政府が知的財産戦略大綱を取りまとめてから10年。「知財のグローバル化」「知財戦略」「知財高裁」など,
知的財産に関するニュースを多く目にするようになった。今年5月には,日本企業の技術が海外に流出するのを防ぎ,
日本の国際競争力を高めるための「知的財産推進計画2012」が策定された。
当社においても,グローバル社会での事業展開を見据え,海外への特許出願が増えている。
また,資機材の海外調達により他社権利を侵害しないための対策を積極的に講じるなど,コンプライアンスの観点からも
社員教育を充実させた。知的財産を取り巻く環境が大きく変動する今,知的財産が持つ“力”を再認識し,
当社の知的財産戦略を探る。
企業の知的財産とは
企業にとっての知的財産というと「特許」をイメージする人が多いだろう。しかし,知的財産基本法では「発明,考案,植物の新品種,意匠,著作物等その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(中略),営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」と定義され,その範囲は広い。労力やコスト,時間をかけて創られる事業活動の根幹と言っても良い企業の無形財産だ。この知的財産を第三者による模倣から護るには,大きく2つの方法がある。侵害自体を不可能とする方法と独占的な権利を認める方法である。前者により保護されるのが事業活動に有用な技術,情報,ノウハウなどの企業秘密で,後者により保護されるのが特許権や著作権などの知的財産権である。
知的財産権のうち,産業振興を目的に認められるのが産業財産権と呼ばれ,特許権,実用新案権,意匠権,商標権を指す。特許庁への出願手続,審査などを受けることにより,知的財産を保護し独占的な権利を得ることができる。
一方で,文化・芸術の創作活動を保護することを目的にしているのが著作権。創作と同時に発生する権利である。
意識改革がイノベーションを生む
知的財産部長を任されたのが昨年4月。ちょうど公共工事の入札において総合評価方式が定着した頃です。各企業が持つ技術力が工事入手の大きな要因となり,知的財産戦略を問われた大きな転換期でした。
まず取り掛かったのは,知的財産部内の意識改革です。“知的財産で社業に貢献することこそが最大のミッション”と再認識してもらい,全ての業務を遂行する際のビジョンとしました。そのことが,技術者からの依頼をもとに特許を取得する“特許製造部署”から,知的財産の活かし方を考える“知財コンサル部署”へと組織的なイノベーションをもたらしたのです。
広い視野で知的財産を見る
今,最も重視しているのは受注確保,利益向上を目的とした事業部門との連携強化です。工事入手に必要な技術は何か?利益向上を創出させるための戦略は何か?というニーズを知らなくては,どの技術を知的財産として守り,そして何を差別化技術とすべきかを捉えることができないからです。
もちろん,技術開発の成果として,特許権など知的財産権の取得や,関連する技術契約などを活用した競争力強化も重要であり,これらについては,これまで通り継続して行っています。
要は,知的財産部は,当社の知的財産を,事業戦略に合致するように,いかに作り,いかに活用するのかを“プロの目で積極的に支援する”という事になります。
例えば,特許分析では,社内外の建設業界に関わる特許を精査し,自社や他社の強み弱みを分析することで,技術開発戦略や営業戦略の意思決定に役立ててもらっています。
また,知的財産を俯瞰することで,特許権以外にも商標などの取得や,他社権利の監視,回避,無力化,活用及び独占的な契約締結などを事業部門に提案し,事業展開に活かしてもらっています。この提案こそが,ビジネスシーンにおける知的財産の活用そのものであり,受注貢献や業績向上に結びつき,鹿島グループの力となるからです。
グローバル社会への対応
もう一つ対処すべき大きな時流があります。顧客企業の海外進出,輸入資機材の増加などに伴い,国境を越えた複数の国で知的財産戦略を思考する必要性が急速に高まっています。事業部門とともに海外マーケットにおけるビジネスに合わせ,必要に応じて,海外で特許権を取得し,保有技術の保護を急いでいます。
また,全国の建設現場では,海外の資機材を輸入するケースも増えてきています。国内メーカーなどが持つ知的財産権を侵害している製品を輸入した場合,知的財産侵害物品として処罰されますので,各部門・部署との連絡を密にして,リスク管理を徹底しています。
知財ポテンシャルを引き出す
当部署では,社員・グループ社員を対象にした知的財産に関する集合教育やイントラネットを利用した情報発信を積極的に行っています。これは特許権や著作権について正しい知識を得てもらい,権利侵害などの知財リスクを低減することが狙いです。
事業部門との連携について話しましたが,部門を構成するのは,社員一人ひとりです。“あなたのアイデアが『技術の鹿島』を支えています”をモットーに,全社員・全グループ社員との連携を深め,鹿島グループが持つ知的財産のポテンシャルを引き出して,“知財の力”を最大限発揮できる組織を目指していきます。