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KAJIMAダイジェスト

知識創造 研究の場のあるべき姿

研究者には,集中できる環境が不可欠。
一方で,活発なコミュニケーションは研究を深化させる。
一見相反する命題をどう取り入れていくか。
建替計画のコアであり,最も重要視されたコンセプトが,知識創造である。

研究に没頭できる執務空間

「研究員全員に個室を与えられないか」。それがプログラミングのスタートだったと振り返るのは,知識創造分野を牽引してきた技術研究所先端・メカトロニクスグループ金子弘幸主任研究員。今日の一般的なオフィス計画は,コミュニケーションを重視した見通しのよい開放的なプラン「オープンフロア型」が主流だ。しかし,研究者には集中・没頭できる環境が必要。「研究施設のオフィス計画には違う解もあるのではないか」と金子主任研究員は,個人活動と協働活動のバランスにこだわり計画を進めた。

まず,書類量調査や空間利用観察から,研究者が快適に活動できる動作範囲・必要諸量を分析し,1.8m×2.4mの個人領域を設定した。十分な収納量の棚(9fm/席)を備え付け,適度な囲われ感のある「研究個席」をつくり上げた。このユニットを並べることで,チーム,グループ,フロアの緩やかな境界を構成できる。アンケート調査やワークショップなどの結果からグループによってワークスタイルが一様ではないこともわかり,パーティション高さや座席配置のバリエーションも複数用意した。パーティション高さを容易に変更できる「個席モックアップ」を使って所員参加の体感調査を実施し,グループ単位で構成要素を選ぶ手法・選択型ワークプレイスを採用した。

※fm ファイルメーター。書類・ファイルの量を表す単位。9fmは,積み上げたときに高さが9mになる書類量を指す。

写真:知識創造のコンセプトを説明する金子弘幸主任研究員

知識創造のコンセプトを説明する金子弘幸主任研究員

イメージ

改ページ

「選択型ワークプレイス」ワークスタイルの多様性に合わせて選択

図:パーティションと棚の高さ

図:座席配置のバリエーション

知識還流の場

「高度化・複合化するニーズに対応していくには,研究者同士が所属や専門分野を超えて協働し,化学反応的に新しい知識を生み続けなければなりません。そのためにも,日常的に発想を刺激し合える “場”が必要なのです」と金子主任研究員はいう。これまで,5つの研究棟に分散していた研究者が1つの棟に集まるだけでも,複合的な研究の進展に期待は高まる。加えて,研究者間の「知のネットワーク」を豊かにすることを目的に「コミュニケーションHUB(ハブ)」を用意した。各フロアの中央部に位置し,研究打合せやコーヒーブレイクに付随する偶発的コミュニケーションなど多様な集いのシーンを想定した多目的スペースである。

 テーブルや椅子はキャスター付きのものを選定し,様々な利用形態に対応できる自由度の高い空間を設定した。スライドさせてつなぎ合わせることで最大幅約5.5mになるふすま型のホワイトボードや掲示板,ドライパントリなども設置している。さらには,研究素材を媒介にした情報交換が新しい発想のヒントになりやすいという仮説から,各研究者が収集したコンテンツ・アイデアを展示する「シーズギャラリー」を試行する。「生の素材・アイデアを研究者同士の交流で大きく育てられたら嬉しいし,実物に触れることで気づくことも多いと思っています」。

こうした計画では,知識創造マネジメントの研究や海外調査で得た知見が参考になっているという。「HUBに魅力的なマグネットをおくことで研究者が集まり,グループ間交流が高まるだろうとオフィスシミュレーションで事前に予測しています。HUBの利用状況を計測し,交流状況のアンケートを取りながら知見を溜めていく予定です」。

オフィス平面図(3F)

オフィス平面図(3F)

写真:「研究個席」。研究者のための個室から発想した執務空間

「研究個席」。研究者のための個室から発想した執務空間

図:実際のオフィスをモニタリングし,交流活動を把握

実際のオフィスをモニタリングし,交流活動を把握

写真:縁側打合せスペース

縁側打合せスペース

写真:オフィスフロアの様子

オフィスフロアの様子

写真:コミュニケーションHUBは,ワークショップやプロジェクト活動,ランチ,懇親会など様々な利用形態に対応できる

コミュニケーションHUBは,ワークショップやプロジェクト活動,ランチ,懇親会など様々な利用形態に対応できる

改ページ

column 秋葉原サテライトラボの共同研究

当社は,2005年6月〜2010年3月の約5年間,研究技術開発用のオフィス「秋葉原サテライトラボ」を設置して研究を行った。

ラボの置かれた秋葉原クロスフィールドには,産学連携を志した先端的研究機関が集まる。各研究機関と交流しながら,将来の建設業の変革につながる様々な研究技術開発を試みた。その中のひとつが,産総研との共同研究「知的生産性向上のための情報技術を活用した次世代ワークプレイス設計技術開発」だ。

この研究は,ナレッジワーカーのオフィス空間利用満足度を計測・評価・改善して,オフィスレイアウトと研究者の行動の関係性を検証。産総研秋葉原オフィスのレイアウトを実際に変更し,技術研究所が利用状況を観察・計測して検証。産総研が観測結果とユーザーの実感からワーカーの行動モデルを構築して研究が進められた。

その中で,打合せスペースが研究者の工作台として利用され,情報交換の場となっていた例など「多義的なスペースが構想以上の効果を生み出す」ことやリーダーの動線に協働作業者との連携の場をデザインすることで,予定外の交流が生じ協働作業の効率が上がったことが確認されており, こうした知見を基に「オフィスシミュレーション技術」が構築されている。

写真:産総研との共同研究の様子

産総研との共同研究の様子

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