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Chapter1 継続は“知財の力”なり

技術立社を標榜する当社は,土木,建築,防災,環境など様々な分野で,新たな技術を生み出し,培ってきた。
これらの技術は,まさに当社の知的財産であり,事業活動の土台となっている。
長年にわたり優位性を確保してきた事例に焦点をあて,第三者が模倣できない,強い知的財産とは何かを探る。

原理を特許で抑える CASE1:HiDAX(ハイダックス)

当社が,世界初の制震ビルを実用化してから23年。保有する制震構造関連の特許は,50を超える。制震構造には様々な分類があるが,風揺れから大地震まで大きな効果が期待できるのが,オイルダンパーを柱,梁,ブレースの間に設置する方法である。当社は,1993年に大規模建物用として世界初のオイルダンパー「HiDAM(ハイダム)(登録商標:5182057,保有特許多数)」を開発して以来,多くのオイルダンパーを世に送り出している。

振動制御効果2倍を実現する原理

従来型オイルダンパー(HiDAM)は,地震力を,ダンパー内の油が弁を通過するときの抵抗力により吸収する仕組みである。この抵抗力を電気制御し,減衰効果を2倍に高めたのが「HiDAX(登録商標:4459242,保有特許多数)」。知的財産としてのポイントは,その制御方法にある。「地震の揺れによりブレースに最大限エネルギーが蓄えられた時,つまり振動の折り返し点で,制御弁を開くことにより,エネルギーの吸収効率を非常に高める仕組みになっています。このシンプルな原理のみで特許を取得したことが強み」とHiDAM,HiDAXの発明者である建築設計本部構造設計統括グループの栗野治彦グループリーダーは明かす。オイルダンパーを使って,最大の効果を発揮するには,この方法しかない。その原理を特許化したことが,これまで他社の追従を許さない秘訣だという。

さらなる進化を遂げる

停電になった場合,「HiDAX」は従来型のオイルダンパーとして機能する仕組みとなっている。しかし,いかなる時にも最大限の効果を発揮させたいという思いが,新たな発明を生み,新たな特許を持つことになる。ダンパー内部の油圧を活用した制御弁の制御方法を発明し,電気を一切使用せずにHiDAXと同じ制御を行える「HiDAX-e(ハイダックスエコ)(保有特許多数)」を2004年に開発・実用化した。

これまで,HiDAM,HiDAXなど当社のオイルダンパーは,約70棟の建物に適用し,世界で最も使われている制震装置と言っても過言ではない。

写真:最新のHiDAXを適用した日本橋三井タワー

最新のHiDAXを適用した日本橋三井タワー(東京都中央区)。制震構造技術は,1960年に当時京都大学の小堀鐸二博士(元当社最高技術顧問)らにより提案された。その後,当社は1985年に小堀鐸二研究室を創設。4年後には世界初の制震ビルを実用化し,現在,国内の制震構造ビル約800棟のうち1/4に関連している

写真:オイルダンパーを柱,梁,ブレースの間に設置する方法(層間ダンパー)

オイルダンパーを柱,梁,ブレースの間に設置する方法(層間ダンパー)。風揺れから大地震まで大きな効果が期待できる。制震構造の開発当初から,その可能性に注目し,1990年には,建物の揺れに合わせてブレースを有効にしたり無効にしたりできる油圧装置を開発し,技術研究所西調布実験場21号館に適用。そのノウハウが, HiDAM,HiDAXへと引き継がれた

写真:HiDAX-eの概念図

HiDAX-eの概念図。電気を一切使用しない完全自動式のパッシブオイルダンパー。左右の油圧室を連結する流路の中央に開閉弁が組み込まれ,その上部にオイルの圧力を蓄えるバッファとラムネのビー玉のような逆止弁が配置されている。この二つの部品により,ブレースに最大限のエネルギーが蓄えられた時に,自動的にダンパーがエネルギーを吸収する仕組みを実現した

企業秘密とスパイラルアップで護る CASE2:ICT施工管理システム

近年,各企業が保有する独自技術の提案が工事入手の鍵となっている。当社は,数多くの保有技術を提案し,技術点でトップレベルを維持。その中でも,特に優位性を確保している技術がICT施工管理システムと呼ばれる3D-CADとICT施工を連携させたシステムである。3D-CAD上に設計図面,施工図面を展開して,これをベースに,GPSなどを活用してICT施工を支援するシステムで,施工の効率化や省力化を実現する。

当社が土木工事に3次元データを活用したのは約20年前。2001年にシステムとしてIT土工管理システムを完成させ,これまでダム工事を中心に大規模現場での実績は30件以上を誇っている。

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写真:湯西川ダム(栃木県日光市)にはICT施工管理システムの技術が適用された

湯西川ダム(栃木県日光市)にはICT施工管理システムの技術が適用された

写真:10月6日に完成式が行われた湯西川ダム全景

10月6日に完成式が行われた湯西川ダム全景。RCD工法や巡航RCD工法など新技術を積極的に取り入れ,超高速施工を実現した

模倣されないコアを持つ

3D-CADシステム,測量や重機の計器,システム類は全て市販品が使われている。では,このシステムの知的財産としての価値はどこにあるのだろうか。「単に市販品を組み合わせたのではなく,独自のシステムが心臓部にある」と胆沢ダム(岩手県奥州市)でICT施工管理システムを活用してきた高田悦久執行役員・土木管理本部副本部長は強調する。

しかし,システムを形成するプログラムは特許権で独占的な権利を得て活用することが難しい。そのため,企業秘密として,社外に公開しない戦略をとり,隠すことで保護を続けている。

図:ICT施工管理システム概要図

ICT施工管理システム概要図
設計図面,施工図面に3D-CAD上で3次元モデリングし,このデータを活用して施工で利用する様々なサブシステムに展開する

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ノウハウの蓄積とスパイラルアップでさらに強く

施工関連のシステムは,使わなければ数年経つと陳腐化してしまう。約20年間,30現場以上で使い続けた運用ノウハウの蓄積は,目に見えない知的財産となっている。

また,使いながら必要な機能を追加し,時代毎にタブレット型GPS端末などの最新機器を使えるようにスパイラルアップされ,さらに強い知的財産を育む。宮城県で実施中の石巻ブロック災害廃棄物処理業務に適用した「スマートG-Safe」(商標出願中)もICT施工管理システムの技術を応用したものである。

継続する文化を育む

CASE1は特許権,CASE2は企業秘密とスパイラルアップというかたちで知的財産を保護してきた。手法は異なるが,世の中に,まだ無い技術開発に挑戦し,その技術を長く使い続け,成長させてきた点では共通している。単品受注生産となる建設業では,技術開発も現場毎に単品受注的になることもあるが,「継続する文化を必ず根付かせる」という高田執行役員の言葉は,強い知的財産を保有する鍵となりそうだ。

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