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北へ,SENS工法で一直線に掘り進む

北海道新幹線・津軽蓬田(よもぎた)トンネル工事

新幹線を北の大地へ導く北海道新幹線。
本州側の新設区間で最も長いトンネル工事が,津軽半島の山間部を貫き進んでいる。
長距離・高速掘進が可能となった,シールド工法とNATMの利点を併せ持つ
SENS(センス)工法を採用した,最新施工の現場を訪ねた。

地図

工事概要

北海道新幹線・津軽蓬田トンネル工事

場所:
青森県東津軽郡蓬田村
発注者:
(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構
設計:
(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構
規模:
シールド外径11.3m,延長6,190m
工期:
2008年2月〜2014年9月

(東北支店JV施工)

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「砂」の地山を掘る

東北新幹線・新青森駅から陸奥湾に沿って北上した山麓に,当社JVが担当するトンネル工事現場はある。

津軽蓬田トンネルは,2015年度に完成予定の北海道新幹線(新青森—新函館(仮称)間約149km)整備工事のうち,新青森から青函トンネルまでを結ぶ新設区間約29kmの一部。延長6,190m,全区間直線の複線断面トンネルである。

掘削対象エリア全域が,比較的柔らかい砂質土層で,地下水位も高い。津軽半島の枝尾根を縦断するため,深さ最大94mの尾根部から最小5mの沢部もある。切羽が不安定になりやすい地質・地形となっている。この地山で安全性・経済性・施工性を同時に実現する工法として,同じく鉄道・運輸機構発注の東北新幹線・三本木原トンネル(延長4,280m)で初めて採用されたSENS工法を適用した。

図:地質縦断図

地質縦断図

図:SENS工法シールドマシン概要図

SENS工法シールドマシン概要図

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SENS工法という「トンネル工場」

SENS工法では,切羽のシールドマシンから約400m後方にある二次覆工まで多種多様な設備がラインをつくってトンネルを段階的に施工する。シールド工法Shield Tunnelling Method,場所打ちコンクリートExtruded Concrete LiningとNATM(New Austrian Tunnelling Method)を用いたシステムSystemで,シールド工法の安全性と施工性,NATMの経済性を併せ持っている。SENS工法の流れは以下の通り。

1シールドマシンによりトンネル掘削面の切羽の安定を図りながら掘進する。

2並行してシールドマシンのテール部ではセグメントの代わりに,内型枠・妻型枠を用いて地山を支える一次覆工コンクリートを打設し,トンネルを構築。

3一次覆工の安定を計測により確認した後,下部一次コンクリートを打設する。

4移動式インバート桟橋を用いて,下部二次コンクリートを打設する。

5シート台車を用いて,防水シートによる漏水処理の施工を行う。

6移動式型枠(スライドセントル)を用いて,二次覆工コンクリートを施工する。

図:SENS工法の流れ(右へ掘り進む)

SENS工法の流れ(右へ堀り進む)
(画像をクリックすると拡大表示されます。)

津軽蓬田トンネルでは,掘進機構や内型枠などの改善を行い,長距離施工と高速施工に加えて,国内初となる大断面シールドの地上発進を実現した。

機械設備を担当する沼宮内克己課長代理は,工事着手の段階からSENS工法の改良と向き合ってきた一人だ。「シールドマシンやコンクリートの圧送ポンプ,掘削土のベルトコンベアなどすべての機器を精確に統合して管理しなければならない」とシステムの複雑さを強調する。「それでも危険と隣りあわせのトンネル工事を安全で合理的に進めることができるSENS工法は,掘進とコンクリート打設を制御して施工する,最新の“トンネル工場”なのです」と語り,日々の管理・保守と技術の改善にも余念がない。

写真:沼宮内克己課長代理

沼宮内克己課長代理

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写真:コンクリート打設設備

コンクリート打設設備
現場内で製造されたコンクリートを生コン車で搬入し,レミキサでよく混ぜて12台の圧送ポンプ(写真)に自動供給。妻型枠の打設孔から打設する

写真:内型枠

内型枠
シールドマシンより一回り小さい内型枠(写真下)を組み立て,地山との間隙(約33cm)に,一次覆工コンクリートを打設する

写真:妻型枠

妻型枠
地山と内型枠の間,軸方向前面に妻型枠(写真右)がある。12ヵ所の打設孔と面圧計,18本の妻型枠ジャッキで,コンクリート打設を調整する

写真:塞止弁

塞止弁
掘進終了時にコンクリートが固まらないよう,塞止弁を妻型枠に装備し,コンクリート打設孔管内に残ったコンクリートを押し出す

掘進と打設をコントロールする

シールドマシンの掘進によって生じる隙間と同量のコンクリートを精確に制御して打設するSENS工法。掘進と打設が連動するため,1週間を単位とする施工サイクルの中で合理的な連続掘進が求められる。当初計画では,掘進時間24時間と清掃時間10時間で1連続掘進サイクルとし,1週間で4サイクルを回した。現在はサイクル数を減らして,長時間の連続掘進を実現している。

掘進や打設などの管理は,シールドマシンの台車後方にある中央管理室で行う。24時間を3交代制で切り盛りする。打設制御を担当する星野亨工事係は,マシン組立て時から現場に入り,SENS工法の最前線を見守ってきた。「発進当初,施工上のトラブルが多かったのです。生コン打設を常時抱えているので中央管理室から離れられません。タワークレーンと同じで,部屋に8時間入りっぱなしです」と言いながら計器をみつめる。「マシンの型枠の向こう側は見えないし,バイブレータもかけられない。センサや計器の数値だけを頼りに管理しているので,型枠を外してうまくいったときは正直ホッとします」と,管理の重要性をにじませる。「現場の工夫で,掘進・打設のスピードを上げることができたときはうれしかった」。

図:週間施工サイクル

週間施工サイクル

写真:星野亨工事係

星野亨工事係

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震災を乗り越えて中間立坑に到達

3月11日の震災では,津軽蓬田トンネルも少なからず影響を受けた。

「中央管理室にいました。停電で計器類がすべてダウンしたので,非常用照明を頼りにすぐに退避。非常用発電機でとにかく排水を復旧させて,切羽の水没を回避できました」と星野工事係は振り返る。しかし長時間にわたる停電の影響で,打設設備系でコンクリートが固まってしまった。コンクリートを斫るなど復旧作業には5週間かかり,その間掘進は停止して工程の遅延が心配された。

4月18日の掘進再開時点で,中間立坑まで残りの距離520mに対し,工期2.5ヵ月。「これまでの高速掘進に向けた技術開発を踏まえ,前後の機械設備のバランスをとるなど施工管理を強化させて掘進速度の向上を図り,5月18日からの1ヵ月間で337.5mの掘進を達成できました」と沼宮内課長代理は胸をなでおろしていた。

震災前の目標に対し20日程度早い6月21日,7月からの節電期間前に中間立坑に到達することができた。カッタービットの交換などのメンテナンスを終えて,8月30日に再発進。順調にいくと2012年冬期には地上到達の予定である。

写真:中間立坑に到達したシールドマシン

中間立坑に到達したシールドマシン

写真:一次覆工の仕上がり

一次覆工の仕上がり

写真:トンネル内部(二次覆工完了時)

トンネル内部(二次覆工完了時)

写真:集合写真。後ろは発進坑口にある開削トンネル

集合写真。後ろは発進坑口にある開削トンネル

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所長メッセージ 津軽蓬田トンネルJV工事事務所所長 西川幸一

今年3月1日付で赴任し,7月に前任の佐々木孝博所長より交代しました。着任当初から東日本大震災の影響で厳しい現場の状況の中,所員皆が一致協力してがんばっていることを心強く思います。

現場乗込みより今までの試行錯誤・苦労を所員から聞き,当社で初めて取り組む新工法SENS工法で施工する現場の重みを率直に感じました。周辺の環境,地元の皆様,自然環境及びJV構成員・作業員など,根本的にまったく違う現場であるという点で,今まで担当した現場と同様,基本に立ち返って工事管理に臨んでいます。入社以来現場一筋,ダム・造成及び山岳トンネルなど様々な工種を経験してきましたので,少し違った見方ができるかもしれません。

掘進と打設の“二人三脚”の現場では,管理に3交代制という制約がでてくるため,これまでなかなか全員が顔を合わせる機会がありませんでした。これからは現場内のコミュニケーションを積極的にとり,「安全が第一」「がんばろう東北」をスローガンに,月進平均250m以上を目指します。達成の折には全員で懇親を深めたい,とささやかな思いを温めています。

写真:マシン内で震災時の状況を語る西川幸一所長

マシン内で震災時の状況を語る西川幸一所長

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