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KAJIMAダイジェスト

SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE11 社会問題を伝えたくなる景観広告(アメリカ)

写真:「この(給水タンク)1杯の水がひとつの村の1年間の生活を支えます」。アフリカへの給水設備の設置を呼び掛ける国際赤十字の広告

「この(給水タンク)1杯の水がひとつの村の1年間の生活を支えます」。アフリカへの給水設備の設置を呼び掛ける国際赤十字の広告

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筆者がランドスケープデザインを学ぶ学生だったころ,ランドスケープアドバタイジング(景観広告)について考えた時期があった。「顔に見える家」や「箱みたいなビル」があるんだから,建物に少し手を加えて都市景観を広告化すればインパクトがあるんじゃないか,と考えたのである。「これはすばらしいアイデアだ!」と思って調べてみると,すでにデザイナーのナガオカケンメイが煙の出る煙突をタバコに見立てたり,丸いガスタンクに小さなシールを貼って卵に見立てたりする広告をたくさん提案していた。

韓国出身のアートディレクター,ジェスキはそれをさらに社会的な課題を認知させるために使った。たとえば,ニューヨークの地下街から地上へ上がる階段にエベレストの写真を貼り付け,「人によってはこの階段がエベレストのようにも感じられる」というフレーズを付け加える。身体が不自由な人のためにエレベータやエスカレータの設置を呼びかけるアメリカ障がい者協会の広告である。あるいは,ビルの屋上に設置された給水タンクの下にアフリカのこどもの姿を組み合わせた写真によって,この水瓶があれば,ひとつの村に住む人たちが1年間水を飲むことができるというメッセージを掲示する。国際赤十字による公共広告だ。

都市景観を利用して社会的な課題を多くの人に認知させるこの発想は,ベネトンの広告を社会的なものに変えたオリビエーロ・トスカーニのものに近い。人種差別問題,エイズ問題,環境問題など,多くの人に知らせて新たな行動を喚起したい問題をわかりやすく広告に表現する。人々が目にする広告を何のために使うのかという問いに対するベネトンの姿勢を,強烈に示した事例といえよう。ジェスキの公共広告は,ナガオカとトスカーニの発想を組み合わせたような特徴を持っている。

ジェスキは広告デザインを学ぶために渡米し,ニューヨークの大学を出た後に広告代理店で働いていた。独立した当初の仕事はほとんどが商業的な広告だった。そのころから,彼のデザインは都市空間を積極的に活用する特徴を持っていた。ここで紹介した広告のアイデアは商業的な広告をデザインしていたころと基本的に同様の発想である。

写真:「人によってはこの階段がエベレストのようにも感じられる」。
地下街の階段に記されたのは,エレベータ設置を呼びかけるアメリカ障がい者協会のメッセージ

「人によってはこの階段がエベレストのようにも感じられる」。地下街の階段に記されたのは,エレベータ設置を呼びかけるアメリカ障がい者協会のメッセージ

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イラク戦争に反対するポスターのデザインでは,ライフルをかまえて敵を狙う兵士の写真を丸い柱に巻きつけ,銃口が自分の後頭部に突きつけられていることを示した。同じく,手榴弾を投げた兵士のポスターは自分の後ろに手榴弾が飛んできていることになり,ミサイルを発射した戦闘機は背後からミサイルが追いかけてくることになる。誰かを攻撃することは,回り回って自分が攻撃されることになるということを,丸い柱を使って表現している。ほかにも,飛び出した水がちょうどアフリカに当たるように世界地図をプリントしたウォータークーラーや,地球温暖化による海水位の上昇を表現した窓のプリントなど,多くの人が目にする場所に社会的な課題を明示するような公共広告をジェスキはたくさん提案している。

普段から目にしているまちの風景に少し別の要素が加わり,そこに効果的なメッセージが込められると,見慣れた風景だからこそ大きなインパクトを持ち得る。ジェスキの公共広告はそのことを感じさせるものだ。

こうしたインパクトを生み出すために,ジェスキは都市空間の特徴を深く読み取る。伝えたいメッセージとその表現,そして都市空間の形態や風景の構造。それらを読み取って,デザインに統合する。イラク戦争反対のポスターは,6ヵ月間考え続けたデザインだという。

写真:「What goes around comes around(自分の行いはいずれ自分に返ってくる)」と記されたイラク戦争反対を呼びかけるポスター。円柱に貼ることで「他者への攻撃が自分への攻撃にもつながる」というメッセージが視覚的に表現される

「What goes around comes around(自分の行いはいずれ自分に返ってくる)」と記されたイラク戦争反対を呼びかけるポスター。円柱に貼ることで「他者への攻撃が自分への攻撃にもつながる」というメッセージが視覚的に表現される

写真:受け皿に世界地図がプリントされたウォータークーラーは,ボタンを押すとちょうどアフリカの位置に水が落ちるようにデザインされている。アフリカへの給水設備の設置を呼びかけるしかけ

受け皿に世界地図がプリントされたウォータークーラーは,ボタンを押すとちょうどアフリカの位置に水が落ちるようにデザインされている。アフリカへの給水設備の設置を呼びかけるしかけ

写真:ビルのシルエットと水面がプリントされたカフェの窓。窓を開けようとスライドすると,ビルが水面に沈むようなグラフィックになっている。地球温暖化に警鐘を鳴らすイメージ広告

ビルのシルエットと水面がプリントされたカフェの窓。窓を開けようとスライドすると,ビルが水面に沈むようなグラフィックになっている。地球温暖化に警鐘を鳴らすイメージ広告

都市空間に登場するこれらの広告は,そのインパクトゆえに多くの人の目を引くだけでなく,携帯電話などによって撮影され,さらに多くの人たちに伝えられる。ブログや動画投稿サイトなどにアップロードされる。こうして,その場にいない人にも伝えたい情報が広がっていくことになる。

ジェスキの景観広告が注目を集めるのは,そこでしか発せられないメッセージでありながら,誰かに知らせたくなる魅力も兼ね備えているからではないだろうか。

写真:歩道に敷かれたグラフィックは,くず入れの利用を呼び掛けるポイ捨て防止のメッセージ広告

歩道に敷かれたグラフィックは,くず入れの利用を呼び掛けるポイ捨て防止のメッセージ広告

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山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。京都造形芸術大学教授。1973年生まれ。
Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。
著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社),『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。
Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

  • ナガオカケンメイ著『ブラボー!すきまな広告』(リブロポート,1997年)
  • オリビエーロ・トスカーニ著,岡元麻理恵訳『広告は私たちに微笑みかける死体』(紀伊國屋書店,1997年)
  • 「特集=広告デザイン2009」『Pen』(2009年3月1日号,阪急コミュニケーションズ)
  • 参考URL

  • Jeskiウェブサイトhttp://www.jeski.org/

写真提供: © Jeski Social Campaign

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