ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2019:特集 自然災害リスクとBCP--鹿島グループのソリューション > 予測:リスクの見える化

予測:リスクの見える化

BCP構築の第一歩である「予測」においては,国をはじめとする様々な機関が公開しているハザードマップなどの各種多様な情報を理解し,施設立地の潜在的危険性(ハザード)の評価を適切に行うことが肝要となる。

ハザードの理解――立地特性調査

公的機関が公表している各種被害想定は地盤液状化や浸水といった単一の現象に特化した情報であることが多いが,たとえば集中豪雨による浸水と土砂崩れ,それに伴う交通網の分断といったマルチハザードに視野を広げた場合,実質的な被害の予測にはハザードマップの横断的な理解が必要となる。

そこで,企業の拠点所在地など特定の対象地についての情報を調査・整理した「立地特性調査」が役に立つ。これは地震・津波・液状化危険度・洪水などの自然災害被害想定状況に加え,交通情報,地形といった環境要素のような多種多様なデータを統合した,イー・アール・エスがもつ自然災害リスクマネジメントのノウハウを集結したもの。いわばその場所のリスク管理の基礎資料だ。

新規に施設を建設する場合には,複数の候補地における立地特性調査結果が敷地の比較検討材料としても有効に働く。

図版:公表されている各種被害想定などをもとに,対象地における自然災害ハザードを整理

公表されている各種被害想定などをもとに,対象地における自然災害ハザードを整理

ライフラインの途絶期間予測

立地特性調査には調査項目が多数あるが,なかでも特徴的なものが「ライフラインの途絶期間予測」だ。たとえ自社施設の被害が小さく早期の事業再開が可能な場合でも,電気やガス,上下水道などのインフラが稼働していなければ生産活動やサプライチェーンは維持できない。当社は過去の災害時のインフラ復旧工事のデータを保有しており,災害の大きさによってインフラの復旧にかかる日数予測が可能。長きにわたって復旧工事に力を尽くしてきた経験があるからこそ提供できるサービスだ。

立地特性調査により工場敷地に2つのルートの下水道が通っていることを指摘したうえで,このライフライン途絶期間予測をもとに,より耐震性能の高い下水管を使用している方へ産業排水を流して稼働再開のボトルネックを回避する,といったBCP提案を行った例もある。

改ページ

ハザード耐性の調査と被害想定

集中豪雨時に敷地への浸水が想定された場合,建物の浸水被害の耐性は敷地を嵩上げしているケースと,地下室や地面近くに開口部があるケースではまったく違ってくる。また,施設内の排水ポンプが設置されている位置や高さも,事業継続性に大きく影響する。立地特性調査でハザードを理解した後には,対象施設の性能評価を通してBCPに大きく影響するリスクを具体的に浮かび上がらせていく作業に取り掛かる。

対象施設の性能評価は設計図書のチェックに加え,調査員が現地に赴き実際の建物の様子を確認する「ウォークダウン調査」と,必要に応じて各種解析を組み合わせて行う。解析のメニューには,たとえば,建物に取り付けたセンサーで弱い地震動への応答を観測し,その後解析により導き出す耐震強度診断や,当社が誇る高性能コンピュータ(HPC)による風シミュレーションと風洞実験を組み合わせた数値風洞システムによる強風時の建物外装材および周辺ビル風の影響解析などがある。

このように施設の実情に沿った緻密な調査と解析により,発生が予測される被害の種類と箇所,復旧に要する期間,損失額や,リスクを軽減する対策および優先順位といったリスク評価項目に答えを出し,実効性の高いBCP構築をサポートしている。

被害による影響評価

被害が事業中断に与える影響は,目標復旧期間と想定される復旧予測時間との乖離の程度や,人的被害および二次災害の危険性などから分析を行う。この影響分析に基づき,各評価対象に講じるべき対策を,想定しうるあらゆる場面で機能を維持する「防災対策」,被害を低減するための「減災対策」,早期復旧を図るための「復旧対策」に位置付け,BCP強化策の具体化を推し進める。

当社グループは災害リスクマネジメントの専門家として,個々のニーズに応じて必要な情報をわかりやすく見える化し,対応や対策の検討にあたっては被災・復旧シナリオの作成などを通して,災害予測をイメージしやすいかたちにして伝えることを重視している。

図版:自然災害リスクマネジメントを適切に行うためのフロー

自然災害リスクマネジメントを適切に行うためのフロー

改ページ

リスクの見える化の例

図版:耐震性評価と地震被害想定の取りまとめの例,報告書イメージ

耐震性評価と地震被害想定の
取りまとめの例,報告書イメージ

不具合箇所や想定される被害を現地調査で撮影した写真とともに示し,
被害を軽減する対策方針を示した例

図版:地震被害想定および対策優先度評価イメージ

地震被害想定および
対策優先度評価イメージ

エリアごとや建物ごとの調査結果を集約して一覧表として示すことも可能。
対策優先度の判断に役立つ

改ページ
図版:対策優先度マップのイメージ

対策優先度マップのイメージ

評価結果は一覧表だけでなくマップとして示すことも可能。
敷地の中や施設の中のリスクを予測したマップとしても活用できる

図版:重要製造ラインにおけるボトルネック抽出イメージ

重要製造ラインにおける
ボトルネック抽出イメージ

評価した復旧予測時間で色付けしたマップに,重要製品の製造ラインを重ねたもの。
目標復旧期間の達成を阻むボトルネックが抽出される

改ページ
Topic

ゼネコントップレベルの
高性能コンピュータ

立地特性調査には,地震動,津波,強風,水害などのハザードの調査が不可欠である。ここには当社の高性能コンピュータ(HPC:High Performance Computer)を用いた地震波動伝播解析,津波伝播解析,気流数値解析,内水氾濫解析といった高度な計算の結果が反映されている。現在当社のHPCは国内ゼネコンでトップレベルの処理能力を保有する。この計算機資源を活かして,各種解析技術のさらなる高度化,高精度化を行い,積極的に実務への展開を進めている。

図版:東北地方・太平洋沖地震の波動伝播解析

東北地方・太平洋沖地震の波動伝播解析

図版:東日本大震災の記録から津波伝播解析を用いた最高津波水位の計算例

東日本大震災の記録から津波伝播解析を用いた最高津波水位の計算例

図版:高層建物まわりの気流数値解析

高層建物まわりの気流数値解析

ContentsMarch 2019

ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2019:特集 自然災害リスクとBCP--鹿島グループのソリューション > 予測:リスクの見える化

ページの先頭へ