セメント,コンクリート,石材,木材,鉄鋼材,非鉄金属材,ガラス材――
ダムやトンネル,橋梁,超高層ビル,大空間建築などは,様々な材料から造られる。
しかし,材料が生み出すものは建造物だけでなく,数多くの知的財産も創出している。
これは一つの知的財産が生まれたエピソードである。
知的財産の生みの親
ECC(高靱性繊維補強セメント複合材料)という,金属に匹敵する変形性能を持つ画期的な材料がある。この非常に細い有機性繊維で補強された材料は, 橋梁床板から,構造物の補修・補強,道路橋のジョイント部,マンションの制震ダンパなど用途は多種多様だ。当社は,素材メーカーと共に材料の開発段階から関わり,建設分野で実用化するための研究開発を続け,次々に適用範囲を広げてきた。そして数多くの特許を生み,現在ECC関連の特許権は18を数える。
ECCを使った制震ダンパと新構造
その中で,「Reinforced ECCダンパ」と呼ばれるECCを使った制震ダンパは,ふとした偶然から生まれた。
9年前,新材料の公開実験が当社技術研究所(東京都調布市)で行われていた。ECCの実験とは知らずに,たまたま実験を見ていたのが,建築設計本部構造設計統括グループの山本幸正統括グループリーダーである。瞬間的に「すごいものがある」と感じたという。実施設計中の高層マンションに適用できると考え,すぐさま案件の担当者である同グループの河野賢一グループリーダーに検討を依頼した。その感覚は間違っていなかった。
当社の固有技術であるスーパーRCフレーム構法(保有特許多数)の大型梁と制震装置のかわりに,ECCの変形性能をダンパとして利用する新たな制震構造を考案。高層マンションの施工性・コスト面を大きく進化させた。偶然が,「Reinforced ECCダンパ」を生み,世界初の新しい構造形式(NewスーパーRCフレーム構法)を誕生させたのだ。
ECCが生んだ副産物
ECCに材料開発から関わってきた技術研究所建築生産グループの閑田徹志上席研究員は,「様々な分野の技術者の知的好奇心を刺激する材料」だと話す。ECCを開発してから人的ネットワークが広がり,他分野の研究者,技術者との交流が活発になったという閑田上席研究員。この「人の輪」も価値ある知的財産である。