用した部分免震システムによって,装置周辺に働く地震動を大幅にカットする方法もある。建物免震に比べてコストを抑えられ,既存工場においても短期間での改修を可能にする。
大規模施設では仕様変更が総工費に与えるインパクトも大きくなるため,災害対策費用が設備投資や経営を圧迫しないよう考慮しながらの検討が重要だ。当社グループは設計から施工までトータルでコンサルタントし,費用対効果の高い対策を提案している。
自動倉庫の耐震構法
サプライチェーンのなかで重要となるのが倉庫機能。東日本大震災では,地震の揺れで立体自動倉庫内の積荷が崩落したりラックが損傷したため,スタッカークレーン(自動搬送機)が運航できなくなり,倉庫機能が長期間にわたり停止する被害が多発した。
積荷の崩落対策として,脱落防止金物などでラックに固定している場合には,積荷が落下しない代わりにラック本体に設計荷重以上の大きな地震力が加わってしまい,ラックの基礎や柱が損傷,その結果,復旧に多大な時間と労力を必要としてしまう可能性もある。
こういった被害を防ぐため,当社は制震技術を応用し,ラック上の屋根裏空間でラック同士をオイルダンパーでつなぎ地震による揺れを吸収しラックの破損を防ぐシステム「ADS」を開発した。積荷の崩落が懸念されるような大地震を想定したシステムで,震度6クラスの揺れを1/2~2/3に低減。ラックの損傷,積荷の崩落の両方を防ぎ,事業の継続性を大きく向上させる。IoT技術の進歩などを背景に高層自動立体倉庫の増加が予想される現代,この技術をさらに進化させた新技術を開発中である。