現在,多くの国内企業が海外へ生産をシフトさせ,技術移転が進む。
その潮流は,建設業界にもグローバル化の波として押し寄せ,当社の知的財産を取り巻く環境を大きく変化させている。
特に環境・エンジニアリング分野では,太平洋諸国・アジア地域での新たなビジネスを見据え,海外への特許の出願が増加。
グローバル社会での知的財産戦略を追った。
医薬品施設のエンジニアリングを海外へ
近年,医薬品市場で注目されているのがバイオ製剤,ワクチン,抗生物質,抗がん剤などの太平洋諸国・アジア地域での需要増だ。
医薬品施設を建設する際に不可欠なエンジニアリング技術は,施設内外を遮断して,薬効成分を施設外に流出させないこと。当社は,これらの技術を数多く保有し,国内の医薬品施設への豊富な適用実績を誇る。
そして今,これらの技術を海外展開する試みが始まっている。その一つが,当社が保有する特許・ノウハウ「排水・不活化ユニット」を海外に展開する新たなビジネスモデルの構築である。
この特許は,医薬品施設からの排水を無害化(不活化)する技術で,従来はウイルスや細菌などを一定量溜めて熱処理を行い不活化していたが,連続的に処理することでエネルギー使用量を約1/5にすることが可能になった。また,標準化・ユニット化したことにより,品質確保が容易にできるのも特長である。
“特許審査ハイウェイ”を活用
これまで当社は国内で「排水・不活化ユニット」の特許権を活用して,様々な案件に対応してきた。現在進行中のプロジェクトでは,本技術の特許・ノウハウを中国での事業展開に限定して,日本メーカーT社に実施許諾するライセンス契約を締結し,技術支援も行う。近い将来,T社が中国メーカーと設立準備中の合弁会社が,中国内の医薬品工場やその他の生産施設へ「排水・不活化ユニット」を製造販売する。
この時,課題となったのが中国での特許出願だ。中国領土では日本国内の特許権は効力がなく,しかも通常手続で特許を出願するには長時間を要するため,“特許審査ハイウェイ”という制度を活用。現在,中国において特許を出願中である。
特許審査ハイウェイ(PPH:Patent Prosecution Highway)とは,世界の特許出願総数が増加の一途をたどる中,国際的な特許の審査手続きを効率化するための制度である。各国の特許庁により実施された技術調査と審査結果をお互いに利用し,優先的に早期の審査を実施して,特許審査のスピードを上げる。例えば,日本で特許庁が審査を行った特許について,米国でPPHを利用して出願すると,日本での審査結果を活用して効率的に米国で特許権を取得することができる。現在,日本を含めて24カ国とのネットワークが構築されている(2012年2月時点)。