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KAJIMAダイジェスト

地域と共に そして地球へのメッセージ

飛田給に居を構えて半世紀。
その間に技術研究所は地域になじみ,今やその一部となっている。
建替計画でも,地域に残される緑を継承しながら,
地域に愛される環境に優しい研究所を目指した。

武蔵野の森,多摩川の自然の継承—エコロジカルネットワーク

草花は景観を彩り,野鳥や昆虫は害虫を駆除して花粉を運び果実を実らせる。生物多様性に配慮し,地域生態系を保全することは,地域に様々な利益を生み出す。技術研究所ではこれまで,隣地にある当社社宅「テラハウス飛田給」と併せて緑地を整備してきた。建替計画の中でも「地域と共に」をコンセプトに掲げ,生物多様性の保全をひとつの目的にしている。プロジェクトを推進してきた技術研究所地球環境・バイオグループ高山晴夫上席研究員はいう。「多摩川と武蔵野の森がこのあたりの中心となる緑地ですが,技術研究所はその中間に位置します。エコロジカルネットワークが断絶しないように,外構計画を立てることが地域生態系保全に大きな効果があります」。

だが,緑地の整備は野放図に行うことはできない。構成種を把握し,地域生態系に根ざした計画が必要になる。高山上席研究員は,武蔵野の雑木林の構成種で地域景観をつくっているケヤキ,エノキなどの敷地内の既存大径木を保全。一部社有林樹木を活用し,郷土種による雑木林の復元も試みている。生け垣にはこの地域に多いシラカシやヤブツバキなどを用いた。このほか,鳥類の繁殖状況を確認するために巣箱を設置し,モニタリング調査も実施している。2年前に完成した実験棟に設置した巣箱からは,既にシジュウカラが2度巣立ちに成功した。

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写真:植栽の説明を行う高山晴夫上席研究員

植栽の説明を行う高山晴夫上席研究員

写真:周辺生物調査の様子

周辺生物調査の様子

写真:設置した巣箱を利用するシジュウカラ。現在は巣立ちを終えている

外構計画図

図:外構計画図

図:生息地域

衛星データで生息地域を判別。図はシジュウカラの生息ポテンシャルエリア
32%以上  32〜11.5%

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ヒートアイランド現象から地域を守る

研究棟の植栽の一部には,土壌下部に貯水する構造を用いた緑化技術を採用している。貯水することで,ヒートアイランド現象から地域を守るのが「エバークールガーデン」と「レインガーデン」だ。

エバークールガーデンは屋上緑化用の技術。屋上緑化には,植物や土壌からの蒸発散効果で周囲の気温を下げ,ヒートアイランド現象を緩和する効果がある。しかし灌水後,日数が経過するにつれて土壌水分量が減少し,植物の蒸散量も減少していく。エバークールガーデンは,土壌下部に貯水ができるため土壌水分量の減少を抑制でき,蒸散量を保つことでヒートアイランド現象の緩和効果を強化している。

この技術開発を進めてきた技術研究所地球環境・バイオグループ工藤善上席研究員はいう。「屋上緑化の技術は多いが,蒸発散量に着目しているものは少ない」。国内初の技術だという。土壌下部の貯水には雨水を利用。供給が雨水では追いつかない場合,建物地下に貯水した雨水を利用して灌水を行う。「灌水は底面から給水します。灌水むらが発生しにくく,スプリンクラーと異なり,過剰に灌水することがありません。上水を使用しない仕組みですから節水にも貢献します」。

屋上の植栽には,蒸発散量の多い植物を選定。そのなかから,ミツバチの蜜源となるクローバーやレンゲなどを採用し,生物多様性にも配慮した。屋上では,ニホンミツバチの飼育も行われる予定になっている。

レインガーデンは外構の植栽に採用されている。同様の仕組みで雨水を貯水・利用する。「湿地に近い環境をつくることができるので,あじさいのような水分を好む蒸発散量の多い植物を植えています。ヒートアイランド現象の緩和効果は大きくなります」。

図:エバークールガーデンの断面図

エバークールガーデンの断面図。防根シートの上に遮水シートを敷設して,排水層である土壌下部に貯水する。給水には排水勾配を利用。勾配の最上部で給水を行い,最下部に当たる部分に水位センサーを設置して制御する

写真:研究棟見学者にエバークールガーデンの効果を説明する工藤善上席研究員

研究棟見学者にエバークールガーデンの効果を説明する工藤善上席研究員

写真:屋上緑化にはエバークールガーデンを採用

屋上緑化にはエバークールガーデンを採用

写真:レインガーデン。地中に貯水槽が設けられている

レインガーデン。地中に貯水槽が設けられている

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地域の風物詩——桜

飛田給にきてから半世紀が経つ。その間,商店街に面した敷地西側に植えられた桜は,いつしか地域の風物詩となった。

だが,この桜は建替えに伴い伐採を余儀なくされた。「地域住民から桜を残してほしいという要望もありました。しかし,桜はソメイヨシノ。菌に弱く,寿命も長くありません。調査した結果,移植はできませんでした」(高山上席研究員)。その分,品川通り沿いにはソメイヨシノの桜並木を整備した。「桜は害虫がつきやすく維持管理が大変な植物です。ただ,地域のことを考えて,以前と同じ桜を採用しました」。これまでの半世紀を彩った桜に代わり,新たに整備された桜並木が,これからの半世紀を見守り続ける。

写真:品川通り沿いに新しく整備した桜並木

品川通り沿いに新しく整備した桜並木

「生物多様性保全につながる企業のみどり100選」に認定

「技術研究所飛田給センターおよび周辺社有施設の緑地」が「生物多様性保全につながる企業のみどり100選」に認定されている。これは(財)都市緑化機構(当時:(財)都市緑化基金)が,2010年に開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」に合わせて募集したもので,企業が取り組む身近なみどりの保全・創出・活用の優良な事例を認定した。地球環境を視野に入れた,足元から取り組む生物多様性保全活動を推進することを目的としている。

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