長津田駅北口地区市街地再開発事業
施設建築物新築工事
横浜市の主要ターミナル駅のひとつ,長津田駅。
ここでは今,30年かけて計画された再開発事業が進行中で,
高さ100mに迫る超高層タワーマンションを中心にした複合施設の施工を当社JVが手がける。
来年3月に竣工を控え,現場はいよいよ佳境に突入した。
【工事概要】
長津田駅北口地区市街地再開発事業
施設建築物新築工事
- 場所:
- 横浜市緑区
- 発注者:
- 横浜市住宅供給公社
- 設計:
- 梓設計・当社建築設計本部
- 監理:
- 梓設計
- 用途:
- 共同住宅・商業施設(a棟)/商業施設・駐車場(b棟)/文化施設(c棟)
- 規模:
- a棟―RC造 B1,28F,PH2F 209戸/b棟―S造 B1,4F/c棟―SRC造 B1,3F 334席 総延べ44,904m2
- 工期:
- 2010年12月~2013年3月
(横浜支店JV施工)
再開発の特殊性
長津田駅は,JR横浜線と東急田園都市線・こどもの国線が乗り入れ,一日あたり12万人の乗降客が利用する横浜市北部の主要ターミナル駅。横浜駅まで20分,渋谷駅まで30分と鉄道交通の利便性が高く,ベッドタウンとしても人気がある。だが,駅周辺の道路や駅前広場などが整備されずに市街地が形成されたため,交通安全や防災上の不備が課題になっていた。こうして浮上したのが市街地の再開発計画で,地域再開発研究会の発足は1981年まで遡る。以降,数々の協議が行われ,2009年に事業計画が認可された。実に30年近い年月を重ねて計画が練られたことになる。
再開発事業では,駅前広場や道路,駐輪場などの基盤整備と商業や住宅,文化施設などの機能を集積させた複合市街地を形成する。このうち当社JVは駅北口から徒歩1分の計画地に,高さ100mに迫る超高層マンションを中心として,商業施設と区民文化センターの施工を進めている。2010年に始まった工事は,既に躯体が完成しており,高層建築物が少ないこの地域では,オープン前からランドマーク的な存在感を示している。現在,商業施設と区民文化センターの仕上げ工事と並行してマンションの内装工事が行われており,下層階では社内検査も始まったところだ。
「我々はリレーでいえばアンカーになる。再開発事業をきれいに締めくくれるように,最後までしっかりと走り抜きたい」というのは,現場を統括する佐藤博所長。これまでにいくつものマンション工事を手がけてきた佐藤所長が重視しているのが,近隣住民との良好な関係づくりである。「工事のトラブルが原因で,地域住民とマンション居住者の間に溝ができてしまう可能性もある。両者の架け橋になるという思いで作業を進めています」。地元の自治会との毎月の連絡会や,現場周辺の清掃を通じて近隣住民とのコミュニケーションを図っているほか,地域のまちづくり協議会と連携しながら近隣住民向け現場見学会も過去に3回行った。長い年月をかけて育んできた計画だけに地域の注目度も高く,見学会には毎回400名ほどが参加して好評を博している。こうした開かれた現場運営により,近隣住民と良好な関係が築けている。
技術提案と工期短縮
この工事は,技術提案型総合評価方式で入札が行われた。当社は様々な要素と施工合理化などを駆使して3ヵ月の工期短縮を提案している。なかでも高く評価されたのが建築設計本部と連携し提案した「スーパーRCフレーム構法」。当社が開発した超高層フリープランハウジングで多数の実績をもつこの構法は,柱を建物の中心部に壁状に集め,梁を超高層頂部に集約して建物の荷重などを受け止める。床はコア壁と外周の柱・梁が支えるため,居住空間から柱と梁が消えて広く自由な空間を生み出す。この商品性が高評価をもたらした。
躯体工事は,外周部に工場で製作した柱・梁を用い,コア壁と床部分を現場コンクリート打設で施工していく。施工合理化で特徴的なのが,特許出願済のリフトアップ工法の採用だ。「1フロア5日サイクルで進めるために,コア壁の中に構築する立体駐車場の鉄骨にリフトアップ工法を採用したのです」と説明するのは,マンション工事を指揮する藤原一郎工事課長。リフトアップ工法は,最上段より組み立てた立体駐車場の鉄骨を,躯体の構築に合わせて階高分ジャッキアップし,下部にできた空間に鉄骨を入れ込んでいく工法。立駐鉄骨の上部には,躯体作業用の足場とコア壁型枠のせり上げのための小型クレーンが設置される。コア壁構築のための仮設低減が図れ,閉ざされた空間での鉄骨揚重と高所作業がなくなり,効率的で安全な作業が可能になる。「問題は,コア壁と床部分で作業床の高さが変わることでしたが,鉄骨の長さを基準階の階高に合わせることでなんとか克服しました。施工前からリフトアップ工法の採用を決めていたので,計画時にうまく鉄骨の長さを調整できたのです」と藤原課長。降雪と強風で作業を中止した3日以外は5日サイクルで工事が進捗したという。
施工合理化について佐藤所長は,設備の施工でも効果があったと強調する。「計画から2人の設備課長に常駐してもらったのが大きかった」。その2人が荒川和之設備課長と大山淳平設備課長である。「計画時に建築管理本部や支店,他現場と連絡を密にとり,鹿島の総合力を活用して,多くの合理化を導入しました」というのは荒川課長。2人が経験したことがないものも含め,現場に採用できそうなものはすべて取り入れたという。大山課長は「設備工事は,工事後半に集中してしまう。早い時期にできるものは早く行えるよう計画し,作業人員を山崩ししました」と話す。2人の緻密な計画が,工事進捗を支えた。
発注者とつくり込む
マンションでは,最終的に居住者が生活する場になるため,仕上げ工事の要求品質は高くなる。工事を執り仕切る松岡忠義副所長は,“発注者と一緒につくり込む”ことを大切にしていると話す。「発注者の横浜市住宅供給公社は,竣工後の管理まで一貫して行っていく。それだけに品質に対して非常に厳しい目をもっています。お互いが納得するように,戸境壁や断熱,間仕切り下地など工事途中の段階で,発注者・監理者とともに検査を行いながら工事を進めてきました」。
工事中でも,発注者と議論を重ねながら,居住者の満足度を高める提案を繰り返してきた。傷のつきにくいクロスの採用や仕上げ材のひび割れ予防に目地を多く設けるなど様々な分野で工夫を施した。トラブルになりやすい他住戸への音の伝搬にも注意を払った。生活音が響かないようドアの配置変更を提案し,キッチンドアの開閉部には音を吸収する金具を取り付けている。「住む方に快適に暮らしてほしいという気持ちで進めてきました。きっと満足頂けると思います」(松岡副所長)。
現場では,今年の9月から社内検査が始まっている。検査が度重なり行われるのもマンションならではの工程だ。社内検査に始まり,次いで発注者の検査,最後にマンションを購入したエンドユーザーの内覧会と続く。社内検査は,より居住者に近い視点で行うために事務の倉光麻利子さんと青木雅子さんにも参加してもらっている。「自分の家だという気持ちでみています」という2人は,1部屋あたり2時間ほどかけて検査を行う。内装の傷や汚れなど100ヵ所近いチェックがでることも珍しくない。「内覧会で指摘がでないくらい,検査も徹底していきたい」と松岡副所長。内覧会は来年の2月から開始される予定だ。
今年4月,施設の名称が「長津田マークタウン」に決まり,マンション名は「マークワンタワー長津田」に決定した。住戸は既に完売。来年春のグランドオープンに向けて,現場は懸命に作業を続けている。